塵埃抄

水色の雨傘を差して

　Ａさん。
　僕がこうして、あなたに手紙を差し上げたのは、あなたに謝っておきたいことがあるからです。
　謝りたいこととは、僕があなたに逢うたびに、違った態度であなたに接していたことです。
　久しぶりに逢った時は、あなたを待ち侘びていたと言ったくせに、毎日のように顔を合わせるようになると、あなたのことを鬱陶しがりましたよね。心が晴れ渡っていた日にあなたが訪れた時は、早く帰ってほしいような素振りを見せました。沈んだ気分の日にあなたが逢いに来た時には、顔も見たくないと言ったことさえありましたね。
　僕はこれまで、あなたの気持ちを想像する努力をしてきませんでした。そんな僕を、今さらなにを、とあなたは眉をひそめるかもしれませんが、どうか許してほしいのです。
　Ａさん。
　誰があなたになにを言おうと、誰があなたのことをどう思っていようと、あなたはあなたです。自分が逢いに行きたいと思った時に、その人に逢いに行く。そのスタイルを、あなたは堂々と貫くべきです。
　Ａさん。
　僕は知っていますよ。あなたの流すその雫は、涙ではなくて、少なくともあなたにとっては涙ではなくて、想いを伝える手段の一つなのだと。
　そのことを知ったのを境に、Ａさん、僕はあなたのことが、前よりももっと好きになったのですよ。
　ああ、そうそう。書き忘れるところでした。
　最近、とても可愛らしい、水色の雨傘を衝動買いしました。また近いうちに、それを差して、今度は僕の方からあなたに逢いに行きたいと考えています。
　心根の優しいあなたのことです。きっと歓迎してくれますよね？