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私が自室でお茶をしていると、トントン、とノックがした。
レーネが扉を開けるとなんとも気まずげな顔をしたアリスが入ってきた。
途端、私も緊張してカップをテーブルに置く。
「座ってもいいだろうか」
「ど、どうぞ」
向かいのカウチを指し示すと彼はそこに静かに座った。
レーネがアリスの分のお茶を淹れて部屋を出ていく。
彼はひとくちお茶を飲むとふう、とため息を吐いて苦笑した。
「バランに叱られたよ。言葉が足りないと」
「そっか」
彼はカップを置くとその、と膝の上で手を握りしめた。
「言葉無くキスをしたことは謝る。私も少し舞い上がっていたんだ。昨日があまりに楽しかったから」
「うん」
「だから、その、ちゃんと言わせてもらえないか」
そう言ってアリスは立ち上がると私の前で片膝をついた。
「ヒナが好きだ。愛している。私の唯一になって欲しい」
私は手を伸ばすと彼の手を取り、柔らかく揉んだ。
「昨日はびっくりした。でも、嫌じゃなかったよ。私も……アリスが好きだよ。私をアリスの恋人にしてくれる?」
「!ああ……!」
私が体をずらしてアリスの座る場所を作ると彼はそっとそこに座った。
そしてじっと私を見下ろして、囁く様な声で告げた。
「キスをして、いいだろうか」
よほどバランにきつく言われたのだろう、許可を取ってくるアリスにちょっとだけ笑って私はいいよ、とうなずいた。
くい、と顎先を持ち上げられて上向かされる。アリスの顔が近づいてきて私は目を閉じた。
やっぱり少し冷たい唇。それがふにゃりと当てられてもう一度ふにゃんと当てられた。
そうして離れていったから目を開けたら、アリスは物足りなさそうな目で私を見下ろしていた。
「アリスは、キスするのは初めて?」
「きみがはじめてだ。その、言いづらいが女性経験は全く無くてな……だから昨日も手順を間違った」
「私もね、初めてだよ。キスもデートも全部アリスが初めて。だから、ね?ゆっくりと進んでいこう?私、ドキドキで心臓破裂しちゃう」
「破裂は、困るな」
アリスが苦笑して今度は頬にキスをしてきた。
「少しずつ、な」
「うん、ゆっくりでお願いします」
私たちは笑いながら抱き合ったのだった。
その日以来、月曜、水曜、金曜は私の部屋で、火曜、木曜、土曜は今まで通りバランの執務室でお茶をすることになった。日曜日はふたりで街へ降りてデートの日だ。
バランと一緒のときのアリスはいつもどおりのアリスなのだが、ふたりきりだと違う。
並んで座って肩を抱き寄せるのは当たり前。お茶菓子はアリスの手から食べないと不機嫌になる。いや、不機嫌っていうか、悲しげな顔をされる。しょんぼりされるのだ。私がやりたかったのに、みたいな顔される。
もちろん耳はへちょっている。うるうるさせたおめめでさせてくれないの?お菓子食べさせたらダメ?という目で見られる。助けてくれ。
ギャップ萌えで死にそうだ。
獣人、ということもあってアリスはかなりきりっとしている。普段からそうあろうと思っているのかすれ違う部下に対する態度もそんな感じだ。
で、そんなアリスを部下たちは「かあっこいい~」なんて目で見ている。
お兄さん、お兄さん、このひと、私とふたりきりだと甘えっ子なんですよ。
あなたたちにはカリスマかもしれないけど私にはおっきな赤ちゃんなんですよ。
バランとてきっと知らないだろう。アリスがこんな一面を持っているなんて。
私しか知らないアリスの一面。かわいい。かわいいアリス。
「どうした、ヒナ」
ふふっと笑った私の顔をアリスが覗き込んでくる。私は彼の黒い鼻をちょんとつついてまた笑った。
「アリスがこんなに甘ったれだなんて知らなかったなあって」
「いやか?」
