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番外編?ボツネタ

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前半宿屋ネタ。
短いですがもう一つあったので…









(真斗視線)



(俺がいない間に何があった…?)

哀愁の漂う寂しげな背中だ。真斗が宿泊代の支払いと田中への電話と諸々を終えて客室に戻れば、しょんぼりしている雪路がいた。

「どうした?なにをそんなに暗くなっている?」
「あ、…いえ。もう帰る時間なのですね」
「ん?」

どこか痛むのか?と心配になったが、振り向く雪路の表情に曇りはあっても苦痛はない。
雪路の心は不安定だ。数分でも一人にさせたのが心細かったのか、しかし先ほどの言葉には、"もっと真斗と二人で宿屋に居たかった"などの健気な含みがあるように思えないこともない。

「ま、まぁたまには外泊も悪くない。そんなに温泉が気に入ったのなら今度は、」

今度はもっとゆっくり滞在しよう、などの台詞など柄ではなかったが…
気恥ずかしさを咳で誤魔化し近寄れば、雪路の両手が大事にそうに持っている物が視界に

「‥‥‥‥食うなよ?」

警告はしておかなければ、と瞬時に思った。
雪路が両手で持っていたソレは真斗が射的で当てた菓子箱だ。それも今の姿は雨と泥にまみれ、そして雪路に押し潰された事でぐちゃぐちゃになっている。

「ダメですか?まだいけると思ったのですが」
「いけるものか、そんなもの食ってみろ百腹を壊すぞ」
「でも」
「でもじゃない。同じものを買ってやるからそれは諦めろ」
「………おなじ、もの…?」

おおかた真斗に貰ったものだから大事にしたかったと後悔しているのだろう。しかしゴミまで大事にされてはたまったもんじゃない、それはもう不要なものだ。
そしてその真斗の気持ちが分からない雪路でもなかった。

「いいえ、同じものなんていりません」
「は?」
「これは私が、あのお祭りで真斗様から貰ったものです。ちゃんと私のモノです」

ゔっ…!?
大方の予想通りだったが、ぷすぅと拗ねた子供のように頬を膨らます雪路に、24歳の男の心臓が射抜かれた。
 
(クソッ、なぜ菓子の箱ひとつに良心を痛めにゃならん!?)

それに持って帰ってどうなる?腐る、カビる、虫が湧く、どうあってもロクな状態にはならない。
真斗は正しく、間違えたことは何も言ってはいない。

ただ捨てるという言葉を知らない雪路を説得するのは中々大変であった。





「と、あのときは本当にヒヤヒヤさせられたな」
「う、っ…でも、ちゃんと食べずに捨ててきましたよ!?」
「それは当たり前だろ」

ベッドの上で真斗様は意地悪そうな顔をしている。
泣く泣く捨てたとはいえ、あの菓子の箱は俺の愚かな行動と汚い心を表してくれたものです。今後の反省のためにも手元にあって欲しかった。

「お前が見るたびに罪悪感を与えるモノなどウチには置きたくないのだがな?」
「そうやって私を甘やかしてばかりだと、私が調子に、わぁ!?」

ごろんと寝そべった真斗様に腕を引かれると、俺の体なんてものは簡単に腕の中に引き寄せられた。
(あ!これは、お前の話なんぞ聞かないってときの態度だ!!)
しかしこれをされると慣れない緊張のあまり、あぁだこうだと言えなくなる。

「真斗様は、ずるいです…」
「こんなやりとりにも慣れてきたからな?あぁそうだ、明日はお前の言う調子に乗るとかいう姿を見せてみろ」
「へ……?」
「甘えるだの怠けるでもいいぞ?思いつく不良行為で俺や田中を困らせてみせろ。そしたら俺もお前を可愛がるだけでなく、雪路にも厳しさが必要だと少しは改めるだろうな」

本当ですか!?

正直、真斗様は俺に甘すぎて困る。それは戸惑う俺をみて真斗様は楽しんでるのでは!?って疑いたくなるほど、今じゃ田中さんの前でも遠慮してくれないのだ。

(しかし不良行為をしろとの命令は一体!?)


突然の課題に目を丸くする雪路と、さぁてなにを仕出かすのかと細く微笑む真斗だった。









おまけ



~~翌朝~~



「おはよう、雪路」
「…………」
「ん?どうした黙って?」
「ダメです、わた…っ、俺は挨拶を無視しているのです…!不良ではありませんが、どうです!?不敬極まりないでしょう!?」

ほら、無視されて困るでしょう!?ふんふんと、悪いことしてるのに何故か興奮してしまう眼差しで真斗様を見上げたのだけども、


「ーー……」


「!?!? あっ、あの、田中さん!大変です、真斗様が怒りのあまり固まってしまいました!」
「……あぁ、大丈夫ですよ。雪路様の無垢な心を弄ぼうとした罰です。それより本日は雪路様が、それはそれは大変怠けられると聞きました。急な事で上物ではございませんが紅茶とお菓子など取り揃えましたが、その前に街にでも行きますか?それかたまには散歩も良いでしょうね。全員、いつでも準備はできております」

「え、えっ…田中さん?」

「さぁさ、こちらへ。旦那様の仕事中は我々鬼崎家の使用人らが、雪路様の面倒見ますので」


笑顔なのに、、皆さんの強すぎる圧にひゅっと息が漏れた。





(全力でお世話された)


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