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1 豪士とお勢 ーお勢ー

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夕飯の支度の忙しい最中に豪志さんが来た。
いまからお前を警護すると言う。
出し抜けに何言い出すんだよ!

私ゃ警護なんてもん要らないよ。
いくら断っても、副長の命令だからと言って動かない。
面倒くさい男だね、このクソ忙しい時に!

私から土方さんに断るから、そこをどいてと言ってもだめだ。
だって、幹部の別宅へ弁当を運ぶ男衆のじゃまになるだろ。
いくら言っても、豪志さんは台所を出て行かず戸棚の前に突っ立ったままだ。

副長助勤以上の幹部二十二人と、その家族をいれて三十五人分。
さらに腹を空かし飢えた狼の平隊士三十八人分の食事を私と三人の手伝いのおばん、
さらに五人の下働きの男衆で作らなきゃなんない。

一日二度の食事戦争だよ。
隊士のお侍の仕事は、見廻りで浪士と斬ったはっただろうが、
こっちの仕事はもっと大変なんだ。

たまに副長の命令で、東山の料亭から仕出し弁当を取ることがあるけど、
その時は賄い方は極楽だね。
私らの分も仕出しを取ってくれるしさ。

大方夕飯の片がついてホッとしたら、また豪志さんが近づいて来た。
副長に命令された時から、すでに警護は始まっていると言う。
なんだい、台所の隅で私をにらんでると思ったら、やってたんかい。

いったい誰から私を護ろうってんだい。
狙うやつがいるから警護すんだろう。
そう豪志さんに聞いたら

「俺も知らない。聞くことは副長から許されてない」と言う。
「あんたね、誰から護るかも分からないで、よく役目が務まるね。
私を狙うやつがいるとしても、看板さげて来やしないんだよ」

私と一緒に賄いやってる五十のおばんかも知れんじゃないか。
突っ立ってる豪志さんに、夕飯の膳を出してやった。
だって、みんなが食事してる大部屋へ戻ろうとしないから仕方ない。

おかずの煮魚は全員一匹だけど、特別二匹つけてやった。
この豪志錬太郎と言う若い隊士は、かなり変なんだ。
入隊まだ三日目だってのに、新選組隊士の名を局長から副長、副長助勤に至るまで全部言えるてんだ。

考えらんないよ!
監察方の山崎さんだって、半分知ってりゃいい方だろ。
いつか聞きもしないのに、俺は新選組マニアだと私に言った。

マニアってなんなんだい!
どこの国の言葉だい。
エゲレスかオロシアか。

私だからいいけど、他の隊士の前で言ったら斬られるよ。
特に近藤さんは異人嫌いで有名だから危ない。
そう言うの尊王攘夷佐幕って言うらしいけど、やだやだ!
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