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2章
(菊池side)
しおりを挟む【どうして?あのΩは、絶対受け入れてはくれないよ?】
「いい、許してもらう気はない」
【いまなら正義のヒーローになれるよ?】
「なってどうする」
俺は自分自身の、本能が嫌いだ。
一度でも頭に血が上れば、抑えきれない暴力性と、性欲が表に出てくる。
酷く飢えていて
氷のように心は冷えていた
相手を犯し、脅し、徹底的に服従させることで手元に置けば誤魔化せた。
きっと服従させたいという欲求が満たされていたからだろう
『も、やだ・・っ、やだ、けて――先輩っ、―…さん、…』
最初から、アイツの目に俺がいなくても
俺を、受け入れらなくても…
「歩」
店の二階。扉を開ければ、その部屋には布団に隠れるよう、不自然に盛り上がった塊がひとつ、ベッドの上にあった。
声をかけるとピクリと動いた彼の肩。
どうやら意識はあるらしい
(なんで、俺以外に触れさせた?)
この空間で、なにがあったかなんて一目瞭然だった。
男はそこの窓から逃げたのだろう。けど不愉快な臭いが、こんなにも部屋中に籠っている。
誰が見ても言うだろう、慰めるだろう。
―――田中歩は、可哀想な被害者だ、と。
【誰かが 触ったね】
分かっている
分かっているのに、ダメだ。
【その体を、誰かに触らせた】
【所詮、彼も本能には逆らえないんだ】
嬌声と悲鳴を聞かせた
目を合わせた
許せない怒りの感情が、腹の奥から込み上げてくる。
(――――、殺してしまおうか)
きっと、歩を殴っても首を絞めても気が済まない。
それなら最後は春日も殺してしまえばいい。
【俺以外を感じる身体なんて、不良品だ】
「もうちょっと、賢いと思ったんだけどなぁ」
「あぁ、そうか。元々、歩はヤれたら誰でもよかったっけ」
「エッチが大好きな淫乱ですって、いつも俺に言ってたもんねぇ?」
そうだ。歩には最初からセフレ野郎がいたじゃないか。
好き好んで野郎に股を開くような、Ωだったことを忘れていた。
だから、俺が悪いんじゃない。
俺のモノだと理解できて、いないのなら
きちんと反省してもらおう。
そんなことを考えていたら、足が止まっていることに気付いた。
おかしいな、これじゃまるで俺がビビッているみたいじゃないか…
「……なにしに、来たの?」
だるそうに上半身をあげ、その素肌を俺に前へと晒す。
虚ろな目で、歩は言った。
「わざわざ、俺を殴りに来たわけ?」
煽るようでも、それが精一杯な発言だと分かっていた。身体は震えているし、さぞかし屈辱だったに違いない。
俺が優しい人間だったなら……
だけど、ダメだ
真っ黒なんだ… どうしようもないほど
「まさか、迎えに来たに決まってるでしょ?」
「……お仕置きとか言って、酷くするくせに…」
煽っているというより自暴自棄に近い台詞だ。
あぁ でもグラグラと揺さぶられてしまう。
何で自分以外を受け入れた?
俺以外の臭いと印をつけておいて、優しくしてやる気なんかない。
あぁそうだ。
身勝手だと分かっていても、いっそ俺以外に犯されるくらいなら 舌を噛んで死んでほしかった。
「無理やりでも感じるようになったもんな。お前」
殴って殴ってぐちゃぐちゃになった顔で、泣かせてやりたい。
避妊なんかせずに容赦なく突っ込んでやろうか…
「……そう躾けたのは、誰だよ」
強がった口調は自虐のつもりだろうか
「お前みたいな股のゆるい恋人を持つと、大変だわ」
吐き捨てた瞬間、彼の自尊心を酷く傷つけた。
「っ、どっか行けよ!お前のせいでっ、お前のせいでこんな、なんで、俺がっ、お前なんか好きじゃないのに…!」
「………」
「お前のせいだろっ!?こんな…、なんで俺だったんだよぉ、…」
ボロボロと涙があふれている。
歩の酷く傷ついた顔なんて、もう何度も見た表情だ。
今更、くれてやる情も容赦なんかもない。
「そんな口、俺に聞いていいと思ってんの?」
「ひっ…!」
とっさに身を守る彼と、握りしめたまま振りあがる拳だけが、あった。
「なんで…?」
そんな質問は、何度も聞いた
耳にタコができるほど聞いて、同時に君の泣き声も聞いた。
慣れた行為だった
恐怖で支配するのが、一番手っ取り早くて効率がいい。
その経験に従い、俺はいつものように、拳を振り下ろしたはずだった―――
「……歩、歩っ」
気が付けば、その小さな体を 強く抱きしめていた。
「くるのが、遅くなってごめん…」
ぽつりと言った言葉には、きっと歩は耳を疑っただろう
でも、それどころじゃなかった
来るのが遅くて ごめん。
巻き込んで ごめん。
ぜんぜん、優しい言葉がでなくて、ごめん。
「…傷つけて、ごめん」
「…っ、…」
自然と出てくる謝罪の嵐はあっても、これは改心なんかじゃない。
許して欲しいわけじゃない…
ただどうしようもなく、君に縋っている。
「此処にいてくれて、よかった」
もし、いなかったらどうしてた?
死に物狂いで探して、探して、それでも見つからなかったら?
このまま不安という感情に圧し殺されるかと思った。
でもそれ以上にーーー、
「怖かったよな」
「……っ、…!」
「よく、我慢してくれた…っ」
もし、耐えてなかったら必要以上に暴力を振るわれていたかもしれない。
それよりも、もっと酷いことをされたかもしれない…
「なんでっ、お前が…泣くんだよ、ばかぁ」
そう言った後、
彼は聞いたことのない大声で泣いたーーーー
怖かった
つらかった
お前のせいだ
なんで もっと早くこなかったんだよ!
震えた声で ただ訴えて泣き叫ぶ
「う"あ"ああっ、ああああああ」
「……っ、」
ぎゅっと抱きしめることしかできない。
言葉は余計、君を傷つけてしまうから…
落ち着け。
大丈夫だ、腕の中に歩がいる…
もう、二度と… 絶対に傷つけない
それだけで、怒りや不安が消えてくれた。
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