163 / 200
嫌になった話
しおりを挟む
「仕事が休みだったから起きるのは遅かったんだけど、昼飯まではまだ時間があったから、とりあえず朝飯でも食おうかってことで、食事の準備をしていたんだ。ライ麦パンにインスタントのコーヒーをね。そうしたらいきなり携帯電話が鳴ったんだ。コーヒーを淹れ終え、ライ麦パンをトースターにセットしたタイミングで。俺は嫌になったよ。日曜日の朝に電話をかけてくる奴にろくな奴はいないと相場が決まっているからね。画面を見ると、案の定、知らない電話番号でね。嫌になったけど、トースターのスイッチを捻って電話に出たよ。着信音がうるさかったし、どうせライ麦パンが焼けるまで待たなきゃいけないからね。聞こえてきたのは女の声で、『筧くん? 久しぶりー』なんて言う。いかにも俺は筧だが、こっちが返事をしてもいないのに『久しぶりー』だなんて、どう考えてもろくな奴じゃない。それにしても、この女は誰なんだ? 問おうとしたら、『中二の時に筧くんと同じクラスだった、コニシナホです』と女は名乗った。コニシナホ。俺の初恋の相手だ。彼女が県外の高校に進学したから、中学卒業と共に縁はぷっつり切れたけど、当時は友達以上恋人未満の関係で、デートの真似事も何回かした。俺は喜びを抑えきれなかったね。だって初恋の相手がわざわざ電話してきたんだぜ? いくつか訊きたいことがあったから、質問をぶつけようとしたんだよ。そうしたら『一か月後に結婚式を挙げることが決まったので、よければ出席してください』なんて言うじゃないか。頭が真っ白になるとはあのことだね。後日招待状を送るから返事はその時に、なんて伝達事項を言うだけ言って、コニシナホはさっさと電話を切ったんだけど、俺は呆然となったね。だって初恋の相手が結婚するんだぜ? トースターが鳴ったのが聞こえたから、我に返ってライ麦パンを取り出したんだけど、どうなっていたと思う? 真っ黒に焦げているじゃないか。俺は嫌になったね。なにもかも嫌になったよ」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
隣の人妻としているいけないこと
ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。
そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。
しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。
彼女の夫がしかけたものと思われ…
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる