塵埃抄

阿波野治

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今日はホワイトデー

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「ねえ、今日はなんの日か分かる?」
 恋人の加奈子が唐突に訊いてきた。クイズの答えは、カレンダーを見てすぐに分かった。
「バレンタインデー?」
「うん、正解」
 いつもの加奈子なら、ここで後ろ手に隠し持っていたチョコを登場させるのだけど、今年はそれがない。怪訝に思っていると、加奈子は意味不明な言葉を口走った。
「今年は逆チョコが流行ってるらしいよ」
「逆チョコ? なにそれ」
「普通とは逆に、バレンタインデーに男が女にチョコをあげて、ホワイトデーに女が男にお返しをするの。私たちもやってみない?」
 妙な流行があるものだと思ったが、チョコを受け渡す順序が逆になるだけなのだから、なんの不都合もあるまい。
「分かった。今年はまず、僕が加奈子にチョコを贈ればいいんだね」
「そういうこと。明日までには用意しておいてね。安物だと承知しないからね」
 加奈子を怒らせると怖いので、「分かったよ」と返事をした。

「ねえ、今日はなんの日か分かる?」
 加奈子が唐突に訊いてきた。クイズの答えは、カレンダーを見てすぐに分かった。
「ホワイトデー?」
「うん、正解。……で、お返しは?」
 加奈子は掌を上に向けて右手を差し出す。僕は違和感を覚えた。……なんだろう。なにかが間違っている気がする。
「まさか、お返しを用意していないの?」
「うん。……ごめん」
「明日までには用意しておいてね。安物だと承知しないからね」
 そもそも、僕は今年、加奈子からチョコを貰っただろうか?
 そんな疑問を抱いたが、加奈子を怒らせると怖いので、「分かったよ」と返事をした。
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