11 / 14
再会
しおりを挟む
「千代子ちゃん、大丈夫かなあ」
購入した商品を袋詰めしながらエミルは呟いた。買い物をしている間、駐輪場のポールにリードを繋ぎ、千代子を待たせているのだ。
「あいつは平気だよ。落ち着きないように見えて、ちゃんとしているから」
高田は袋詰めを手伝いながら平然と答えた。確かに吠え声は一度も聞こえてこなかったが、一目様子を見ないことには安心できないのもまた事実だ。
店を出ると、千代子を繋いでいる場所に人がいた。小さな女の子が一人、大人の女性が一人。前者はしゃがんで千代子と戯れ、後者は傍らで一人と一匹の様子を見守っている。
エミルは既視感を覚えた。二人にもとに駆けつけて、思わず頓狂な声を上げてしまった。
「あなたたちは、フリマ会場にいた……!」
二人は、エミルがトレーディングカードの店で商品を見ている時に、あとからやって来た親子だった。
「すっごく偶然ですね。また会うなんて」
「そうですね。D公園もここも、同じ町内ではあるんだけど」
母親の顔に微笑が浮かんだ。一方の娘は、エミルや母親には目もくれずに、元気いっぱいにじゃれついてくる千代子の相手をしている。
遅れて高田が現場に到着した。到着したものの、輪の中に入ってもいいのかどうか迷っている。どうやら、三人は知人同士で、自分一人が部外者だと思っているらしい。
エミルは自分と親子との関係を高田に、自分と高田と千代子との関係を親子に、それぞれ簡潔に説明した。ただ、高田との関係を説明すると話が長くなりそうだったので、単に知り合いとしておいた。
話し手と聞き手が交代し、娘――モモカと共に千代子のもとにいた理由を母親は述べた。それによると、フリーマーケット会場を後にした親子は、夕食の材料を買うためにスーパーマーケットに立ち寄った。すると駐輪場のポールに、茶色い小型犬――千代子が繋がれているのを見かけた。飼い主が店で買い物をしている間、その場所に待機させているのだ。母親はそう判断したが、置き去りにされたとモモカは考えたらしい。放っておいても心配ないといくら言い聞かせても、モモカはその場から離れようとしない。千代子もモモカに構ってほしそうだ。モモカを千代子のもとに残して買い物をするわけにもいかず、困っていたところ、エミルが店から出てきた、という経緯らしい。
「遊んでもらっていたんだね。よかったね、千代子ちゃん」
エミルはモモカと一緒になって千代子の頭を撫でた。真横でちょこんとしゃがみ、一心に千代子と戯れているモモカがあまりにいじらしく、ついつい彼女にも同じことをしてしまう。驚いた顔がエミルを見返す。
「千代子ちゃんが寂しくないように、遊んであげていたんだね。優しいんだね、モモカちゃん」
言葉に一歩遅れて、モモカの頬に朱が差した。褒められたことで、彼女は一層熱心に千代子を可愛がり始めた。二組が別れたのは、それから十分以上経ってからの話だ。
購入した商品を袋詰めしながらエミルは呟いた。買い物をしている間、駐輪場のポールにリードを繋ぎ、千代子を待たせているのだ。
「あいつは平気だよ。落ち着きないように見えて、ちゃんとしているから」
高田は袋詰めを手伝いながら平然と答えた。確かに吠え声は一度も聞こえてこなかったが、一目様子を見ないことには安心できないのもまた事実だ。
店を出ると、千代子を繋いでいる場所に人がいた。小さな女の子が一人、大人の女性が一人。前者はしゃがんで千代子と戯れ、後者は傍らで一人と一匹の様子を見守っている。
エミルは既視感を覚えた。二人にもとに駆けつけて、思わず頓狂な声を上げてしまった。
「あなたたちは、フリマ会場にいた……!」
二人は、エミルがトレーディングカードの店で商品を見ている時に、あとからやって来た親子だった。
「すっごく偶然ですね。また会うなんて」
「そうですね。D公園もここも、同じ町内ではあるんだけど」
母親の顔に微笑が浮かんだ。一方の娘は、エミルや母親には目もくれずに、元気いっぱいにじゃれついてくる千代子の相手をしている。
遅れて高田が現場に到着した。到着したものの、輪の中に入ってもいいのかどうか迷っている。どうやら、三人は知人同士で、自分一人が部外者だと思っているらしい。
エミルは自分と親子との関係を高田に、自分と高田と千代子との関係を親子に、それぞれ簡潔に説明した。ただ、高田との関係を説明すると話が長くなりそうだったので、単に知り合いとしておいた。
話し手と聞き手が交代し、娘――モモカと共に千代子のもとにいた理由を母親は述べた。それによると、フリーマーケット会場を後にした親子は、夕食の材料を買うためにスーパーマーケットに立ち寄った。すると駐輪場のポールに、茶色い小型犬――千代子が繋がれているのを見かけた。飼い主が店で買い物をしている間、その場所に待機させているのだ。母親はそう判断したが、置き去りにされたとモモカは考えたらしい。放っておいても心配ないといくら言い聞かせても、モモカはその場から離れようとしない。千代子もモモカに構ってほしそうだ。モモカを千代子のもとに残して買い物をするわけにもいかず、困っていたところ、エミルが店から出てきた、という経緯らしい。
「遊んでもらっていたんだね。よかったね、千代子ちゃん」
エミルはモモカと一緒になって千代子の頭を撫でた。真横でちょこんとしゃがみ、一心に千代子と戯れているモモカがあまりにいじらしく、ついつい彼女にも同じことをしてしまう。驚いた顔がエミルを見返す。
「千代子ちゃんが寂しくないように、遊んであげていたんだね。優しいんだね、モモカちゃん」
言葉に一歩遅れて、モモカの頬に朱が差した。褒められたことで、彼女は一層熱心に千代子を可愛がり始めた。二組が別れたのは、それから十分以上経ってからの話だ。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
「嫉妬に苦しむ私、心はまさに悪役令嬢」ー短編集
『むらさき』
ライト文芸
私はあるニュースを見て、読んで、嫉妬あるいはそれに近い気持ちを抱いていた。どういうことなんだ...アルファポリスさん。
「株式会社嵐」設立って...その所在地が恵比寿ガーデンプレイスタワーってさ...
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
夜食屋ふくろう
森園ことり
ライト文芸
森のはずれで喫茶店『梟(ふくろう)』を営む双子の紅と祭。祖父のお店を受け継いだものの、立地が悪くて潰れかけている。そこで二人は、深夜にお客の家に赴いて夜食を作る『夜食屋ふくろう』をはじめることにした。眠れずに夜食を注文したお客たちの身の上話に耳を傾けながら、おいしい夜食を作る双子たち。また、紅は一年前に姿を消した幼なじみの昴流の身を案じていた……。
(※この作品はエブリスタにも投稿しています)
ファミリーヒストリア~あなたの家族、書きます~
摂津いの
ライト文芸
「ファミリーヒストリア」それは、依頼者の家族の物語を本に綴るという仕事。
紆余曲折を経て、それを生業とする女性と依頼者や周囲の人たちとの心の交流。
あなたの家族の物語、知りたくありませんか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる