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彼と会話を交わす。
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彼が、シィク・ルサンブルが私の事を見つめている。私はそれだけで正気でいられない。
他の誰に見つめられても、こんな事にはならないのに。それなのに、彼が見つめているというだけで私の心は熱を持つ。彼が、彼だけが、私にとっての特別だから。
こんなに至近距離に彼がいる事実。彼が私を見つめている事実。彼が私に声をかけてくれる事実。そのことが私にとって異常事態で、何が起こるんだろう。どうなるだろう。そんな不安でいっぱいだった。
私がこんな気持ちになるなんて信じられない。
ドキドキしている。好きだと感じている。その事実があるからこそ、私は彼に見つめられてこれだけ挙動不審だ。
「……何の用かしら」
私は何とか、いつも通りを心掛けて笑みを作った。彼の事なんてどうとも思っていないという表情を浮かべる。
それにしてもどうして彼が私に話しかけてきたのか。彼と私は関わらないつもりだったのに。私みたいな冷たい人間と彼が関わるのは危険だと思うのに。
だから、私は彼の事を突き放すべきだった。突き放して、二度と私に話しかけないようにするべきだった。――でも、私はいつも誰も拒絶しない人間だ。私は誰も拒まず、受け入れて、そして受け流して生きてきた。誰にでも同じ対応をして、ただ、誰の事も大切にする事もなく、生きてきた。
私は彼の幸せを願うなら、彼と関わるべきではない。私では彼を傷つけてしまう可能性が強いから。でも、それでも――嬉しい。彼が私を見てくれている事。彼が私を見つめている事。嬉しいなんて、あさましい思いを私は感じている。
こんな感情を感じるのも、初めてで戸惑う。
そもそもいつも誰でも受け入れる私が彼を拒絶するなんて、ある意味、彼が私にとっての特別であることを周りに知らしめてしまう事になるだろう。……私は、どうするべきだろうか。ただ、思考する中で、彼の言葉が響く。
「…話してみたいと思っただけだ。だから、これから話しかけていいか?」
彼はそう言った。
私と話してみたいと。そしてこれからも話しかけて見ていいかと。そんな風な予想外な事を言われて、私はただ頷いた。彼がどうして私にそんなことを言うのかは分からなかった。
ただ、彼は、私が頷けば、笑ってくれたのだ。
その笑みが私を見つめていることに私の胸は、どうしようもないほど鼓動していた。
その段階で、私の元に多くの人が心配したように声をかけてきた。それだけ、彼は評判が悪かった。
あくまでこの学園の人達にとって、彼は彼女を恋人にしながら嫉妬に狂って苦しめたという加害者という認識でしかない。
「危ない人間とお姉様が仲よくする必要はありませんわ!!」
「リサ様がお優しい方だという事はしっておりますけれど、でも、あの方は――」
私は、彼が傍にいる事を承諾した。そもそも私は誰も拒絶などしない人間なのだ。そして、彼が近づいてきた事に怯えながらも彼が笑いかけてくれる事に私は確かに喜んでいる。
矛盾した感情のまま、騒ぎ立てる彼らの事を少しだけ疎ましい感情が芽生えた。……ああ、珍しい。私は近くにいつもやってくる彼らに対して、好意を持ったことも嫌悪を持ったことも特になかったのに。やはり私は、彼の事に関する事では誰かに対してそんな感情を芽生えさせる事が出来るのだ。
やっぱり、私には、彼は特別で仕方がないのだ。
「エブレサックは本当に人気者だな」
「そんなことないわ」
「そんなことあるだろう。俺が近づいたからって、散々、色々言ってくる連中が多い。全部、エブレサックを心配してだ」
彼がそんなことを言う。ああ、彼本人にも私に近づかないようにと、彼らは言ったのか。私は彼が話しかけてくることを結局受け入れてしまっているのに。本人が受け入れているのに、とやかく言わないでほしい。
「……それで、離れないのかしら? そんな風に言われるのは嫌でしょう?」
彼が、彼らに傷つけられてしまわないか。そんな思いにかられて問いかける。壊れかけの硝子のような彼。彼女のせいで、傷ついてしまった彼。……私自身、彼自身を壊してしまわないかとずっとずっと怯えている。
彼らにもっと彼が傷つけられたと思うと――、ぞっとした。私はどうでもいい彼らの事を、嫌いになってしまうかもしれない。本当に彼は、私に対する影響力が大きすぎる。
「離れないさ」
「どうして?」
「エブレサックと話したいから」
ああ、どうしてこんなことを言うのだろうか。そしてどうしてこんなに私の胸は鼓動しているのだろうか。
周りになんて言われようとも、彼が私に話しかけたいなどと言ってくれる。
――ほかでもない。私と話したいのだと。
好きな人が、そんな風に言うだけでこんなに嬉しいなんて知らなかった。前世も含めて、好きになったのは彼だけだから。
――私の人生で、初めて、好きになった特別な人だから。
「……そう」
でも、その嬉しさは外には出さない。……彼は私にとって特別だけど、彼にとって私は特別ではない。ううん、傷つけてしまいたくないから、特別になるのは怖い。
