ひつじをください

田舎

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(…・熱いっ)


散々付き合わされた深夜、あまりの暑苦しさに目を覚ます。チラッと見ると、いつものように俺を後ろから抱きしめてすやすや寝気を立てている菊池の姿。


体が痛い、何度も噛まれた背中や腕が痛い。
そんな俺の悲鳴や嘆きを聞いても、俺が苦しんでいることを理解しちゃいない。
まるで子供がお気に入りのおもちゃを噛む行為と同じだ。


好きも愛も、与えなければ返ってくるものじゃない。
それがその年になっても分からないのか


頭上の置き時計を見ると、23時50分。


『今日、誕生日なんだよ』


なら、なんで実家に帰らないんだよ。

「俺じゃなくても、いいくせに…」

祝ってくれそうな友達も、いくらでもいるだろ?
ケーキなんか買ってきてご機嫌取りかと思いきや叩かれ泣かされ、こっちは散々だ。

気にせず目を瞑り眠ろうとした時、


「…・…、ない、で…」


「………っ、!?」

耳元で、か細く弱弱しい声が聞こえた。

たぶん『いかないで…』と。

消えそうで悲痛な声で訴えかけている。

思わず目を見開いて身をよじろうとしたれど、実は起きていてまたロクな目に遭わないとも限らない。
そう考えると自然と動きは止まった。


「…、い…っ、で……」
「………」

やはり聞き間違いではないらしい。
ぐぐぐと縋りつく力が強くなる腕と、震える声。固く閉じた目尻からは今にも涙が出てきそうだ。


最低な暴君が、
    さびしい、と…泣いている.




(くそ、なんでこんなこと…考えなきゃいけないんだよっ)

被害者は俺だ。
こんな最低なヤツなのに…俺よりも年上なのに…。


「………お誕生日、おめでと…」
「…・…っ…」

ぼぞぼそとまだ何かを呟いている。
その声は歩には理解できないほど小さい。


「…………ケーキ、美味しかったね」
「…・…うん…」



菊池は満足そうに頷いたけど…

なんだろう、俺の方が泣きそうだ。






_______________





(お誕生日おめでとう、雅之)

そうやって俺に笑いかける君がいる.




そんな夢を見た。
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