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2章
・(菊池side)
しおりを挟むもう一度シャワーを浴びて布団も綺麗にしたというのに、歩の匂いが溢れたこの部屋がとても落ち着く。
あぁ、こんなにも愛おしくて
離れがたい存在が、この世にあるなんて…
歩が、痛くない、息苦しくない程度の力で抱きしめる。
息も、匂いも、体温も、安心感も
なにもかも、君がいるからこそ感じられる。
「………やだ」
起きていたのか、呟かれた拒絶。
その一言に心臓が跳ねた。
「って言えば、君は俺を殴るんだろ?」
「……」
あぁ、そうだ。
痛みで支配した。
恐怖で、抵抗する手段を奪った。
「俺さ………菊池の弱点を、ほんとは知ってた」
「君を好きだってこと?」
「俺が、自傷行為をすること」
「……」
もし歩が包丁を手に取り、君自身を人質にしたなら
なんだってした
されてないから、分からないけれど
きっと土下座して、許してくれてと涙ながらに懇願したに違いない。
「菊池は、俺が死に物狂いで対抗して、最終的にお前を訴えるのを待ってたんだろ?自分が、昔そうやったように…」
「誰に聞いた?」
「春日と田代って人から」
その後、少しだけ沈黙してしまった。
「……、違うよ」
「嘘つき」
嘘じゃないけど、誰かに気づいてほしかった…
少し殴られただけで泣いてしまうような
頭を撫でられるだけで喜ぶ
ちいさくて弱い、"僕"という存在が
まだ、必要とされたくて、心の奥底にいるんだって…
そして、パートナーを傷つけてばかりの俺は
本当にいつか大事な人を殺してしまいかねない。
俺から受ける暴行を肯定するな。
ごめんねを言い残して、立ち去らなくていい
罰を与えて、止めて欲しかった…
だけど、一人は嫌でしょうがない.
「俺に事情があっても、君を奪って傷つけていい理由には、ならないよ」
「……そうだね」
「そうだよ」
仕方ないなぁって、君が笑った気がした。
なんで、笑うの?
それに、こんな風に喋ったのははじめてで、何を言えば良いのか分からない。
「どうして、こんなこと聞いたの?」
「なんか……幼い子どもみたいに見えた?から」
ピクッと
この言葉に心の奥にいる"僕"が、顔を上げた。
「………俺が、怖いでしょ?」
「……うん」
うん。それが正解。
絶対に、絆されたりなんかしないで欲しい。
「でも、俺は…なにも、知らないんだ」
「知らなくていいよ、俺のことなんか」
「……愛されたかったくせに」
図星に、
一瞬、体が強張った。
「……俺も、そうだったから」
「………」
あぁ、ここで君が暴くんだ。
「ーーうん。」
愛されたかった
愛したかった
俺の心の中にある、大きい箱。
中身は、一人ぼっちの"僕"しかないから
そこに、君を押し込もうとした…
「やり直せると、思う?」
「…分かんない。俺、菊池を信じてないし、許す気もないから」
そうだね。
あぁ、どうして俺はいつも気付くのが遅いんだろ
身体だけでいいって思ってたのに
心が一番、欲しかったなんて…
「……言えば、よかったな」
「言ってよ」
「聞いてくれるの?」
「………今だけ、は」
あぁ、君は本当に優しいな。
俺は、こんなに甘えて 傷だらけにして
今も君の優しさがないと、足元から崩れ落ちそうなのに…
「田中歩くん、一目惚れだった。君が好きだ、付き合って欲しい」
最初から、
この言葉だけで 良かったんだ。
「ごめんなさい。でも、気持ちは受け取っとく」
「はは、ありがとう…」
「……?菊池?」
ずずっと、小さく鼻水を啜る.
あぁ、なんだ…
「明日から、もう…君は自由だから」
彼の頬にキスをして
涙ながらに笑いかけた。
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皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
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