ひつじをください

田舎

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2章

???side

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街中の片隅にある既に廃業した小さなイタリアンレストラン。
もう店ではないというのに思い出深いこの場所を父にねだり購入してもらった後、リフォームを施し内装はほぼ昔の状態を再現してある。

バーカウンターの長い酒棚には色んなメーカーから揃えた銘酒を置き、数席あるテーブル席には白テーブルクロス。
ただし、ここにはシェフもオーナーもいない。


主は僕、ただひとり。






「春日(カスガ)さん。本当によかったんですか?」

「…なにが?」

取り巻きの一人が怯えたよう僕に話しかけてきた。
覇気のない態度にイラッとして少し睨みつけてやると、ヒッと小さな悲鳴を上げた。


「そんなに睨みつけちゃ可哀想ですよ、春日さん。彼が心配してんのは…この誘拐紛いのことです」
「田代…」

田代が指差すのは僕の膝上。
というか膝枕してあげてる少年、田中歩君のこと。

嗅がされた薬がよく効いているらしい。閉じた目が開く事はまだしばらくなさそうだ。

写真でしか見たことがなかったけど、本当にΩなのか疑うほど平凡な顔立ちだ。
発情期なんてなければ、良くてもβの中くらいだろ。

まぁ、こんなんでも今は大事なゲストだ。


「仕方ないって。Ωって警戒心高いから、基本知らない人間にはついてこないじゃん?僕としてはこっちの方が静かでいい」

よしよしと頭を撫でると、意外と手に馴染む触り心地。
勿論、タイプではないけれど、僕の中にあるαの本能が少しだけΩに反応した。


「何を呑気に言ってんですか。手足縛ってる時点で、抵抗される気もないくせに」


あ、やっぱバレてた。


「春日さん。その子が起きたらどうするつもり…って、何してんですか?」

「んー?ちょっと脱いでもらおうかなーって」

田代の小言を無視して眠っている彼のシャツのボタンを外す。
その下は案の定…、

「あー……このまま犯してもいいし、この首輪外して他のαにあげてもいいかなーくらいには思ってる」
「……春日?」
「も~冗談だってば。そんな怖い顔しないで」

白い肌に映えるのは、無数の噛み跡と傷、赤い斑点。
それも背中にまでついてる。
何故これで頸を噛まれていないのか?と思えるくらい、"兄"の異常な執着心が垣間見える。


「歪んでるよなぁ、相変わらず」

まるで狂ったように絵描かれたキャンバスのようだ。
さすがの田代も引いた顔をしている。

「確かにそうですが…春日さんが言っちゃいます?」
「あははは。そうだった」

そうしたのは、僕の方だった。

あの人は普段どんな愛し方をしてるんだろ。

願っても憎しみと暴力しか与えられなくて、いつかそれを愛情と錯覚してしまうほど歪んでしまったのか?

性格破綻した兄が、バース性に拘らずとっかえひっかえしているのは知っていたけど、最近この歩だけがアパートに出入りしていることを知った。


まさか…と思って連れてきたら、
いよいよ可笑しくなってしまったのか?

よりにもよって、男のΩに執着するなんて…


あー、でもなんだっていいや。


「早く会いに来てよ。雅之おにーちゃん」


早く、僕に会いに来て…。
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