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二日目 その8
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わたしは大きなレジ袋を二つ、姫は小さなレジ袋を一つ、それぞれ提げている。行きと比べて風が強まったわけではないが、橋を渡る姫は少しつらそうだ。
「大丈夫? 持とうか?」
「へいき。おもくないし」
声の調子からは、いくら無理をしている様子が窺える。子どもらしい強がりと思いやりを、尊く、かわいいと思う。
帰ったら、ご褒美におやつを出してあげよう。フルーツポンチを「おいしい」と言っていたから、甘いものならきっと気に入ってくれるはずだ。
「いきもの、いないね」
橋を渡りきってすぐ、姫がわたしに向かって言った。
「ああ、川のことね。探したけどいなかったんだ?」
うなずく。荷物の重さに気をとられているせいだろう、帰りはそうでもなかったが、行きは熱心に川を覗きこんでいた。
「水質はきれいだし、一匹も棲んでいないわけじゃないと思うけどね。でも、橋の上から見つけるのは難しいかもしれない」
「ナツキも見たことないの?」
「うん。生き物を探すために川を見ること自体、あまりないから。さっきの川とは別に、首長竜が住んでいる川があるんだけど、その近くを通るときには少し気にするかもしれない」
「くびながりゅう? なにそれ」
「文字どおり、首が長い恐竜だよ。わたしも何回か見たことあるけど、大きかったよ。信じられないくらい大きかった。動きは緩慢なんだけど――」
姫の唇が固く結ばれていることに気がつき、言葉を切る。
「怖い? 大きな恐竜」
「わからない。だって、まだ見てないし」
「それもそうだね。姫は首長竜、見たい? 温厚な性格だから、見るだけなら危険じゃないよ」
「うーん、でも……」
「やっぱり怖いよね。大人しかろうがなんだろうが、大きな生き物は」
「おおとりとどっちが大きいの?」
「断然首長竜だね。大鳥は大きいといっても、しょせんは鳥だから」
「大きなとりなのに、おおとりのほうが小さいんだ。へんなの」
「そう言われてみれば、そうだね。首長竜だって、他にもっと首が長い生き物がいるかもしれない」
「くびながりゅうのくびって、どれくらい長いの?」
「十メートルくらいだと思うけど、数字を言われてもピンと来ないかな。なにと同じくらいなんだろうね、十メートルって。……うーん、難しい」
自宅に帰り着くまでのあいだ、わたしたちは首長竜のことばかり話した。
「大丈夫? 持とうか?」
「へいき。おもくないし」
声の調子からは、いくら無理をしている様子が窺える。子どもらしい強がりと思いやりを、尊く、かわいいと思う。
帰ったら、ご褒美におやつを出してあげよう。フルーツポンチを「おいしい」と言っていたから、甘いものならきっと気に入ってくれるはずだ。
「いきもの、いないね」
橋を渡りきってすぐ、姫がわたしに向かって言った。
「ああ、川のことね。探したけどいなかったんだ?」
うなずく。荷物の重さに気をとられているせいだろう、帰りはそうでもなかったが、行きは熱心に川を覗きこんでいた。
「水質はきれいだし、一匹も棲んでいないわけじゃないと思うけどね。でも、橋の上から見つけるのは難しいかもしれない」
「ナツキも見たことないの?」
「うん。生き物を探すために川を見ること自体、あまりないから。さっきの川とは別に、首長竜が住んでいる川があるんだけど、その近くを通るときには少し気にするかもしれない」
「くびながりゅう? なにそれ」
「文字どおり、首が長い恐竜だよ。わたしも何回か見たことあるけど、大きかったよ。信じられないくらい大きかった。動きは緩慢なんだけど――」
姫の唇が固く結ばれていることに気がつき、言葉を切る。
「怖い? 大きな恐竜」
「わからない。だって、まだ見てないし」
「それもそうだね。姫は首長竜、見たい? 温厚な性格だから、見るだけなら危険じゃないよ」
「うーん、でも……」
「やっぱり怖いよね。大人しかろうがなんだろうが、大きな生き物は」
「おおとりとどっちが大きいの?」
「断然首長竜だね。大鳥は大きいといっても、しょせんは鳥だから」
「大きなとりなのに、おおとりのほうが小さいんだ。へんなの」
「そう言われてみれば、そうだね。首長竜だって、他にもっと首が長い生き物がいるかもしれない」
「くびながりゅうのくびって、どれくらい長いの?」
「十メートルくらいだと思うけど、数字を言われてもピンと来ないかな。なにと同じくらいなんだろうね、十メートルって。……うーん、難しい」
自宅に帰り着くまでのあいだ、わたしたちは首長竜のことばかり話した。
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