上 下
8 / 48

感謝しなさい

しおりを挟む
 目が覚めると、俺は自分の部屋の畳の上に横になっていた。
 記憶を辿ったが、昨晩の途中からすっぽりと抜け落ちていることに気がつく。
 麦がポーズを決めて「討ち取ったり!」と言った。そのあとで姫ちゃんに服を着せ、俺がおんぶして家入家まで送り届けた。麦が上手く説明してくれたおかげで、ご両親からあらぬ疑いをかけられるどころか、娘を助けたことを酷く感謝された。そこまでは覚えている。
 では、それから先は……?
 自分の部屋にいるということは、姫ちゃんを送り届けたあとでなにがあったにせよ、自分の足で帰宅した、ということなのだろうが……。

 まあいい。とりあえず起きて、状況把握だ。
 起き上がろうと床に手をつくと――。

 むにっ。

 明らかに床ではない感触。視線を手の方に向けると――。

 麦だ。
 黒色のブラジャーとショーツ。それしか身に着けていない麦が、俺の真横に、敷布団に半分ほど体を載せる形で、仰向けに寝ている。俺の手は床につくのではなく、麦の胸に触れたらしい。

 膨らみから手を離して上体を起こし、麦に向き直って顔を見下ろす。

「おーい、起きろ」

 胸を鷲掴みし、揉む。……うむ、相変わらずでかい。
 夕食の前は叶えることができなかった、女子高生の生おっぱいの堪能。このささやかな夢を、今、ここで叶えようではないか……!
 ブラジャーのカップの上縁に手をかけ、膨らみの下へとずらそうとした瞬間、麦の体がぴくりと動いた。反射的に手を離す。寝たまま大きく伸びをし、緩慢に上体を起こす。目をこすりながらこちらを向く。

「あ、起きてたの? 起きるのを待ってた私の方が寝ちゃってたか」

 もう一回、伸び。そしてあくび。

「……くそう。下じゃなくて上にずらした方がよかったかな」
「え? なんのこと?」
「いや、独り言だ。そんなことより、麦。お前、なんで俺の部屋で寝てるんだ」
「あれ、覚えてない? ま、そうだよね、部屋に帰ってすぐ、布団に倒れ込んでそのまま寝ちゃったんだもん」

 麦はもう一度あくびし、ショーツに包まれた尻を掻いた。

「姫ちゃんを家まで送り届けたあと、部屋まで帰ってきて、俺はすぐに寝た、ということでいいんだよな?」
「うん」
「俺の行動は分かったが、不可解なのはお前の行動だ。なんで俺の部屋に泊まったんだよ?」
「帰る家も、どこかに泊まるお金もないからだよ。私、普段はネットカフェに寝泊まりしてるんだけど、今はそのお金すらなくて。織田信長に感染したあの子から米太郎を助けてあげたし、織田信長を摘出することであの子自身も助けてあげたし、その見返りに一泊寝泊まりするくらい別にいいかな、と思って」

 淡々と答えながら立ち上がり、近くに落ちていた服を拾い上げ、まとい始める。昨日と同じく、制服を着るようだ。まずワイシャツから身に着け始めたので、ショーツを穿いただけの下半身をじっくりと拝むことができた。

「その件については、まあ、お前の言う通りだよ。勝手に泊まったことについては不問に付すとする」
「おっ、珍しく心が広いんだね」
「元々広いさ。そんなことより、俺が気になるのは――小瓶。姫ちゃんから摘出した織田信長を収めた小瓶、あれはどうなった?」
「昨日の織田信長なら、今朝換金してきたよ。換金センターで」
「換金センター? なんじゃそりゃ」
「各都道府県ごとに、織田信長換金センターっていう、名称の通りのことをしてくれる施設があるの。看板を掲げているわけじゃないけど、謀反人所属の明智光秀たちは施設の場所は把握しているからね。ここから二十分くらいのところにあるから、朝のうちに換金を済ませてきたの」

 換金! 金! そう言えば、織田信長一人当たり何円の報酬が貰えるのか、聞いていなかった。

「何円に換わったの? 何万円――いや、十万円を超えているのか?」

 スカートを履き終えた麦はにんまりと笑い、腰を屈めてポーチの中を探る。そして俺に突きつけたのは――。

「じゃーん! 十二万円でーす!」
「おお……!」

 半ば無意識に手を伸ばしたが、かわされた。麦は紙幣を二つに分け、一方を差し出す。

「二人で協力したんだから、山分けに決まってるじゃない。はい、三万円」
「……おい。十二万の半分がいつから三万になったんだ」
「誰が半分こって言ったの? あなたが四分の一、私が四分の三よ」
「はあ? なんでだよ!」
「なんでだよ、はこっちの台詞よ。米太郎は最後に美味しいところを食べただけじゃない。私が助太刀しなかったら、あの子に勝ててた? 負けてたでしょ、百パー。四分の一でも多いくらいよ。感謝しなさい」

