悪魔の微笑み

真奈美の父は刑事だった。
本庁捜査一課の殺人課警部補である。名うての敏腕デカだったが、そのあまりの強行捜査に容疑者で深い恨みを抱くものが多く、ついに妻響子が自宅で虐殺される事件が起きた。
その場に幼い真奈美がいたが、虐殺を見せつけるように犯人は彼女には指一本触れなかった。
幼い真奈美が変わったのはそれからだった。
父上重は娘の変化になにも気づかなかった。彼女が女子中学生になって、それに気づいたのは上重の後輩堺だった。真奈美はすれ違う人間の目の奥を見て、それが殺人者と見抜く稀有な能力を持ってしまった。
目前で母を虐殺した男の目の奥に、それを見たからだ。
男には息子がいた。真奈美と同じ年の白貴と言う名の子供だった。
真奈美は一日に何人もの殺人者とすれ違う。
だが、彼女はどうしてもそれらの者たちを憎む気にはなれなかった。
なぜなら殺人者は憎悪や恨みだけを抱いて生きているのではないからだ。
その目の奥深くには例外なく深い悲しみがあった。危険な悲しみだった。
真奈美はその悲しみに強く惹かれた。母を虐殺した男にもそれがあった。
そんな人間たちをみるたびに、真奈美は「生まれ生まれ生まれ、生まれて生の始めに暗く。死に死に死に死んで、死の終わりに冥し」と言う空海の言葉が浮かんだ。自分も例外ではない。
そんな一人なのだ。彼らを憎むことも恨むことも蔑むこともできない。
24h.ポイント 0pt
0
小説 192,924 位 / 192,924件 ホラー 6,829 位 / 6,829件

あなたにおすすめの小説

触穢の代償――デッフェコレクション2――

せとかぜ染鞠
ホラー
「デッフェでお逢いしましょう」は婚活に励む人々を支援する縁結びの会社だ。会社の提供する出会い系caféでのbuffet形式のパーティーが良縁成就の苗床となることを願い,出会いの「デ」,カフェの「フェ」あるいはビュッフェの「ッフェ」を結合させて「デッフェ」を活動拠点の名称とした。そのデッフェにおいて恒例のパーティーが開催され,会員でもあるマジシャンの錦織光太祐(にしこりこうだゆう)がサプライズショーを行った。ギロチンマジックのさなか,アシスタントの娘は頸部に断頭台の大刃を落とされた直後に満面の笑みを振りまいたが,俄に身の毛も弥立つような嗄れた声を発し,八つ裂きにされてしまった……

あなたの嫁でした

プラネットプラント
ホラー
俺は妻と二人暮らしの三十男。そんな俺の職場に嫁だという美女が現れた。

イレンシ~壱~

ホージー
ホラー
自称自由を愛する男竹田広之 いつからかハローワークの常連となっていた俺は、顔なじみとなっていた職員からある仕事を紹介された。 そこは俺が想像していた場所と180度違う所だった! そしてそこから次々と予想外の事態が竹田の身に襲い掛かる!

池の主

ツヨシ
ホラー
その日、池に近づくなと言われた。

豆腐小僧・邪

四季人
ホラー
 笠を被り  笑って駆ける  胸の前に、大事そうに皿を抱え  その皿には、真白き豆腐が載っている  あはは  うふふ

怪異相談所の店主は今日も語る

くろぬか
ホラー
怪異相談所 ”語り部 結”。 人に言えない“怪異”のお悩み解決します、まずはご相談を。相談コース3000円~。除霊、その他オプションは状況によりお値段が変動いたします。 なんて、やけにポップな看板を掲げたおかしなお店。 普通の人なら入らない、入らない筈なのだが。 何故か今日もお客様は訪れる。 まるで導かれるかの様にして。 ※※※ この物語はフィクションです。 実際に語られている”怖い話”なども登場致します。 その中には所謂”聞いたら出る”系のお話もございますが、そういうお話はかなり省略し内容までは描かない様にしております。 とはいえさわり程度は書いてありますので、自己責任でお読みいただければと思います。

ホラーの詰め合わせ

斧鳴燈火
ホラー
怖い話の短編集です

七つの不思議のその先に願い事1つ叶えましょう

桜月 翠恋
ホラー
オカルトサークルという名目で今日も怖い話の好きな仲のいい8人が集まり今日も楽しくお話をする 『ねぇねぇ、七不思議、挑戦してみない?』 誰が言ったのか、そんな一言。 この学校の七不思議は他と少し違っていて… 8人が遊び半分に挑戦したのは… 死が待ち受けているゲームだった……

処理中です...