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切腹命令
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猫の鳴き声がした。
窓の外で鳴いている。
俺はその声で目が覚めた。
びっしょりと油汗をかいている。
いまの夢は何だ!
最近、毎晩変な夢を見る。
なにか俺と関係があるのか。
これは以前から思ってたことだ。
また猫の鳴き声がした。
つづけて猫の威嚇する鋭い声もする。
俺は刀をつかんで部屋を出た。
中庭には五、六人の隊士が集まっていた。
全員が土塀に向かって立っている。
土塀の上の陽だまりに、一匹の三毛猫が寝そべっている。
隊士の一人、馬場十蔵が腰を落とし、猫に向かって抜き打ちをしようと刀を構えている
「俺は一両賭けた」
「一両五分だ」
後方の仲間たちから次々と声がかかる。
馬場が抜き打ちで猫を仕留められるか賭けているんだ。
俺は近づきながら言った。
「やめろ!」
猫が俺の姿を見て、喉をゴロゴロ鳴らした。
刀の柄に手をかけ、じりじりと猫の呼吸を計りながら馬場が言う。
「沖田さんも賭けますか。俺は斬りますよ」
「よせと言ってるのが分からんか!猫が斬れても斬れなくても、抜
いたらお前を斬る!」
猫は喉を鳴らしながら、身じろぎもせず俺を見ている。
馬場の腕では無理だ。
あの猫は斬れない。
俺はそう思った。
刀の間合いに入ってはいるが、
もっと踏み込みいつも隊士たちに言ってるように柄元で斬るつもりで抜かなければだめだ。
「あれは沖田さんの猫ですか。ならやめます。だが、八両懸かってるんだ。あんたに止める権利はない」
俺は無言で刀の鯉口を切った。
馬場の刀が一閃した。
猫はき軽々と飛び下がってそれをかわし、悠然と土塀を走り去った。
俺の刀が唸った。
一刀を抜くなり、振り向く馬場を逆袈裟で斬り上げた。
血煙が上がった。
隊士たちがわッ!と散った。
まさか、俺が本気で馬場を斬るとは思ってなかったのだ。
ゆっくりと馬場が崩れた。
俺は愛刀に残る馬場の血を懐紙で拭った。
隊士たちは、蒼白になって立ち尽くしていた。
猫の姿はどこにもなかったが、部屋の窓の外で鳴いていたのはあの猫だった。
その夜、俺は土方さんの部屋へ呼ばれた。
「近藤さんとも相談したが、隊士を斬ったとなると切腹は免れん。
副長助勤だから、江戸の道場以来の仲間だからと見逃すと隊の示しがつかん。・・・切腹だ。介錯は俺がやる」
俺は頭を下げた。
「当然、斬るべき相手を私は斬ったに過ぎない。いいわけはしません」
「そうだろう。理由なく刀を抜くお前ではない」
切腹は明日の朝と決まった。
場所は、山南さんが腹を切った母屋の八畳間。
腹を切る前に、もう一度あの三毛猫に会いたいと思った。
どこか懐かしい猫だ。
窓の外で鳴いている。
俺はその声で目が覚めた。
びっしょりと油汗をかいている。
いまの夢は何だ!
最近、毎晩変な夢を見る。
なにか俺と関係があるのか。
これは以前から思ってたことだ。
また猫の鳴き声がした。
つづけて猫の威嚇する鋭い声もする。
俺は刀をつかんで部屋を出た。
中庭には五、六人の隊士が集まっていた。
全員が土塀に向かって立っている。
土塀の上の陽だまりに、一匹の三毛猫が寝そべっている。
隊士の一人、馬場十蔵が腰を落とし、猫に向かって抜き打ちをしようと刀を構えている
「俺は一両賭けた」
「一両五分だ」
後方の仲間たちから次々と声がかかる。
馬場が抜き打ちで猫を仕留められるか賭けているんだ。
俺は近づきながら言った。
「やめろ!」
猫が俺の姿を見て、喉をゴロゴロ鳴らした。
刀の柄に手をかけ、じりじりと猫の呼吸を計りながら馬場が言う。
「沖田さんも賭けますか。俺は斬りますよ」
「よせと言ってるのが分からんか!猫が斬れても斬れなくても、抜
いたらお前を斬る!」
猫は喉を鳴らしながら、身じろぎもせず俺を見ている。
馬場の腕では無理だ。
あの猫は斬れない。
俺はそう思った。
刀の間合いに入ってはいるが、
もっと踏み込みいつも隊士たちに言ってるように柄元で斬るつもりで抜かなければだめだ。
「あれは沖田さんの猫ですか。ならやめます。だが、八両懸かってるんだ。あんたに止める権利はない」
俺は無言で刀の鯉口を切った。
馬場の刀が一閃した。
猫はき軽々と飛び下がってそれをかわし、悠然と土塀を走り去った。
俺の刀が唸った。
一刀を抜くなり、振り向く馬場を逆袈裟で斬り上げた。
血煙が上がった。
隊士たちがわッ!と散った。
まさか、俺が本気で馬場を斬るとは思ってなかったのだ。
ゆっくりと馬場が崩れた。
俺は愛刀に残る馬場の血を懐紙で拭った。
隊士たちは、蒼白になって立ち尽くしていた。
猫の姿はどこにもなかったが、部屋の窓の外で鳴いていたのはあの猫だった。
その夜、俺は土方さんの部屋へ呼ばれた。
「近藤さんとも相談したが、隊士を斬ったとなると切腹は免れん。
副長助勤だから、江戸の道場以来の仲間だからと見逃すと隊の示しがつかん。・・・切腹だ。介錯は俺がやる」
俺は頭を下げた。
「当然、斬るべき相手を私は斬ったに過ぎない。いいわけはしません」
「そうだろう。理由なく刀を抜くお前ではない」
切腹は明日の朝と決まった。
場所は、山南さんが腹を切った母屋の八畳間。
腹を切る前に、もう一度あの三毛猫に会いたいと思った。
どこか懐かしい猫だ。
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