秘密

阿波野治

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「話したいことはなにかっていうと、友だちのこと。友だちっていうのは、全員クラスメイトだから香坂はわかると思うけど――」

 羽生田さん、相良さん、生島さん、木下さん。以上四人の女子のフルネームを口にした。

「私、彼女たちと付き合うのが苦痛なの」
 驚きを禁じ得ない告白だった。

 五人がひと塊になって談笑する光景を脳内に再現してみる。
 教室のほぼ中央にあるからか、五人は住友さんの席に集まることが多かった。だから、住友さんの席の後ろに自分の机がある僕にとって、五人が談笑に耽る光景は日常だった。教室の中にも外にも友だちがいない僕は、自分の机で過ごす時間が長く、彼女たち五人の会話の内容や、会話する様子を見聞きする機会は多かった。盗み聞きや盗み見を意識しなくても、彼女たちが普段どんな様子なのかはおおむね把握できた。

 そのさいの映像や音声から判断した限りでは、五人はとても仲睦まじい。性格が穏やかな人ばかりらしく、口論をしていた記憶はない。形の上では五人で時間を共有していながら、特定の人間だけが仲間外れにされている、と感じたこともない。住友さんは生島さんとともに聞き手に回ることが多かったけど、それは控えめな性格だからで、誰かから強要されてその役割に甘んじているわけではなかった。
 自然体で話して、自然体で笑って、四人とともに過ごす時間を心から楽しんでいる。僕の目にはそう見えた。

 しかし住友さんは、そんな関係が苦痛だという。
 五人の仲のよさを知っている人間であれば、誰であっても驚いて、本心からの告白なのかと疑っただろう。

「羽生田さんのグループには、中学生になってから加わったの。四人とは出身小学校が違っていたんだけど、みんな優しくて、大らかで、心が広い子ばかりだから、お情けで入れてもらったって感じ。今ではある程度馴染んだから、パッと見、仲よし五人組に見えるかもしれないけど」

 ある程度。その言葉が持つ、他人行儀な響きが悲しかった。若干演技がかった口振りだっただけに、なおさら。

「四人はたぶん、私のことは友だちだと認識していると思う。だけど、私はそうじゃない。登下校をともにしたり、休日にいっしょに遊びに行ったりもしたけど、『ほんとうの友だちなの?』ってもう一人の自分から問いかけられても、首を縦には振れないなって」

 自嘲的な一瞬の苦笑を挟んで、発言はさらに続く。

「じゃあ、なんで仲よくしているのかと言うと、やっぱりほら、友だちがいない子ってみんなから馬鹿にされるでしょ? 軽んじているような、下に見ているような、そんな気配が伝わってきて。私はそれが嫌で、嫌で」
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