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えぴそーど・すりー:いじめられっ子と猫又。

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 今日も、四国某所にある喫茶店「六波羅探題ろくはらたんだい」は賑やかだ。

「では、これで!」

「ハジュンさん、その王手待ってくれないかい?」

「残念です。今回はこれまでですね。さて、今度は…と。待たせてごめんね。では、この子でアタック。よし、トリガー無いから次で勝ちかな?」

「ハジュンおじさん、手加減してよぉ。俺、クラスじゃ負け知らずだけど、おじさんにはどうやっても勝てないんだから」

「え、十分手加減してますよ。だって、将棋に囲碁とTCGの三面打ちですものね。あ、こちらに石を打ちます」

「くぅぅ。また負けたぁぁ!」

 今は、夕方前で比較的暇な時間。
 学校から帰ってきた子供達が、TCGの遊び相手を探しに店に来て、諸場しょば代金として駄菓子を買って食べながら空いている机で遊んでいる。
 また、囲碁や将棋を遊ぶご老人も遊びに来ており、コーヒーや紅茶を注文しては遊んでいる。

「ふぅ。今日はここまでにしましょうか。もうすぐお店も夕方のタイムです。皆さん、お時間がくれば片づけお願いします。特に17時を超えたら子供たちは帰ってくださいね」

「はーい」

 そして、仲間内から強いと思われる者たちがチャンピオン、ハジュンに挑みに来る。
 ハジュンも忙しいので、そんなに相手は出来ないし、基本店員が娯楽を提供するのは風営法管轄となる。
 なので、あくまでハジュンが休憩中に遊ぶという形で、毎日各ゲーム一人ずつ挑む形式にしている。

 ……違うゲームの三人打ちで全勝って、ハジュンさんゲームでも強いんだぁ。

 お店にだいぶ慣れてきたマオ。
 今では、午前中の独居老人宅へのお弁当配達もマオが率先してやっており、チヨが困っていた会計処理も行っている。

「マオお姉さんが来てくれてホントに良かったのぉ。マスターってどんぶり勘定なんだもん」

此方こなたも、店の経営状態は心配するのじゃ!」

 チヨは客が去った机を拭き掃除しながら、童顔の頬を膨らませて愚痴る。
 チヨの肩の上にちょこんと座った10センチ程度の小さな幼女カガリが、ウムウムとチヨに同意する。

「まあ、雇われのわたし達には出来ない仕事もハジュンさんにはあるんですしね」

 マオはチヨの事を可愛いなと思いながら、子供たちが帰った後の机を整えている。

「えっとぉ。マオさん、お手柔らかにお願いしますね。一応、私は人外な存在ですが、人の中で生きていく以上、法律とかは守るつもりですので」

 この喫茶店、マオ以外は人類ではない。
 可愛い少女、チヨは化けタヌキ娘であり、マスターたるハジュンに至れば空海、弘法大師の護法鬼神、いわば使い魔的な存在だ。
 最近では、カンテラの付喪神つくもがみカガリも一緒だ。

「そういえば気になっていたんですが、ハジュンさんはどういうご縁で、弘法大師様に今でもお仕えなさっていらっしゃるんですか?」

「それは長い話になっちゃいますが、簡単に言えば私がお大師様と勝負して負けたからです。もちろん殺し合いとかじゃないですよ。ゲーム、盤双六、今風に言えばバックギャモンの勝負をお大師様としたんです。お大師様が勝てばお大師様に仕えて、もう悪い事をしないでって勝負なんです」

「え! 弘法大師様がゲーム?? 話が繋がらないんですけど?」

 マオは素朴な疑問を聞いたのに、意味不明な答えが返ってきたので、混乱した。

「まずはバックギャモンから説明しますね。このゲームの由来は古代エジプト、紀元前3500年前のセネトというゲームが由来だそうです。私は、このくらいから地球に居て、色々なところに顔を出しては悪さ、といっても苦しそうな修行していた人を遊びに誘う事をしていたんです。おかげで、色んな宗教では堕落させる悪魔と言われてます」

「え! それってイエス様とか、ブッダ様とか……」

「今は、あの方々が東京は立川でバカンスなされている漫画があるのは面白いですね」

 マオは、自分の乏しい知識でも知っている宗教的な大事な事が、実は目の前の美男子が行っていた事に呆れた。

「とまあ、私は堕落の悪魔、天魔とも呼ばれました。私の名前、波旬はじゅんには、第六天魔王という意味があったりするんですね。別に人を食べたりしないし、傷つける事も一切しませんでした。人という存在が面白くて遊んで欲しかっただけなんですけど……」

「第六天魔王って、織田信長様が異名に使われていらしゃいましたよね」

「あのお方にもお会いしました。甘党で身内に甘いお優しい方でしたが、敵対者に対して非情にならざるを得ないのを苦悩なさっていました」

 マオは、目の前で歴史がとくとくと語られるのを、驚きながら聞いている。

「とまあ、色んなところで遊んでいて、お大師様が室戸岬で修行なさっているのを見つけたんです。そして、それからは何回も、お大師様を遊びにお誘いしました。最初は法術を使われて痛い目にもあいましたが、私に悪意が無いのを気が付いて頂き、それ以降は時々は遊んでくれました。そしてお大師様に最後の時が近づきました」

 ハジュンは遠い眼で上を見る。
 その目元にうっすら涙が見えるのに、マオは気が付いた。

「死の床の中、私をお呼びになり、そしてこうお話されました。『ハジュン、君は私の護法鬼神になってくれないか? そして私が亡き後の、この国の人々を助けてやってくれないか?』と」

「マスター、この話する時はいつも泣いちゃうの。わたし聞いた時も泣いてたのぉ」

 チヨも少し涙ぐみながら、静かに話を聞いている。

「此方も、その話詳しく聞くのじゃ!」

 カガリも大人しく話を聞く。

「そして、私は勝負を挑みました。『私を負かせたら、貴方様の護法鬼神になります。ですが、私が勝てば、貴方様のお命を自由にさせていただきますね』と。実のところ、私は禁断の秘術を使っても大事な遊び相手を失いたくなかった、延命させたかったのですけどね。そしてゲームは盤双六で行われました。この時代には既に日本にまでバックギャモンは伝わっていました。正倉院の御蔵の中の秘宝として今も存在しますよね」

「あ、わたし教科書で見たかも」

「マオお姉さん、勉強はしなきゃですよ。正倉院の中身くらいは常識ですぅ」

 マオは、日本史が得意なチヨにたしめられる。

 ……化けタヌキ娘が戸籍持ってて高校卒業しているなんて、不思議だよね。

「勝負は一進一退を繰り返しました。お大師様は死の床に居ながらも強かった。私は手加減する気は一切なく、なんとしてもお大師様の命を長らえる為に勝ちたかったのです」

「それで勝負は……」

 天を仰いだハジュンは、笑顔に戻りマオに顔を向ける。

「もちろん、私の負け。私が不自然な延命をさせようとしていた事も含めて、こっぴどく怒られました。後は、お大師様の最後の時まで、ずっとこれまでの事をお話してました」

 たかがゲーム、されどゲーム。
 遊びから生まれた縁、それがハジュンをいまだこの地に縛りつけているのだ。

「なので、私にとってはゲームはゲーム以上の意味があるのです。だから、TCGのカード購入は必要経費として……」

「ハジュンさん、遊技業って風営法管轄になっちゃいますけど、それで良いんですか?」

「う、それは不味いですぅ」

「マスター、これにこりて一枚10万円のカードは買わないでね」

「ハジュンもチヨやマオには弱いのじゃ!」

「ああ、女性にとってはこのカード達がおもちゃに見えるんでしょうかぁ。お大師様、私、女性には勝てないですぅ」

「うふふ」

 もうすぐ夕方のお客が集まる時間、喫茶店「六波羅探題」は賑やかだ。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「最近、翔太しょうた君が来ないけど、どうしているのかな?」

「アイツ、学校にも来ないんだよ。アイツのクラス、今は学級崩壊してて、虐めも酷いんだ。ショウタは、虐められてた先生を庇って、今度はアイツがひどい目にあったんだよ。俺は親やウチの先生に助けてあげてって言ったんだけど……」

 ハジュンは今日も子供たち3人相手にTCGの3人打ちをしている。
 これまで遊びに来ていたショウタという子供が最近来ていないので、ハジュンが心配して聞いてみると大変な事になっていた。

「それは大変ですね。もし良かったら、ショウタ君のご両親にお話聞けませんか? 遊び仲間として、それは放置できません」

「ハジュンおじさん、お願いできる? 俺もアイツ居ないと寂しいんだ」

「ええ、お任せくださいね! はい、ダイレクトアタックです!」

 にっこり笑って子供たちを薙ぎ払うハジュンであった。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「お手数をおかけして申し訳ありません。本当なら無関係な貴方様にご苦労をおかけするわけにはいかないのですが……」

「いえいえ、御気になさらずに。今回は探偵や大人としてではなく、TCGを遊ぶ仲間としてショウタ君を私が助けたいのですから」

 喫茶店にショウタの母を呼んで、ハジュンは話を聞いている。

「ありがとうございます。今、ショウタのクラスにはボス的な子がいまして、その子が中心になって学級崩壊しているんです。新婚さんの女性教師が担任だったのですが、一切言うことを聞かないどころか、酷い虐めを先生にまでして、先生は切迫流産寸前まで追い込まれて入院しているんです。先生をウチのショウタは庇ったようで、今度はショウタがターゲットになったんです。それからは暴力を受けたり、教科書を燃やされたり、体操服を切られたり……」

 話によれば、ボスの子は大手建築会社社長の息子で、今まで好き勝手を許されていた。
 この会社自身、過去には違法暴力団体との関係が深かったとも。
 親からお金は与えられるも、親から触れてもらえなかった子供は、とことん歪んだ。
 そして、幸せそうな新婚の担任教師を逆恨みをした。
 その恨み、教師がいなくなった後はショウタへと向かった。

「私の方でも、既にボスの子の家庭状況は調査済みですが、これは簡単には解決が難しいですね。教育委員会とも対応を相談してみます」

「実は、他にも学校に行けなくなった理由があるんです。ウチではショウタが生まれる前から猫を飼っていまして、それこそ兄弟みたいに一緒に暮らしていたんです。もう15歳近くになり、そろそろ老齢になっていたのですが、先日から急にいなくなってしまって。猫は死期を悟ると何処かに行くと聞きますし、もう……。」

 ショウタの母は、とても悲しそうな顔をする。
 彼女にとっても15年も一緒に住んでいれば、猫も自らの子供と同じ。
 その上、息子が大変な時期に同時に猫が居なくなったのでは憔悴しょうすいもしてしまう。

「猫の事ですが、その噂は実の処自らの身を守るために静かなところに逃げ込んで、そのまま亡くなるからだと言うのが最近の学説です。その猫さんですが、腎臓回りは大丈夫でしょうか? 尿が近いとか色が薄いとか、水を沢山飲みだしたとかは無いですか?」

「いえ。獣医さんからは、まだまだ大丈夫と言われてます。よくご存じですね、猫が腎不全で死ぬことが多いのを」

「私も色々な方から猫の事を聞いていますので。宇多様は、いつも黒猫自慢なさっていましたし」

「マオお姉さん、宇多様って宇多天皇様なの。黒猫自慢の日記を残した方ね」

「あ、その話聞いたことあるの!」

「此方にも教えるのじゃ!」

 マオ達はハジュンの邪魔にならないように、カウンターの陰から話を聞いている。

 宇多天皇、空海の時代より30年程後に生まれ、皇族でありながら「姓」を貰った後に天皇になった。
 彼を今なお有名にしているのが、世界初の猫ブロガーだったからだろう。
 彼が紡いだ日記「宇多天皇御記ぎょき」、そこに彼が愛した黒猫の事が事細かく書かれており、猫バカとして黒猫を褒めまくっている。

「ショウタが殴られ虐められて帰ってきた日、猫、ミィに何か話していたんですけど、その翌日から居なくなったんです」

「そうですか。では、そのミィ君の捜索も含めて私に任せて頂けませんか? そうですね、成功報酬としてショウタ君がまたウチに遊びに来てくれるのをお願いしますね」

「あ、ありがとうございます。では、宜しくお願いします」

  ◆ ◇ ◆ ◇

「マスター。どうしましょうか? アタシのコネ使いましょうか?」

「そうですね。では、チヨちゃん。今晩、猫の集会に行ってください。そして、ボス猫さんに伝言を頼んでください」

「ハジュンさん。それどういう事なんですか?」

「此方には、何も分からんのじゃ!」

 ショウタの母が帰り、閉店準備中の喫茶店。
 ハジュンはチヨに猫の集会への参加を頼む。
 それが何を意味するのか、マオやカガリには分からない。

「家出して迷っている猫を探すのに、地域猫ネットワーク、通称NNねこねこネットワークを借りると上手くいくこと多いんですよ。彼ら、結構人間の会話を聞いてますし、縄張り内の猫の動向に敏感なんです。ボス猫に伝言を頼んで、実際に帰ってきた例が多々ありますよ」

「それにアタシは一応、猫と同じ食肉目のタヌキだもん。猫相手でも話通じるよ」

「あ、そうか。チヨちゃんってタヌキだったよね」

 オカルトが関係ないのだけれども、妙に説得力のあるハジュンの言葉に納得してしまったマオだった。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「ふわぁぁ、おはよぉ。マスター、今回の話って結構複雑かもぉ」

 あくびをしながら、いつもよりも遅めに出勤してきたチヨ。
 メイド服に着替えながら、ハジュンに報告を始めた。

「ボス猫さん曰く、ミィ君は目的があって家出しちゃったらしいの。それがなんとショウタ君の敵討ちだって!」

「えー、猫さんってそこまで賢いのぉ!」

「ぷんぷん! お姉さん、食肉目を馬鹿にしないでよぉ! アタシだって高校卒業しているんだもん!」

 マオの言葉に、頬を膨らませて怒るチヨ。
 その様子に、つい可愛くて抱き着いてしまうマオだった。

「チヨちゃーん。ごめんねぇ。あー、柔らかくていい匂いなのぉ!」

「マオお姉さん、痛いのぉ。で、ミィ君は問題の子の家の近くに待機していて、色々やっているらしいよ。問題の子が外に居た時に襲ったり、家の玄関にネズミ並べたり、夜な夜な大声で鳴いてみたりしているって」

 ボス猫曰く、あまり食事もせずに敵討ちに集中しているようで、ミイ自身、このままでは命の危険もあるかもとの事。

「ふむ。そのミィ君は半分猫又にまでなっているかもですね。今まで弟として、生まれた時から一緒にいたショウタ君をとても大事に思っているんでしょう。でも、このままでは不幸な結末になりそうですから、私の出番ですね。では、問題のお家へ行きましょうか」

「はいですぅ!」

「ハジュンさん、お店は?」

「そんなの、緊急臨時休業に決まってます! 頼まれていたお弁当を配達次第、行きますよ。カガリちゃんは、すいませんがお留守番お願いします!」

「此方、仲間外れは嫌なのじゃぁ!」

 ハジュンは文句を言うカガリを放置し、急いで調理を始めた。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「いきなり無礼にも程がある。一体、お前は何者なんだ? 警察を呼ぶぞ!!」

「そうですねぇ。ただのお節介焼きの通りすがりです。警察を呼ばれても良いですが、このままではお宅の息子さん、呪い殺されてしまいますよ。猫に悩まされていますよね。それは、息子さんの虐めが原因なんですよ」

「そ、それをどうして知っているんだ! 息子は部屋から出てこない。猫が怖いって閉じこもっている」

 ハジュンは、大手建設会社の社屋に殴り込みをかけた。
 最初は社長を呼んでいたが一向に話が付かないので、若いもんが邪魔するのを簡単にノシながら社長室に突撃。
 凄みのある美しい顔で、単刀直入に社長に現状を訪ねた。

「ハジュンさん、結構無茶しませんか?」

「マスターって子供が大好きで、子供が困っていたら黙っていられないの。それに犬猫も大好きだから、今回は大暴れしちゃうのかもね」

 ハジュンの後ろで面白そうに見ているチヨと、眼を回している若い男性達を心配しているマオであった。

「息子さんが猫に呪われているのは、全ては貴方が息子さんを放置していたからです。息子さんはご両親から愛されていないと思い込み、幸せそうな担任の先生、そして先生を助けた子を逆恨みして虐めたのです」

「そうなのか? 一体、お前は何処からその話を聞いてきたんだ?」

「情報の出どころは、今は関係ないです。息子さんに会わせて頂けませんか? ここで貴方を含めて改心しなければ、誰もが不幸になりますよ」

 ニコニコとしながらも眼が一切笑っていないハジュン。
 その圧に負けて、社長は叫ぶ。

「お前なら息子を助けられるのか? なら頼む、助けてくれ。このままじゃ息子が死んでしまう。昨日から寝ていないし、何も食べないんだ。お金ならいくらでも払うから、助けてくれ!」

「はい、お助けしますよ。お金は要りません。そのお金は学校や社会に寄付して、子供たちが幸せになる事に使ってくださいね」

 やっと普段の笑みに戻るハジュン。
 その様子にマオは感動する。

「ハジュンさん、カッコいいのぉ」
「そうですかぁ。せっかくお金支払うって言っているのに、マスターの馬鹿ぁ」

 しかし、お金を受け取らない事にチヨは、頬を膨らませた。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「ショウタ君、部屋から出てこないかな?」

「ハジュンおじさん! どうしてウチに来たの?」

「事件が解決したから、またショウタ君と遊びたいと思ってね」

 翌日、ハジュンはマオとチヨを連れてショウタの家に向かった。

「事件って?」

「ショウタ君を虐めていた子は、もう学校には来ないよ。怖くなって東京に引っ越ししたんだって」

「え! 何があったの!」

 予想しないハジュンの答えに、ショウタは部屋のドアを開けて飛び出してきた。

「それは、この子のおかげかな」

 ハジュンは手に持ったキャリーケースを開けた。
 そこから茶色のナニかが飛び出して、ショウタにしがみついた。

「み、ミィ! ミィ! お前、何処に行っていたんだよぉ! ボク、ミィが居なくて寂しかったんだよぉ! もう、何処にも行かないでよぉ!!」

 茶色キジでお腹が白い猫がショウタにしっかりとしがみつき、鳴く。
 そしてショウタも猫をしっかりと抱きしめ、泣いた。

  ◆ ◇ ◆ ◇

「猫って犬ほど飼い主のいう事聞かないってイメージだったのに、あの子は凄いね」

「猫は犬よりも、霊的には狐やタヌキに近いですね。化け猫伝説、猫又伝説と古くから話が多くあります。実際、あの子は猫又に限りなく近い子でした」

 ハジュンが社長と息子を引っ張り出し、チョの案内で出てきた猫の前で土下座をさせたのを見たマオは、感動半分、不思議半分な気分だった。

「まさか、猫に対して懺悔させるなんてハジュンさん。とんでもないです」

「あの子なら、目の前で反省させれば納得するって思いましたので。本当に呪い殺す気なら、最初の襲撃で殺してましたからね。動物霊の呪いは案外と怖いですよ。人よりも思いが純粋な分はね」

 土下座をしたのを確認した猫ミィ、ひと鳴きした後に社長息子の頭をパチンと一発猫パンチして、ハジュンに振り返った。
 その顔は、大事な「弟」の敵討ちを終えて満足気だった。

「さて、お休みした分、仕事頑張りますよ」

「はいですぅ!」

「今度は此方も外で暴れるのじゃぁ!」

 今日も喫茶店「六波羅探題」は賑やかに開店する。
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