ぺしょっと耳が伏せられる。私はううん、とその頬を撫でる。
「私だけに見せてくれて嬉しい」
途端にぴんと耳とひげが立つ。ヒナ、ヒナ、と私を抱きしめてきた。
「すきだ。こんな気持ちになったのは初めてなんだ」
「私も好きだよ。アリスが大好き」
こんなふうにベタベタしてくれるのもまあ、きっと最初のうちだけなのだろうしこんな時期があったね、と遠い未来で思い出して笑い会えたら良い。
「キスしてもいいか?」
「どうぞ」
ん、と目を閉じるとちゅっちゅとかわいいキスが落ちてくる。
「……ヒナ」
「なに?」
「舌を入れたい」
「えっ」
「だめか……?」
切なげに瞳を潤ませるアリス。う、その目に弱い。
「い、いいけど優しくね?」
ディープキスで優しくってどういうことだと思ったけれどアリスはわかった、とうなずいて顔を寄せてきた。
ちゅ、と唇が当たって舌がちろりと唇を舐めてきた。口を開けて、と言うように舐められて薄っすらと開ける。
するとするりと薄くて生ぬるい舌が入り込んできて私の舌に触れた。
ちょんと伺うようにつついて、そして絡めてくる。
「ん……」
思わず鼻を抜ける甘い声が漏れてしまって恥ずかしくなる。
けれどそれはアリスを興奮させたようでぐいっと腰を引き寄せられて唇も強く合わせられる。
「んっ、ふぁ、アリ、んんっ」
くちゅくちゅと舌を絡められて上顎を舌先でなぞられる。
「ん、ん……ふあ……」
どれくらいの時間舌を絡めあっていただろう、ようやく満足してくれたらしい彼の舌が出ていって、はあと深く息をつくとすまない、と謝られた。
「どうして謝るの……?」
「優しくって言われたのにがっついてしまった」
私はうふふと笑うとアリスにちゅっと口づけた。
「気持ちよかったから大丈夫だよ」
「本当か?」
「うん、またしてね」
ほにゃ、と笑うとアリスも同じように笑ってまた軽く口付けてきた。
私たちはゆっくりだったけれど確実に前に進んでいた。
(続く)
レーネが扉を開けるとなんとも気まずげな顔をしたアリスが入ってきた。
途端、私も緊張してカップをテーブルに置く。
「座ってもいいだろうか」
「ど、どうぞ」
向かいのカウチを指し示すと彼はそこに静かに座った。
レーネがアリスの分のお茶を淹れて部屋を出ていく。
彼はひとくちお茶を飲むとふう、とため息を吐いて苦笑した。
「バランに叱られたよ。言葉が足りないと」
「そっか」
彼はカップを置くとその、と膝の上で手を握りしめた。
「言葉無くキスをしたことは謝る。私も少し舞い上がっていたんだ。昨日があまりに楽しかったから」
「うん」
「だから、その、ちゃんと言わせてもらえないか」
そう言ってアリスは立ち上がると私の前で片膝をついた。
「ヒナが好きだ。愛している。私の唯一になって欲しい」
私は手を伸ばすと彼の手を取り、柔らかく揉んだ。
「昨日はびっくりした。でも、嫌じゃなかったよ。私も……アリスが好きだよ。私をアリスの恋人にしてくれる?」
「!ああ……!」
私が体をずらしてアリスの座る場所を作ると彼はそっとそこに座った。
そしてじっと私を見下ろして、囁く様な声で告げた。
「キスをして、いいだろうか」
よほどバランにきつく言われたのだろう、許可を取ってくるアリスにちょっとだけ笑って私はいいよ、とうなずいた。
くい、と顎先を持ち上げられて上向かされる。アリスの顔が近づいてきて私は目を閉じた。
やっぱり少し冷たい唇。それがふにゃりと当てられてもう一度ふにゃんと当てられた。
そうして離れていったから目を開けたら、アリスは物足りなさそうな目で私を見下ろしていた。
「アリスは、キスするのは初めて?」
「きみがはじめてだ。その、言いづらいが女性経験は全く無くてな……だから昨日も手順を間違った」
「私もね、初めてだよ。キスもデートも全部アリスが初めて。だから、ね?ゆっくりと進んでいこう?私、ドキドキで心臓破裂しちゃう」
