秘密

阿波野治

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「へえ、そんなことが! そっか、そっか。へぇ」
 由佳は驚きと感心を露わにしている。双眸を瞠ってくり返しうなずく姿が目に浮かぶようだ。眠気はすっかり覚めたらしい。

「そういう出来すぎた偶然みたいなの、個人的には気持ち悪くてちょっと嫌だな。でも、デートの約束をとりつけたのは素直にすごいと思う。遥斗、やるじゃん」
「いや、誘ったのは住友さんからだから」
「あれっ、そうだっけ?」
「そうだよ。……ただ、うれしいのはたしかなんだけど、なんで僕なんかとっていう気持ちは正直ある。木曜日金曜日と、由佳に話したような出来事が僕たちのあいだであったとはいえ、しょせんはただのクラスメイトだし」
「同じ読書が趣味の人間を見つけたのがうれしくて、その勢いで誘ったんでしょ」
「友だちに一人くらいいないのかな? 読書が好きな人」
「いないんでしょ。中学生くらいの年齢って、基本みんなに合わせるところがあるじゃない? だから、空気を読んで言い出せずにいたところに、本が好きだって遥斗が言ったから、テンションが上がったんじゃないの。遥斗が本の話題を口にした瞬間、みのりちゃんの目に遥斗は、実物よりも魅力的な男子に見えていたんじゃないかな」
「そう、なのかな」
「そうだよ。同じ女子中学生のあたしが言うんだから、間違いないって」

 辛い料理が苦手なのだけど、友だちはみんな好きだから付き合った、という住友さんの話を思い出す。友だち付き合いをするとなると、そういった少しの我慢みたいなことも、必要不可欠になってくるのだろう。このあたりの事情は、友だちが由佳一人の僕にも理解できる。
 由佳の見解は腑に落ちた。問題は――。

「僕、本を読むと言っても、ほとんどマンガだよ。図書館だから、置いてあるのは小説とか、文字ばかりの本だよね。住友さん、失望するんじゃないかな」
「考えすぎだってば。小説を読む人はマンガも普通に読むから。マンガは小説よりも読みやすいのに、読んでいないはずがない」
「由佳は小説なんて一行も読んだことないくせに、なんで言い切れるんだよ。だいたい、図書館には基本マンガは置いていないわけだから、マンガの話になることはそもそもないんじゃ――」
「ぐちぐち言わない! 話が合わなかろうがなんだろうが、嘘をつかずに誠実に受け答えすれば、それで大丈夫だから」

 誠実という、由佳からすれば何気なく発したに違いないその単語に、僕ははっとさせられた。
 誠実さ。僕が住友さんに感じた美点の一つ。
 嘘をついたのは、たしかにいけないことだ。住友さんと時間を共有する中で、いずれ足枷になる可能性だってある。
 だけど、取り返しがつかない、なんてことは絶対にない。
 誠実さを見せられて、僕は快さを感じたのだから、僕が誠実さを見せれば、住友さんもきっと快い気持ちになってくれる。誠実さを武器に住友さんにぶつかっていけば、きっと上手くいくはずだ。
 そう考えることで、心が少し楽になった。

「いくら趣味が合うからって、人間性に問題があるやつを遊びに誘うと思う? 誘わないでしょ。誘った時点で、住友みのりが遥斗にある程度好感を抱いているのはたしかなんだから、プラスがマイナスにならないように、いい意味で安全運転でいけばいいの。応援してるから、がんばれ」
「ありがとう。今からすでにどきどきしてるけど、がんばるよ」
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