最強商人土方歳三

工藤かずや

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1-1 三浦敬之介

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 総司が言った。
「鴻池が十両とは意外でしたね」
土方は無言で笑った。

この男、声を出さずに笑うのが癖である。
「午前に芹沢たちが行ってるから、当たり前だ。十両でも草鞋銭にありついただけでもましだろう」

「俺たちの前に行くなら行くと、言ってくれればいいのに」
「押し借りに行くのに、断って行く奴がいるか!」
「それもそうですよね。俺たちだって勘定方に断ってない」

午下りの伏見街道である。
大坂の鴻池へ御用金調達に行った帰りである。
真夏のかんかん照りとあって通行人もあまりない。

「総司、お前は自分がどんな最後を迎えるか、考えたことがあるか」
総司は土方を見た。

意外な質問だった。
こんなところで、土方からこんなことを聞かれるとは思わなかった。。

「人間は必ず死ぬ。俺もお前もだ。例外はない」
「土方さんは考えてるんですか」
「ああ、いつも考えている」

総司は驚いて土方の横顔を凝視した・
驚いた。
土方さんがそんなことを言い出すなんて。

「土方さんはどんな最後を迎えると思ってるんですか」
総司の興味あることだった。
「俺は・・・」

言葉を区切った土方は、楽しそうに言った。
「戦って戦って戦い抜き、そして痛快な死を迎える」
いかにも土方らしい言葉だった。

「その時、勝ち負けは関係ないんですか」
「関係ない!あるのは勝っても負けても、いかに最後まで戦うかだ」

「戦は勝たなければ意味がないでしょう」
「当たり前だ。だが勝てない時もある。負け戦だ。その時にどうするかで自分の真価を問われる」

土方さんはそんなことを考えてるのか。
多摩の時とは違って、京では毎日が命のやり取りだ。
「俺に千両の金策の当てがある」

千両と聞いて総司の足が止まった。
「どこかの豪商を襲うんですか」
「ばか!新選組は強盗ではない!」

「でも、百両でも押し借りでは難しいのに、千両なんて!」
「三浦啓之助だ!」
土方さんは時々、脈略なくとんでもないことを言い出す。

あの近藤さんの小姓がなんで千両なんだ。
三浦は女たらしで酒飲みで、隊内でも有名なろくでなしだ。
局長の小姓という立場をいいことに、横暴な振る舞いが多い。

並みの隊士なら、とっくに闇討ちされている。
「三浦がどうして千両になるんですか」
「やつの父は、佐久間象山だ」

「信州松代藩士で公武合体、開国論をぶち上げ、幕府にも一目置枯れた大物で攘夷派から狙われ、昨年河原町で肥後河上彦斎一派に暗殺された」

「三浦の叔父は勝海舟だ。勝は三浦を松代藩へ戻そうとしたが、殺された父・象山の仇を討ってない」
「なるほど、それで松代藩から断られた」

土方はため息をついた。
「勝は事もあろうにあのろくでなしに父の仇を打たせるため、新選組への入隊を近藤に頼み込んだ」

「酷い話だ。俺は三浦が道場で竹刀を持ってるのを、見たことがない」
「奴の関心は女と酒で、仇討ちなどどうでもいい」

「そのろくでなしが、なぜ千両になるんです」
「狙いはろくでなしではない。勝だ。彼には貸しがある」
「やつを入隊させた貸しですね」

「あまり知られていないが、勝には竹川竹斎という財政・政治の顧問がいる」
「竹川竹斎!聞かない名だ」

「伊勢の豪商だ。勝を始め将来有望な人物や組織に、惜しげも無く援助することで知られている」
「凄いな、土方さんは!そいつから千両引き出すんだ!」

「勝の紹介だと言えば、間違いなく出す」
総司が不満そうに言う。
「けど、俺いつも思うんだけど、なぜ新選組は会津守護職支配になっていのに給金が出ないんです」

「俺たちと同じだよ。会津も金がない」
「そんなはずないでしょう!会津は二十八万石で藩士数千人を擁している。ないはずがない!」

「ところが会津藩の借金は商人に四十万両近くあり、毎月年貢から四万両を返済している」
「禄高二十万石で借金四十万両じゃ、やってけないでしょう」

「だから俺たちと同じだと言ってる。会津は藩兵千人も率いて京へ来るべきじゃなかった」
ため息をつく総司。

「あ~あ、どこも金がなくて火の車か!!」
「竹川はやって見る価値がある。ここは芹沢たちも知らない」
「伊勢は遠いですよ」

「馬を使う」
「馬!そんなのどこにいるんです」
「近藤さんが今度二条城へ行くよう御老中の永井様から命じられたようだが、そのために馬を使う」

「近藤さん、馬に乗れるんですか」
「その馬を俺たちが借りる」
「だけど一頭でしょう」

「お前は八木邸から農耕用駄馬を借りろ」
「嫌ですよ」
「駄馬は絶対走らんから安心だ」

夕方、屯所の前川邸に着くと、隊士たちが右往左往している。
総司が聞くと三浦を探していると言う。
近藤の命令で、すぐに探し出せと言われているらしい。

自室に落ち着いて土方は知った。
三浦は隊に、とんでもない置き土産を残して行った。
その日から、土方たちの運命が変わった。
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