春日遅々

阿波野治

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再会

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「千代子ちゃん、大丈夫かなあ」

 購入した商品を袋詰めしながらエミルは呟いた。買い物をしている間、駐輪場のポールにリードを繋ぎ、千代子を待たせているのだ。

「あいつは平気だよ。落ち着きないように見えて、ちゃんとしているから」

 高田は袋詰めを手伝いながら平然と答えた。確かに吠え声は一度も聞こえてこなかったが、一目様子を見ないことには安心できないのもまた事実だ。

 店を出ると、千代子を繋いでいる場所に人がいた。小さな女の子が一人、大人の女性が一人。前者はしゃがんで千代子と戯れ、後者は傍らで一人と一匹の様子を見守っている。
 エミルは既視感を覚えた。二人にもとに駆けつけて、思わず頓狂な声を上げてしまった。

「あなたたちは、フリマ会場にいた……!」

 二人は、エミルがトレーディングカードの店で商品を見ている時に、あとからやって来た親子だった。

「すっごく偶然ですね。また会うなんて」
「そうですね。D公園もここも、同じ町内ではあるんだけど」

 母親の顔に微笑が浮かんだ。一方の娘は、エミルや母親には目もくれずに、元気いっぱいにじゃれついてくる千代子の相手をしている。

 遅れて高田が現場に到着した。到着したものの、輪の中に入ってもいいのかどうか迷っている。どうやら、三人は知人同士で、自分一人が部外者だと思っているらしい。
 エミルは自分と親子との関係を高田に、自分と高田と千代子との関係を親子に、それぞれ簡潔に説明した。ただ、高田との関係を説明すると話が長くなりそうだったので、単に知り合いとしておいた。

 話し手と聞き手が交代し、娘――モモカと共に千代子のもとにいた理由を母親は述べた。それによると、フリーマーケット会場を後にした親子は、夕食の材料を買うためにスーパーマーケットに立ち寄った。すると駐輪場のポールに、茶色い小型犬――千代子が繋がれているのを見かけた。飼い主が店で買い物をしている間、その場所に待機させているのだ。母親はそう判断したが、置き去りにされたとモモカは考えたらしい。放っておいても心配ないといくら言い聞かせても、モモカはその場から離れようとしない。千代子もモモカに構ってほしそうだ。モモカを千代子のもとに残して買い物をするわけにもいかず、困っていたところ、エミルが店から出てきた、という経緯らしい。

「遊んでもらっていたんだね。よかったね、千代子ちゃん」

 エミルはモモカと一緒になって千代子の頭を撫でた。真横でちょこんとしゃがみ、一心に千代子と戯れているモモカがあまりにいじらしく、ついつい彼女にも同じことをしてしまう。驚いた顔がエミルを見返す。

「千代子ちゃんが寂しくないように、遊んであげていたんだね。優しいんだね、モモカちゃん」

 言葉に一歩遅れて、モモカの頬に朱が差した。褒められたことで、彼女は一層熱心に千代子を可愛がり始めた。二組が別れたのは、それから十分以上経ってからの話だ。
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