14 / 47
あか
しおりを挟む「昨日の帰り道さ、菊池先輩がB‐FACEにスカウトされてんの見ちゃった」
「嘘!?俺、あの雑誌買ってるんだけど!?」
朝登校するなりその名前が聞こえてきて、無意識にも靴を仕舞う手が止まってしまった。
雑誌の名前を聞いてもピンと来なかったけど、他の生徒達の驚きと興奮が混じった声からして若者向けで有名所の雑誌なのは理解できた。
「いやーそれが断ってたわ」
「えぇ!?もったいねぇ…。α様ってだけでも勝ち組なのに、あの顔だもんなぁ」
「まぁ…彼氏つーか、"お気に入り"の方はアレだから美意識は低いかもだけど」
(…………!)
その先を聞きたくなくて止まっていた手を動かし、そそくさとその場を立ち去るように逃げる。
「あの人はもうオーラからして一般人じゃねぇよ。三年同士でも近寄りがたいって部長が言ってたし~…・…」
幸いにも会話に夢中で地味で"アレ"の存在が近くにいたことには気付かれなかった。
(あんな最低最悪な性格なやつのどこがいいんだよ…)
その近寄り難いα様こと菊池雅之は、本性を隠しているだけだ。裏では暴力で無理やりΩを従えていると教えてやりたい。
人を人とも思っちゃいない自己中心的な男。それが菊池だと…
ガラガラガラ―――
苛立つ気持ちを抑えながら静かに扉を開けたのに、入ってきた田中歩に気付くなり中にいた生徒達の視線が一瞬集まった。
「……」
菊池に見つかった日。早退するから教室に置いてある鞄を取りに行きたいと懇願すると、まさか菊池自らが引き取りに一年のクラスへと足を運んだ。
その行動のせいでクラスメイト達…いや、学校中の人間が知っている。
憧れの的である菊池雅之。そのお気に入りは、よりによって田中歩というパッとしないΩであることを。
俯いたまま席に座ると、ようやく視線から解放された。
こんな時、つくづく窓際の席でラッキーだったと思う。外を見ることで視線や感情を違うところへ持っていけるから救われる。
(お腹痛い……)
元々、目立つチョーカーのせいでΩだってことはバレていたし、あまり親しい友達もいない。
それでもひっそりと頑張っていたのに、クラスメイト達からは以前よりもずっと距離が遠くなってしまった。
『なんで、うちのクラスはΩなんだよ』
『αとΩを同じクラスにするのがまずいってのは分かるけどさぁ…。うちも秋月みたいなのが良かったなぁ』
秋月…隣のクラスにいる1年のアイドル的存在でΩ。
自分達の会話が歩本人に丸聞こえだと分かっていてワザと言うのだ。
”菊池先輩はΩの発情フェロモンにあてられて、その責任から田中歩なんかと付き合っている。"
他人と比べられるのも、周囲を落胆させるのにも慣れていた。
俺としても菊池と秋月が並んでいるほうがずっと絵になると思うし、出来るならそうして欲しい。
(図書室…行きたいな)
あの人がいる場所に行って、泣きつきたい。
菊池に脅され、彼氏が出来たとメッセージを送った日
『了解。幸せになれよ』とだけ返事が来た。
それ以降、連絡のやり取りはしていないし図書室にも行っていない。
『いつかお前は、αを選ぶ日が来るよ』
『なんで、そんな寂しい事言うんですか…』
例え、俺を望んでくれるαが現れても先輩が引き止めさえしてくれれば、どこにも行かない。
その重すぎる気持ちを胸の中に留めて『俺は先輩がいいです』と笑った。
俺が菊池の関係については、当然先輩の耳にも入っているだろう。
散々αを否定しておいて、この裏切り行為だ。
もし、あの人に会ったところで――――…。
(先輩に会いたい…)
いい結果にはならないと分かっていても、心の中で俺が頼れるのは…元セフレだった先輩だけ。
想い出したら溢れる感情はもう止まらない。
会いたい、叱ってもらいたい、慰めてもらいたい…
じわじわと涙が滲んでくる。
「…・、…つ、かれた…な」
そんな小さな嘆きも、誰の耳にも入らなかった。
1
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話
あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ハンター ライト(17)
???? アル(20)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
後半のキャラ崩壊は許してください;;

変なαとΩに両脇を包囲されたβが、色々奪われながら頑張る話
ベポ田
BL
ヒトの性別が、雄と雌、さらにα、β、Ωの三種類のバース性に分類される世界。総人口の僅か5%しか存在しないαとΩは、フェロモンの分泌器官・受容体の発達度合いで、さらにI型、II型、Ⅲ型に分類される。
βである主人公・九条博人の通う私立帝高校高校は、αやΩ、さらにI型、II型が多く所属する伝統ある名門校だった。
そんな魔境のなかで、変なI型αとII型Ωに理不尽に執着されては、色々な物を奪われ、手に入れながら頑張る不憫なβの話。
イベントにて頒布予定の合同誌サンプルです。
3部構成のうち、1部まで公開予定です。
イラストは、漫画・イラスト担当のいぽいぽさんが描いたものです。
最新はTwitterに掲載しています。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

精霊の神子は海人族を愛でる
林 業
BL
海で生活し、人魚とも呼ばれる種族、海人族。
そんな彼らの下で暮らす記憶喪失の人族、アクア。
アクアは海人族、メロパールと仲睦まじく暮らしている。
※竜は精霊の愛し子を愛でると同じ世界です。
前作を見ていなくとも読めます。
主役は別です。

「じゃあ、別れるか」
万年青二三歳
BL
三十路を過ぎて未だ恋愛経験なし。平凡な御器谷の生活はひとまわり年下の優秀な部下、黒瀬によって破壊される。勤務中のキス、気を失うほどの快楽、甘やかされる週末。もう離れられない、と御器谷は自覚するが、一時の怒りで「じゃあ、別れるか」と言ってしまう。自分を甘やかし、望むことしかしない部下は別れを選ぶのだろうか。
期待の若手×中間管理職。年齢は一回り違い。年の差ラブ。
ケンカップル好きへ捧げます。
ムーンライトノベルズより転載(「多分、じゃない」より改題)。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる