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猫と女と剣と

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「さっき、八木邸のおかみが来てましたが、何しに来たんです」
斉藤が言った。
「総司の猫を届けに来た」

「わざわざ壬生からここまで!おかみ、総司に会いに来てるんじゃないんですか」
「馬鹿野郎、今頃気がついたか!おかみは組が八木邸にあったころから、総司に気がある」

驚く斉藤。
「総司そんなにもてるんですか。やつの好みは、メス猫だけだと思ってましたが」

土方がうんざりしたように言う。
「総司のひいきは八木邸おかみだけじゃない。俺が知る限り、それ以外に十人以上はいる」

斉藤が絶句する。
「新選組で女にもてるのは、近藤さんと土方さんだけかと思ってましたが」

「近藤さんは金だ。あの大名みたいな格好と何百両(数千万)もの金に女が寄ってくる。だから近藤さんの女はすべて遊郭の女ばかりだ」
「そう言えば、総司はほとんど遊郭へ行きませんね」

「奴は遊郭の女も素人の女も、女と言う女が金目当てではなく寄ってくる。ほとんど相手にしないがな。口をきくの、は八木邸のおかみぐらいだろう」
「やつ、メス猫と話をしてます」

「先日、本願寺の境内で数十匹の猫に囲まれてる総司を見たが、ほんんどオス猫だった」
「どうなってんですか」

「正直に、好きなことをやってるだけだ。猫が好きだから可愛がる。優しくする。人間と同じように接する。それで懐かない猫はない」
「なるほど。俺なんか、猫を見かけると水をぶっかけるだけだ」

「猫も人間の女も生理で生きている。好き嫌いを嗅覚で嗅ぎ分ける。見せかけだけは通用しない。そう言う意味では、総司は本物だと言える。猫と女にもてて当然だ」

「俺には無理ですね。猫と女くらい分からんものはない。分かることは最初からあきらめてる」
「総司にとって剣も同じだ。彼が口癖のように隊士たちに言っている、人間は体で斬れ!がまさにそれを現している」

「技や力で斬るものではない、ってことですか」
「総司のような生き方を・・・俺も出来たらと、つくづく思う」
「副長は、女にもてるじゃないですか」

「俺も近藤さんも女と遊び、女を遊んでいる。所詮は慰みで、一時的なものだ。生きる目的ではあり得ない」
「総司はそうじゃないんですか」

「総司に取っては猫も人間の女も、剣も生きることそのものだ。攘夷のためとか、佐幕のためとかは決して思わない。近藤さんはそれが苦々しいんだが!」

「天下の浪士たちは皆そうですよ!天誅が生きる支えであり、幕府と会津、新選組を叩き潰すのが目的です。そのためなら命も捨てる」
笑う土方。

「だから、総司が羨ましいと言うんだ。やつはそんなものにはまったくこだわらん。やつがこだわるのは猫と女・・・いや、女にもこだわらない。やつに取って猫が生きるすべてだ」

「驚きましたね!変わったやつだとは思ってましたが、それほどだとは!」
「総司は人間のために人は斬らんが、猫を物扱いしたり命を奪うやつは、ためらいなく斬る!」

斉藤がため息をつく。
「ついていけない世界です。見廻りで不逞浪士を斬るのは、任務だからですか」

「そうだ。俺が目を光らせていなければ、やつは終日猫と遊んでいる」
立ち上がる斉藤。
「見廻りの時刻です」

「いずれ、この天下の騒動にもカタが付く時が来る。だが、総司の生き方は何も変わらんだろう」
「よく猫を試し切りにするやつがいますが、そんなところをやつに見られたら大変ですね」

「どんな斬り手でも、まず間違いなくやつは斬る!総司が本当に怒るのは、そんな時だ!それを見た時は・・・さすがの俺も引いた!」
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