「破裂は、困るな」
アリスが苦笑して今度は頬にキスをしてきた。
「少しずつ、な」
「うん、ゆっくりでお願いします」
私たちは笑いながら抱き合ったのだった。
その日以来、月曜、水曜、金曜は私の部屋で、火曜、木曜、土曜は今まで通りバランの執務室でお茶をすることになった。日曜日はふたりで街へ降りてデートの日だ。
バランと一緒のときのアリスはいつもどおりのアリスなのだが、ふたりきりだと違う。
並んで座って肩を抱き寄せるのは当たり前。お茶菓子はアリスの手から食べないと不機嫌になる。いや、不機嫌っていうか、悲しげな顔をされる。しょんぼりされるのだ。私がやりたかったのに、みたいな顔される。
もちろん耳はへちょっている。うるうるさせたおめめでさせてくれないの?お菓子食べさせたらダメ?という目で見られる。助けてくれ。
ギャップ萌えで死にそうだ。
獣人、ということもあってアリスはかなりきりっとしている。普段からそうあろうと思っているのかすれ違う部下に対する態度もそんな感じだ。
で、そんなアリスを部下たちは「かあっこいい~」なんて目で見ている。
お兄さん、お兄さん、このひと、私とふたりきりだと甘えっ子なんですよ。
あなたたちにはカリスマかもしれないけど私にはおっきな赤ちゃんなんですよ。
バランとてきっと知らないだろう。アリスがこんな一面を持っているなんて。
私しか知らないアリスの一面。かわいい。かわいいアリス。
「どうした、ヒナ」
ふふっと笑った私の顔をアリスが覗き込んでくる。私は彼の黒い鼻をちょんとつついてまた笑った。
「アリスがこんなに甘ったれだなんて知らなかったなあって」
「いやか?」
ぺしょっと耳が伏せられる。私はううん、とその頬を撫でる。
「私だけに見せてくれて嬉しい」
途端にぴんと耳とひげが立つ。ヒナ、ヒナ、と私を抱きしめてきた。
「すきだ。こんな気持ちになったのは初めてなんだ」
「私も好きだよ。アリスが大好き」
こんなふうにベタベタしてくれるのもまあ、きっと最初のうちだけなのだろうしこんな時期があったね、と遠い未来で思い出して笑い会えたら良い。
「キスしてもいいか?」
「どうぞ」
ん、と目を閉じるとちゅっちゅとかわいいキスが落ちてくる。
「……ヒナ」
「なに?」
「舌を入れたい」
「えっ」
「だめか……?」
切なげに瞳を潤ませるアリス。う、その目に弱い。
「い、いいけど優しくね?」
ディープキスで優しくってどういうことだと思ったけれどアリスはわかった、とうなずいて顔を寄せてきた。
ちゅ、と唇が当たって舌がちろりと唇を舐めてきた。口を開けて、と言うように舐められて薄っすらと開ける。
するとするりと薄くて生ぬるい舌が入り込んできて私の舌に触れた。
ちょんと伺うようにつついて、そして絡めてくる。
「ん……」
思わず鼻を抜ける甘い声が漏れてしまって恥ずかしくなる。
けれどそれはアリスを興奮させたようでぐいっと腰を引き寄せられて唇も強く合わせられる。
「んっ、ふぁ、アリ、んんっ」
くちゅくちゅと舌を絡められて上顎を舌先でなぞられる。
「ん、ん……ふあ……」
どれくらいの時間舌を絡めあっていただろう、ようやく満足してくれたらしい彼の舌が出ていって、はあと深く息をつくとすまない、と謝られた。
「どうして謝るの……?」
「優しくって言われたのにがっついてしまった」
私はうふふと笑うとアリスにちゅっと口づけた。
「気持ちよかったから大丈夫だよ」
「本当か?」
「うん、またしてね」
ほにゃ、と笑うとアリスも同じように笑ってまた軽く口付けてきた。
私たちはゆっくりだったけれど確実に前に進んでいた。
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