秘密

阿波野治

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「住友って子はたしか、大人しい生徒だって遥斗は言っていたよね。ようするに、珍しい事態が起きたってことね」
「そうなんだよ。大声が響いた瞬間、教室が水を打ったように静まり返って。友だちも凍りついていたし、僕もびっくりした」
「住友みのりの友だち、その出来事があったあと、どんな感じで住友みのりと接してた?」
「いつもどおりに。本人がそう言っているんだから、詮索するのはやめておこう、みたいな話をしているのは聞いたよ。というか、席が後ろだから必然的に聞こえた」
「異変が見られたのはゴールデンウィーク明けからって話だけど、憂うつそうな顔をすることが多くなった以外に、なにか変化はある?」
「いや、特に。ため息をつく回数がちょっと多いかな、くらいで」
「友だち付き合いに関してはどう? 今までは友だちといっしょに下校していたのが、なにかと理由をつけて一人で帰るようになった、とか」
「付き合いは今までどおりだと思う。登下校はずっと友だちといっしょみたいだし、休み時間に誰かの机に集まって話をするのも変わりないし」
「なるほどね」

 少し間があった。

「もう一つ質問だけど、住友みのりは部活に入ってる?」
「いや、帰宅部」
「ああ、そう。じゃあたぶん、家のことだね。住友みのりは家庭の問題で悩んでいるんだよ」
「え? なんでわかったの?」
「消去法。可能性を一つ一つつぶしていったら、それが最有力候補かなって」

 由佳の声は自信満々というほどではないにせよ、落ち着き払っている。今回に限らず、彼女は常に堂々としている。だから、根拠があるかないかを問わず、言いぶんは漏れなく正しいように感じる。

「じゃあ、僕はどうすればいいのかな」
「どうすればって、どういうこと?」
「というのはね――」

 住友さんが悩みを抱えていることに気がついたのは、今のところ彼女の友だちと僕だけ。友だちはこの問題には干渉しないと決めた。だから、僕が行動を起こすべきだ。そう意見を述べた。

「他人様の家庭の問題に首を突っこむって、図々しくない?」
 返ってきた由佳の言葉は、眉をひそめた顔が見えるようだった。

「家の問題って、たとえ仲がよくても関わるのは遠慮するものでしょ。住友みのりの友だちも、だからこそ関わり合いにならないことを選んだんじゃないの? 違う?」
「そう言われれば、そういう気も……」
「遥斗は友だちですらない、単なるクラスが同じなだけの人間なんだよ? デリケートな問題に干渉してくる、厚顔無恥な人間だと思われてまで人助けをする覚悟、遥斗にはあるの?」
「……ない、かな」
「でしょ。ていうかそもそも、悩みのカテゴリを問わず、現状のうっすい関係でなにかしてあげようなんて、おこがましいから。住友みのりの力になってあげられる人間は、四人の友だちだけとは限らないんだから、問題解決はその誰かさんに任せるべき。そうじゃない?」
「そう、だね」

 いつものことながら、由佳は僕が正しいと感じることしか言わない。
 だけど、それでは僕が納得できない。
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