だから、私はただ短い返事だけを告げた。
他の誰に見つめられても、こんな事にはならないのに。それなのに、彼が見つめているというだけで私の心は熱を持つ。彼が、彼だけが、私にとっての特別だから。
こんなに至近距離に彼がいる事実。彼が私を見つめている事実。彼が私に声をかけてくれる事実。そのことが私にとって異常事態で、何が起こるんだろう。どうなるだろう。そんな不安でいっぱいだった。
私がこんな気持ちになるなんて信じられない。
ドキドキしている。好きだと感じている。その事実があるからこそ、私は彼に見つめられてこれだけ挙動不審だ。
「……何の用かしら」
私は何とか、いつも通りを心掛けて笑みを作った。彼の事なんてどうとも思っていないという表情を浮かべる。
それにしてもどうして彼が私に話しかけてきたのか。彼と私は関わらないつもりだったのに。私みたいな冷たい人間と彼が関わるのは危険だと思うのに。
だから、私は彼の事を突き放すべきだった。突き放して、二度と私に話しかけないようにするべきだった。――でも、私はいつも誰も拒絶しない人間だ。私は誰も拒まず、受け入れて、そして受け流して生きてきた。誰にでも同じ対応をして、ただ、誰の事も大切にする事もなく、生きてきた。
私は彼の幸せを願うなら、彼と関わるべきではない。私では彼を傷つけてしまう可能性が強いから。でも、それでも――嬉しい。彼が私を見てくれている事。彼が私を見つめている事。嬉しいなんて、あさましい思いを私は感じている。
こんな感情を感じるのも、初めてで戸惑う。
そもそもいつも誰でも受け入れる私が彼を拒絶するなんて、ある意味、彼が私にとっての特別であることを周りに知らしめてしまう事になるだろう。……私は、どうするべきだろうか。ただ、思考する中で、彼の言葉が響く。
「…話してみたいと思っただけだ。だから、これから話しかけていいか?」
彼はそう言った。
私と話してみたいと。そしてこれからも話しかけて見ていいかと。そんな風な予想外な事を言われて、私はただ頷いた。彼がどうして私にそんなことを言うのかは分からなかった。
ただ、彼は、私が頷けば、笑ってくれたのだ。
その笑みが私を見つめていることに私の胸は、どうしようもないほど鼓動していた。
その段階で、私の元に多くの人が心配したように声をかけてきた。それだけ、彼は評判が悪かった。
あくまでこの学園の人達にとって、彼は彼女を恋人にしながら嫉妬に狂って苦しめたという加害者という認識でしかない。
「危ない人間とお姉様が仲よくする必要はありませんわ!!」
「リサ様がお優しい方だという事はしっておりますけれど、でも、あの方は――」
私は、彼が傍にいる事を承諾した。そもそも私は誰も拒絶などしない人間なのだ。そして、彼が近づいてきた事に怯えながらも彼が笑いかけてくれる事に私は確かに喜んでいる。
矛盾した感情のまま、騒ぎ立てる彼らの事を少しだけ疎ましい感情が芽生えた。……ああ、珍しい。私は近くにいつもやってくる彼らに対して、好意を持ったことも嫌悪を持ったことも特になかったのに。やはり私は、彼の事に関する事では誰かに対してそんな感情を芽生えさせる事が出来るのだ。
やっぱり、私には、彼は特別で仕方がないのだ。
「エブレサックは本当に人気者だな」
「そんなことないわ」
「そんなことあるだろう。俺が近づいたからって、散々、色々言ってくる連中が多い。全部、エブレサックを心配してだ」
彼がそんなことを言う。ああ、彼本人にも私に近づかないようにと、彼らは言ったのか。私は彼が話しかけてくることを結局受け入れてしまっているのに。本人が受け入れているのに、とやかく言わないでほしい。
「……それで、離れないのかしら? そんな風に言われるのは嫌でしょう?」
彼が、彼らに傷つけられてしまわないか。そんな思いにかられて問いかける。壊れかけの硝子のような彼。彼女のせいで、傷ついてしまった彼。……私自身、彼自身を壊してしまわないかとずっとずっと怯えている。
彼らにもっと彼が傷つけられたと思うと――、ぞっとした。私はどうでもいい彼らの事を、嫌いになってしまうかもしれない。本当に彼は、私に対する影響力が大きすぎる。
「離れないさ」
「どうして?」
「エブレサックと話したいから」
ああ、どうしてこんなことを言うのだろうか。そしてどうしてこんなに私の胸は鼓動しているのだろうか。
周りになんて言われようとも、彼が私に話しかけたいなどと言ってくれる。
――ほかでもない。私と話したいのだと。
好きな人が、そんな風に言うだけでこんなに嬉しいなんて知らなかった。前世も含めて、好きになったのは彼だけだから。
――私の人生で、初めて、好きになった特別な人だから。
「……そう」
でも、その嬉しさは外には出さない。……彼は私にとって特別だけど、彼にとって私は特別ではない。ううん、傷つけてしまいたくないから、特別になるのは怖い。
だから、私はただ短い返事だけを告げた。
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