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しおりを挟む「アシカショーを観たら、ペンギンのお散歩タイムみよーか。他にも…」
「そ、そんなに観る?」
「あ?」
俺の失言に、菊池の表情が崩れた…。
―――楽しそうに話す彼を遮ってしまった。
俺だって水族館は好きだし、ゆったりできる時間は落ち着く。
【せっかくきたんだし、ゆっくり観たいな】
そんなつもりだったけど、一緒にいる人間が人間だ。
焦りが滲む。
「あ、あの…嫌、とかじゃなくて…」
場所に癒され少し気が抜けてたとは言え、いくらなんでもうっかりしすぎだ!
言い訳できる言葉も出てこない。
冷や汗をかきながらあたふたしていた。
「いや、俺こそ悪かった。歩だってゆっくり観たいよね」
「え」
呆気にとられてしまった俺をみて、「あれ?違った?」と彼は首を傾げている。
いや、そうじゃない。
お前は、そんな顔や反応をする奴なんかじゃないはずだ
「菊池さ…。なんで今日はデートに、誘ったの…?」
今日一番の疑問。
なんで、今さら機嫌取りのような真似をするのか。
ドクドクと緊張感から心臓が速くなった。
菊池は一方的に俺に暴力を振るって、嬲って抱き枕にする。
学校では一切俺に関わってこない。
擁護もなにもしないから、俺がクラスでどんな扱いをされているかも知らない。
拒否すればあの手この手で脅してくる…
最低最悪なα様だろ?
モノ言いたげな俺の表情を読み取ったのか、彼は苦笑しながら言う。
「だって歩、俺と二人っきりだと泣いてばかりでしょ?ここでなら、ちゃんとした笑顔が見れるなぁって思った」
泣きたくて、
泣いているんじゃない。
「……」
「そんな顔しないで。ショーがはじまっちゃうよ?」
機嫌のよさそうな笑みを浮かべている。
手を繋ぎたいのかそっと手の平を差し伸べられても、その手を取る気にはならない。
嫌いだ。
やっぱり最低な男だ…。
「あ、あの…!」
そんな時、どうやら恋人同士じゃないと判断したらしいお姉さんたちが近寄って来た瞬間、
「ごめんね、オネーさん達?この子は俺の恋人だからさ。一緒には遊んであげらんない」
「!?」
腕を引かれると人前で大胆にも、ぎゅーっとキツく抱きしめられ頬にキスをされた。
その行動に俺もお姉さん達もぎょっと目を剥く。
「ば、バカ!こんな人前で…!」
「牽制。歩かわいいから、目を離すと今も誰かに持ってかれそうで心配」
「ーっ!?」
平然とそんなことを言うせいで、より一層周りの視線が俺に向いた気がした。
背中が痛くて、じわじわと体が熱い。
「せっかくのデートだから、楽しもうよ」
「だったら、離してよっ!」
渾身の力でようやく突き放すと、俺の真っ赤な顔にニヤリと口の端をあげ、今度は俺の片手を引っ張って歩き出した。
後ろからさっきのお姉さん達が「お幸せに」と呟いたのは聞こえないフリをして…。
「き、菊池…!?」
「俺ね、動物園とか美術館とかは他の奴とも行ったことあるんだけど、水族館ってはじめてきたんだ」
「此処だけは、どうしても"特別"な人と来たかったから」
特別の一言に、ズキっと胸に痛みが走った。
『ごめん。忙しくてデートとか出来なくて…。けど歩は良い子だから理解してくれるよな?優しいから許してくれるよな…?』
そんな所だけはあの人にそっくりじゃないか。
興味がないくせに相手が言われて喜びそうな嘘を、一体何人の人間に言ってきったんだ?
――信じない、絶対。
「また後で、さっきのでっかい水槽観ようね」
「…、うん…」
そして、絶対に笑わないと決めていたはずなのに、アシカショーで思いっきり水をぶっかけられた菊池に爆笑してしまった。
その菊池の耳が…
一瞬だけ、少し赤く見えた。
(気のせいだよな)
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自由に泳いでいるようで
泳げてなんかいないんだ
あの青い空には、すぐそこに終わりがあって
ぼくの 小さな世界みたいだね。
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