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第二部

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「うん、いいね、これ」
 今日はちょっと手を抜いて、とフルーツサンドイッチとクレープにしたのだが神様には好評だった。
「サンドイッチの具にフルーツを使うと言うのが斬新でいい。あとこっちの薄い皮にフルーツやクリームを包むというのもいいな」
 こちらにはないんですか?
「ないな。サンドイッチといえば食事だからな。こういうおやつ感覚のものはない」
 ほほう、それは良いことを聞いた。
「商売にするならパルデレも巻き込むといいよ」
 そうします!
 私はそう元気に告げて教会を後にした。
 いつものカフェに行くといつもパルデレは先に待っている。
「いつも早いのね」
「女性を待たせるんは俺の趣味やないからなあ」
 にかっと笑うパルデレに私も笑って、今日は相談があるの、と持ちかけた。
「なんや、辺境伯のことか」
「ううん、商売の話」
「商売?」
 私たちは店に入ってフルーツサンドイッチとクレープの話をした。
「サンドイッチにフルーツか。女子うけしそうやな。クレープっちゅうんも面白い」
「でしょう?屋台で発売してみたらどうかと思うの」
「でもそうなるとまた許可証を貰わなかんなあ」
「それなんだけど、パルデレが考えたってことにしたらどうかと思うの」
 私の提案にパルデレは目を丸くした。
「私が発案者だとパレヴィスで流行らせるにはまた許可証がいるでしょう?でもその逆なら許可証はいらないもの。だからパルデレが先にパレヴィスで流行らせてこちらに輸入するって形にすれば良いと思うの」
「ほんまにええんか、そんな……」
「もちろん売り上げの何割かは貰うわ。商売だもの。でも良心的な金額でお取引できたら良いと思っているわ」
 パルデレはにかっと笑うとなら、と手を差し出した。
「細かい話、詰めていこか」
 私もその手を取ってにこりと笑ったのだった。


「というわけで新たに商売を始めようかと思います」
 アデミル様に打ち明けるとあっさりと良いんじゃないか、と言ってくれた。
「……パルデレとの共同事業ですよ?良いんですか?」
「反対したところできみはやめないだろう?」
「まあそうですけど」
「だったら反対するだけ無駄だ」
「嫉妬しない?」
「……きみは私をどうしたいんだね」
「賛成はしてほしいけど嫉妬もしてほしいです」
 するとアデミル様は肩を抱きよせると私の頭にぐりぐりと頬を擦り寄せてきみというひとは、とため息混じりに言った。
「嫉妬するに決まっているだろう。今まできみの世界は私だけだったのに広がってしまった。しかも男だ。嫉妬するに決まっている」
「でも信じてくださっているんですよね」
「当たり前だ。信じているからこそ嫉妬こそしても反対はしないだろう?」
 二の腕を撫でさすられて私もアデミル様の首筋に鼻を埋める。白檀に似た匂いがすうっと胸いっぱいに満たされる。
 頬を撫でられて顔を上げると額にキスを落とされた。
「私の可愛いシオリ、無理はしないように」
「はぁい」
 そう笑って私からもアデミル様の頬にちゅっとキスをした。


 それからしばらくの間忙しかった。
 大量に作る場合の材料の配合比率、原価、販売価格、初動でどれくらい用意するか、材料の購入ルート、機材などなど。
 これらをパルデレが帰国してしまうまでにある程度まとめないといけないので急ピッチで進めた。
 そして、王都から許可証が届きパルデレの帰国の日が近づいてきた。それと同時に私たちのフルーツサンドとクレープの販売の目処も立ってきた。
 あとはパルデレがパレヴィスに帰国して流行らせてそれをこちらに持ち込むだけである。
 ということで、今日はパルデレを招いてのティータイムである。
 パルデレのリクエスト通りスフレチーズケーキを焼いておいた。
「うんま!」
 ケーキを一口食べるなりパルデレは目を輝かせて私を見た。
「なんやねんこれ、めっちゃうまいやん!」
「喜んでもえらえてよかった。アデミル様はどうですか?お口にあいますか?」
「ああ、美味しいよ」
「よかった」
 微笑みあって並んで座る。パルデレははっとしたようにチーズケーキを見下ろした。
「なあ、これクレープで包んだら美味いんちゃう?」
「ああ、そうね、生クリームとベリー系のソースをかけて包んだら美味しいかも」
「それいただきや!ちょっと値は張ってまうけど美味けりゃ気にせんお客もおるやろ」
「あ、それならチョコブラウニー包んでも良いんじゃない?」
「あーそれもええなあ!」
「きみとマレスチノ氏は」
「パルデレでええで!」
「その、きみとパルデレはいつもそんな感じなのか」
 質問の意図を測りかねた私がきょとんとするとパルデレがそうそう、と笑った。
「いっつも商売の話ばっかや。あと三割くらいが辺境伯との惚気話や。安心してくださいな」
「あ、安心など……」
「うふふ、信用はしてても嫉妬はしてくださるんですもんね」
 アデミル様がぐうっと喉を低く鳴らして黙り込む。私はそんなアデミル様の体に寄り添った。
「私はそんなアデミル様が大好きですよ」
「シオリ……」
 私たちが見つめあって微笑みあうと、パルデレがはいはいあっついあっついと揶揄った。
 パルデレは帰りがけ、まあ仲良うしてるようでよかったわ、と言った。
「ギスギスしてるんやったらシオリのこと国に連れて帰ったろ思てたんやけどな」
「何?」
 急に険をおびた目でパルデレを見るアデミル様にしかしパルデレは臆することなく続ける。
「シオリはええ女や。ビジネスパートナーとしても申し分無い。大事にしなはれよ辺境伯」
「……言われなくとも」
 低い応えにパルデレはそれもそうやなと呵呵と笑うと踵を返して馬車に乗り込んだ。
「また状況は手紙で報告する。軌道に乗ったら会いにくるからその時はまたチーズケーキ焼いてや」
 馬車の扉が閉じて走り出す。明日の朝立つと言っていたから暫く会えないだろう。
 私が馬車に向かって手を振っているとぐいっと手を引かれて敷地内に戻される。
「やはりきみは閉じ込めておいた方がいいのかもしれん」
 苦々しげに言うアデミル様に、私は声をあげて笑ったのだった。


(続く)
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