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しようぜ、セックス

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 女は俺たちの正面で足を止めた。俺たちの顔を、体を、舐めるように交互に眺めていたが、いきなり銃口を麦の胸に定めた。

「……ふうん。中々いいものを持っているな」
「少なくとも、あなたよりはね」

 冷や汗が噴き出したが、口答えに対しては、余裕ありげに口の端を吊り上げるという反応を示しただけだった。銃口がシャツ越しに膨らみを突く。

「上を脱げ。この状況で逆らったらどうなるか、説明する手間をかけさせるなよ」

 麦は命令に従い、ワイシャツを脱いだ。銃口が左胸に強く押しつけられる。

「この状態で引き金を引いたら、どうなるかな? くくく……」

 麦は強い眼差しを送り返し、脅しには屈しない姿勢を示してみせた。だが、その体は明らかに強張っている。無理もない。殺傷能力が極めて高い凶器の発射口を、自らの体の急所に突きつけられているのだから。

「よし、決めたぞ」

 残忍な、それでいてどこか無邪気な笑みが女の顔に浮かぶ。

「本日のメインディッシュは、クソ生意気な小娘のなぶり殺しだ。事によると、デザートもつくかもしれない。男を半殺しにするっていうデザートが」
「あなたはなにが目的なの?」

 押し殺した声で麦が問う。

「私たちを殺したいなら、さっさと引き金を引けばいいのに」
「聞こえなかったか? なぶり殺しと言っただろう。あたしはお前らを、肉体的にも精神的にも屈辱的な目に遭わせたいんだ。即座に撃ち殺しても面白くもなんともない」
「その銃、偽物でしょ。威嚇射撃の一発も撃たないのに、撃ち殺すだなんて脅しても――」

 女がいきなり右手を振り上げ、銃床を麦の頭頂部へと叩きつけた。鈍い衝突音が響き、麦の上半身が大きく揺らぐ。ワンテンポ遅れて、一撃を加えられた箇所から血が滲む。

「自分が置かれている立場も分からないのか、低脳。言っただろう。あたしの目的は、お前たちをなぶり殺しにすることだと」

 銃口を再び麦に定める。押し当てたのは、胸ではなく、唇。

「ほら、舐めろ。恋人に毎日してやるように、丹念にしゃぶれ」
「断るわ」
「……そうか。じゃあ、本番いくか?」

 開いた膝の間から、銃の先端部がスカートの中に侵入する。

「このまま引き金を引いたら、どうなるかな? 試してみるか? どうなるかなぁ。ふふふっ」

 さも愉快そうに笑い、視線を上へと移動させたが――麦はそっぽを向いていた。女の顔がたちまち憤怒に染まる。

「あたしを無視するな! 小娘の分際で……っ!」

 再び銃床を打ち下ろす。先程一撃が叩き込まれたのとほぼ同じ個所だ。今度は一撃では収まらない。何回も何回も、頭頂部を目がけて鉄の塊が振り下ろされる。血が滲む面積が広がり、滴り落ちる。それでも女は麦を痛めつけるのをやめない。
 俺はどうすることもできない。声で制止した瞬間、銃口を向けられて引き金を引かれるような、そんな恐怖感に呑まれ、体が硬直してしまっているのだ。

 やがて麦の上体がぐらつき、前方に大きく傾いた。女は紫色の髪の毛を鷲掴みし、床に叩きつけた。すかさず足で後頭部を踏みつける。無理矢理土下座をさせられているような姿勢だ。
 執拗に傷口を踏みにじった末、腹部に強烈な蹴りを見舞う。濁った呻き声の後、激しく咳き込む。反射的に椅子を立とうとしたが、横目で鋭く睨まれ、浮きかけた尻は座面に吸いつけられる。

「死ねよ、クソガキっ!」

 蹴りの嵐が巻き起こった。麦も必死に両腕で防御するが、防ぎ切れない。一方的に攻撃を食らい続ける。
 やがて嵐がやんだ時、麦は四肢を投げ出すように俯せに倒れていた。身じろぎ一つしない。
 女は麦の尻を蹴飛ばし、俺の隣の椅子に座った。銃の先端部を俺の胸に押しつけ、眉をひそめて俺の顔を凝視する。緊迫感に満ちた膠着状態は、不意に女の表情が綻んだことで破られた。

「あたしとセックスしない?」

 全くもって思いがけない提案だった。凶器の発射口を突きつけられているのでなければ、間の抜けた声が口からこぼれていたかもしれない。

「しようぜ、セックス。あの女の目の前で」
「……どうして」
「言っただろう。肉体的だけじゃなく、精神的にも屈辱的な目に遭わせるって。あの女、動けないけどまだ意識はある。あたしとあんたがセックスしたら、あの女は勿論、あんたにもダメージだ。で、やって気持ちよくなった後は、あんたを半殺しにしてさらに気持ちよくなる。――最高じゃね?」

 そうさせてたまるか、という思いは当然ある。だが麦が叩きのめされたのを見た後だけに、闘争心は湧いてこない。仮に湧いたとしても、女が引き金を引きさえすれば勝負が決するのだから、なんの役に立たない。

 女に勝つには、とにもかくにもショットガンをどうにかする必要がある。それがあるからこそ、麦は為す術もなくやられたのだ。威嚇射撃をしないということは、即ち銃に銃弾を発射する機能は備わっていない。麦はそう推理していたが、そうではなかった場合のリスクが大きすぎて、銃が偽物であることを前提に行動する勇気は起きない。

 女は俺たちを殺すとまでは言っていない。セックスの代価が半殺しだと考えれば、死を覚悟で立ち向かうよりもよっぽどマシではないか……?

「おい、なにをぼさっとしているんだ」

 怒るというより、茶化すように女が声をかけてきた。そして気がついた。女は織田信長で、セックスをしようと言っているのだから――。

「いや……。あんた、でかい胸してるから、見とれちゃって」
「毎日あの女の乳を弄り回してんだろ? 中学生みたいに遠慮してないで、好きにしていいぜ」

 左手でタンクトップの肩紐を肩から外す。ボリュームたっぷりの胸が今にも服からこぼれそうになる。

「いや、それは流石に……」
「本当に中学生みたいだな。まさか、童貞?」
「いや、残念ながら。……ていうか、マジでいいの?」
「いいって言ってんだろ。早くしないと、嫉妬に狂ったブスが殴りかかってくるぞ」
「……じゃあ、そう言うのなら」

 俺は右手を――女がべらべらと喋っている隙に黒い手袋を履いた右手を差し伸べ、豊満な膨らみを鷲掴みした。
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