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「国の名前、何が良いと思う?」

 サルベルーニャたちが訪れた翌朝、ティータイムを楽しみながら敬介は小首をかしげた。

「名前、ですか……」
「一応独立国としてやっていくわけでしょう?国名がないと格好がつかないじゃない?」
「そうですね。なにか候補がありますか?」

 敬介はええとね、と少し恥ずかしそうに言った。

「アルリヒト」
「アルリヒト。どういう意味があるんですか?」
「私のいた世界でアルとリヒトは別々の国の言葉でね。アルは言葉の前につける定冠詞っていう言葉なんだけどそれに光って意味のリヒトをつけたんだ」

 っていうのは建前で、と敬介はまた一層恥ずかしそうに頬を染める。

「アルはアルベニーニョから取りました」

 はっ?!とアルベニーニョが珍しく素っ頓狂な声を出した。

「あなた、大事な国の名前を決めるのに私の名前を入れるおつもりですか?御自分でなく?」
「そんなに、だめかな……私が一番好きなものを詰め込んだ名前なんだけど」
「ぐっ」

 アルベニーニョが唐突に胸元を鷲掴みにしてうつむいた。敬介が慌ててその膝にすがるとあなたが愛おしすぎて胸が痛い、とうめいたので敬介はばしっとその膝を叩いて紅茶のカップを手に取った。

「それにしたってあなたの作った国なのですからあなたの名前を入れれば良いのに」
「色々考えたんだけどやっぱりアルリヒトが一番しっくりくるんだよね……ダメ?」
「民衆になんと説明する気ですか」
「それは、その……私の世界の言葉で光ですって説明する。アルがアリーのことだってことは私とアリーさえ知っていればいいから」

「それなら良いです。役職ですが国王はあなたとして、宰相は私で良いですか?」
「うん、いいよ。サルベルーニャたちは来てくれそう?」
「二、三日考えるそうです。しかし前向きに考えていると。彼らには来てくれるのなら大臣職を任せたいと伝えてあります」
「うん、それで良いと思う」

「それ以下の役職はケイスケが生み出した者たちに任せましょう。彼らはあなたと私以外には公平で中立ですから」
「そうだね。新しくそれ用の人たちを作っておくよ。リストアップは頼めるかな」

 敬介の言葉にアルべニーニョはお任せを、と微笑んだ。

「あと、サルベルーニャたちが来てくれるのでしたら私の血を与えようと思うのですが」
「アリーの?私の血みたいに不老不死になったり魔法が使えるようになったりするの?」
「不老だけです。私の血にはそのまでの力はありませんが不老になれば長く仕えてもらえるでしょう?」
「私の血じゃダメなの?」
「そこまで与えてやる必要はありませんし……」

 そこでアルべニーニョは少し言い淀んだ。

「なに?」
「……あなたの血の味を知るのは私だけで良い」
「アリー……可愛いこと言うね」
「ケイスケ、あなたにだけですよ」

 ふたりはティーカップをテーブルに戻すとそっと手を取り合ってキスを交わした。


 三日後、サルベルーニャたちが引っ越してきた。
 ワープゲートは開いておいたしパスワードも教えておいたので各々自由にやってきた。
 好きな家を選んでもらい、足りないものは街唯一のなんでも屋、いわゆるコンビニのような店である、で買い揃えてもらった。
 今現在、この街には街住みを希望した使用人が何人か住んでおり、サルベルーニャたちも加わって少しだけ賑やかになった。

 早速彼らには城に来てもらい、大臣職を授けた。
 サルベルーニャには軍務大臣。
 ガウマノリッテには内務大臣。
 ウスラキノフには財務大臣。
 クシャメラックには外務大臣をそれぞれ割り振った。

 具体的な話は敬介にはよくわからないのでその辺はアルベニーニョにすべてを任せている。
 そしてアルベニーニョの血を飲むかどうかの判断も本人たちに任せた。これもやはり数日考えさせてくれと言われて快諾する。一生を揺るがす判断なのだ、即断しなくても良い。
 今、この国は目まぐるしく変わって行っていた。領地が増え、そこには茶畑ができたり農場ができたりしている。山や川も増やして水源の確保にも忙しい。勿論水源とは魔法で生み出されるものであり自然のものではない。それらを山のあちこちに湧かせて川を作り湖に繋げていく。

 そしてとうとう、湖だけでは流入する水を受け止めきれなくなってきたので海を作った。
 地上からは見えないだろうがかなりの広さを取った。生態系も整えて様々な生き物が住めるようにした。
 ただ、サメの一部のような人を襲うものはやめておいた。これで生態系が上手くいかないようなら考えるが、今はやめておいた。
 海を作ったことによって雲が生まれるようになった。湖の時も薄らと見えていたが本格的になってきたのだ。

 これによって結界の天井をもっと高くした。
 結果、この土地でも自然に雨が降るようになった。今までは敬介が調整していたのだが今後は様子を見ていくことにした。
 けれど降りすぎるようなら敬介がその都度調整したので不便はなかった。

「問題は帝国との国交だよね」

 国の内部がだいぶ落ち着いた頃、敬介はアルべニーニョやサルベルーニャたちを集めてそう切り出した。

「スパイスと茶葉は大きな武器になると思います」

 というのはガウマノリッテだ。

「農作物も地上産よりはるかに味が良い。これも使えるかと」

 とはクシャメラックの言葉だ。

「話、詰めましょか」

 サルベルーニャがニンマリと笑ってウスラキノフが重々しくうなずいた。
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