 確かに麦の言う通りだが――どうも納得がいかない。下手したら命を奪われていたかもしれない相手と戦って、報酬がたった三万円? 割に合わねぇ。

「あれっ? いらないの? じゃあ、私がもらっておくね。タダ働き、ご苦労様」
「いります! 三万円、ありがたくちょうだいします!」

 平身低頭で両手を差し出す。麦は勝ち誇った顔で三枚の紙幣を掌の上に置く。……三万円。少ないが、金が手に入っただけでもよしとするしかない。これで晴れて今月分の家賃を払えるわけだし。

「じゃあ、お金も手に入ったし、お昼ご飯食べに行こうか?」
「昼? 朝じゃなくて?」

 麦は無言で置き時計を指差した。昼の十二時が来ようという時間だった。激闘に疲労困憊したせいで、昼まで眠っていたのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

鈍すぎるにも程がある

文月 青
恋愛
大学生の水島涼には好奇心旺盛の風変わりな妹・葉菜と、イケメンなのに女嫌いの頑固な友人・脇坂雅人がいる。紆余曲折を経てめでたくつきあうことになった筈なのに、表向きは全く変わらない二人。 告白現場のシチュエーションが微塵も浮かばない、鈍感な妹と友人は本当に想いが通じ合っているのだろうか。放っておけばよいと分かっていても、二人の恋の行方に気を揉む世話焼きの涼に、果たして明るい未来はやってくるのだろうか。 ※「彼女はいつも斜め上」のその後を、涼視点で書いていきます。

おっぱい揉む?と聞かれたので揉んでみたらよくわからない関係になりました

星宮 嶺
青春
週間、24hジャンル別ランキング最高1位! ボカロカップ9位ありがとうございました! 高校2年生の太郎の青春が、突然加速する! 片想いの美咲、仲の良い女友達の花子、そして謎めいた生徒会長・東雲。 3人の魅力的な女の子たちに囲まれ、太郎の心は翻弄される! 「おっぱい揉む?」という衝撃的な誘いから始まる、 ドキドキの学園生活。 果たして太郎は、運命の相手を見つけ出せるのか? 笑いあり?涙あり?胸キュン必至?の青春ラブコメ、開幕!

婚約破棄されたら推しに「大丈夫か?雄っぱい揉むか?」と言われてしまいました

マチバリ
恋愛
前世でプレイしていた乙女ゲームのモブに転生してしまったプリムラは悪役令嬢であるスフィカの破滅を回避しようと努力していたものの失敗し、彼女もろとも婚約破棄されてしまう。そんなプリムラの前に現れたのは推しキャラだった近衛騎士ラウルス。彼は「俺の胸でも揉んで元気出せ」と言ってきて……? ふんわりゆるゆるの短いお話になります

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

婚約者が巨乳好きだと知ったので、お義兄様に胸を大きくしてもらいます。

恋愛
可憐な見た目とは裏腹に、突っ走りがちな令嬢のパトリシア。婚約者のフィリップが、巨乳じゃないと女として見れない、と話しているのを聞いてしまう。 パトリシアは、小さい頃に両親を亡くし、母の弟である伯爵家で、本当の娘の様に育てられた。お世話になった家族の為にも、幸せな結婚生活を送らねばならないと、兄の様に慕っているアレックスに、あるお願いをしに行く。

効率的におっぱいを揉むためのチート活用術

兎屋亀吉
ファンタジー
 伊藤栄一はゴミクズ底辺フリーターである。  そんな栄一がある日、池から出てきた女神に金のお弁当箱と銀のお弁当箱&チート能力をもらう。  チート能力もらったら何に使う?  そんなお話。

軍事大国のおっとり姫

江馬 百合子
恋愛
大陸一の軍事大国フレイローズ。 二十番目の末姫ルコットは、十六歳の誕生日に、「冥府の悪魔」と恐れられる陸軍大将、ホルガー=ベルツとの結婚を命じられる。 政治のせの字も知らない。 容姿が美しいわけでもない。 「何故あの子が!?」と周囲が気を揉む中、当の本人は、「そんなことより、今日のおやつは何にしようかしら?」とおやつの心配をしていた。 のほほんとした箱入りおっとり姫と、最強の軍人。 出会うはずのなかった二人は、互いに恋に落ちるも、始まりが政略結婚であるばかりに、見事にすれ違っていく。 これは、両片想いをこじらせた大陸最強夫婦が、マイペースに国を立て直していくお話。 (※小説家になろうにも掲載しています)

何故揉むかだと?そこに雄っぱいがあるからだ。

丸井まー(旧:まー)
BL
アホな美形オッサン(受け)がオッサン(攻め)の素敵な雄っぱいをちゅーちゅーしたりするお話。 アホエロです。 ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

処理中です...