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11 観察方豪士ー豪士ー

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その朝、タロに餌をやっていると山崎さんが来た。
副長の命令で、今日から僕は監察方だと言う。
監察方には山崎さんの他に、
何人かいるらしいがそれが誰かは分からない。

基本的に隊士を監視し、外部情報を取るのが役目の
監察方としては氏名は明らかにされないのだろう。
そして、僕はいきなり山崎さんに言われた。

その自分を僕と呼ぶのを、やめろ!と。
私か俺か、自分と言えと言うのだ。
これは忠告ではなく直属上司の命令だ。

「はい、今後は私と呼ばせてもらいます」
と答えておいた。
山崎さんは何人かいる監察方でも、
特に局長近藤の信頼が厚いと言う噂だ。

監察方として非常に有能なのだろう。
数日前に終わった池田屋事件では
嘘か本当か知らないが事前に池田屋へ潜入し
浪士たちの大刀をすべて隠したと言われている。

本当にそんなことが出来んのかよ!
侍は自分の刀にもの凄く敏感だ。
酔っていても女を抱いていても
刀のある場所を明確に把握している。

手を伸ばせば届く場所に置く。
そんなこと当たり前といえば当たり前だが、
慣れと言うのは恐ろしいもので
敵の奇襲に、闇の中で手探りで刀に手を伸ばしたら
なかったということはよく聞く。

これで稀代の剣客が、大勢命を落としている。
山崎さんは私を廊下へ呼び出し
最初の命令を告げた。

近藤局長の身辺を探り、
女性関係を洗え、と言うのだ。
私は仰天した。

自分を最も信頼してくれてる局長の女を調べるのかよ!
山崎さんは顔色一つ変えずに言う。
これは多分、土方さんの指令だと直感した。

局長の私生活、特に女性の存在は隊の動向に
重大な影響を与える。
仮に女性が長州の女なら、局長の日常は危険だ。

突然、お勢さんの顏が浮かんだ。
泣いている。
なぜ、もっと彼女を大切にしてやらなかったのか。
悔やんでも悔やみきれない。
涙が出る。お勢さんのそばに居たい!

山崎さんは数枚の紙片をを渡して言った。
「監察方の任務に必要なことが書いてある。
よく頭に叩き込んでおけ」
中には、近藤局長の別宅の詳細地図まであった。
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