10 / 28
10
しおりを挟む
(……お、おれは…っ、真斗様になんてことをっ!?)
翌朝、俺はベッドの上で悶絶していた。
一生の不覚だ、恥だっ!!
真斗様の前で散々泣き喚いたあげく泣き疲れて眠って、目が覚めたら借りてる部屋のベッドの上!さらに俺の情けない姿を田中さんにも見られてしまった。
「うぅ、母さん…。みんなに合わせる顔がないよ」
母さんに縋りつきたいけど、そろそろ朝食の支度をする時間だ。いつまでも部屋に篭るわけにもいかない。
――――よし!なんとしても汚名返上だ、頑張ろう!!
のろのろと起き上がり身支度が終わった後は、バチン!と自分の両頬に気合いを叩き込んだ。
なのにーーー…
俺が厨房に顔を出すなり「あらら…」なんて失笑する田中さんと、俺を怪訝そうに睨む真斗様。
咄嗟に昨夜のことを叱られるのだと思った。
「あ、あの昨日は―!」
昨日はご迷惑をおかけしました。とは言えなかった。
えっ、あ、…!?頭を下げる前に俺の体はズカズカと近寄ってきた真斗様に勢いよく担がれ、部屋へと連れ戻されてしまった。
そして今、顰めっ面の真斗様に俺は看病されている。
「ほら、雪路。口を開けろ」
「は、はい…」
躊躇いながらもおずっ…と口を開けスプーンの上に乗せられた卵粥をいただく。
ふんわりとした味は胃をほっこりと癒してくれる。そういえば昨日は夕食をほとんど食べてなかったや…。久しぶりの食事に思わず口がほころんだ。
「おいしいです」
「そうか。食べ終わったら今日は寝て休め」
「そんなっ、大丈夫です!休むほどの風邪では、」
「雪路」
――――っ。真斗様から強い口調で名前を呼ばれたのは初めてで、心臓が跳ねそうだった。
でも…嫌だ。今日は頑張ろうと決めていたんだ。こんな…ちょっとした熱や体の不調で働けないなんて…。
「元気になるまで休むだけだ、決して悪いことじゃない。それとも俺の言葉に従うのはまだ不安か?」
「…っ、…だ、だって…」
『だって?』 俺は続けて何が言いたい?
昨日言われて気づいた事じゃんか、ここは榊家じゃないって。主人である真斗様が休めと命令するなら遠慮する事ない、けど…。
「本当にいいんですか?一度でも休んでしまったら、私……怠け癖がつくかもしれませんよ?」
信じてもいいのか不安だった。
元気になっても仕事を取り上げられたり食事を抜かれたりしないだろうか…無視をされたりしないだろうか…。
真斗様がそんなことをしないとか、するとか―――― 俺には分からないから、どうしても経験と教えられた事を基準に考えてしまう。
「はっ、お前が怠ける?それは是非見てみたいものだな?」
「っ、いいんですか?働かないんですよ?」
「構わん。お前は頑張りすぎだ。多少手を抜いてもらった方が、こっちが安心できる」
「そんな!こんなにもお世話になってるのに、…っ」
うまく言葉が出てこない。
それよりも働きを認められていた事にチクッとまた、目の奥が痛い…。
ああ、昨日あんなに泣いたせいで涙腺が壊れてしまったんだ…。
「これで今日お前が動き回るようなお転婆者だったら困るな。見つけ次第、鎖に繋いで俺の部屋に閉じ込めるよう田中に言っておくか」
「えっ!?」
「目を離せば倒れるまで無理をしそうだからな」
あまりの衝撃発言に俺は目を剥いた。けど真斗様は至って真面目だったらしく顔を傾けている。
「そんな…お、俺などが真斗様の部屋に入るなんて…!」
「恐れるのがそっちか。ふん、いつか寝泊まりする部屋が同じになる日が来るかもしれんのだ。この際慣れておくか?」
「へ!?」
それはつまり……、!?え、どどどどどどうしよ…!
すごく胸がドキドキするし、どんどん顔が熱くなってきた…。だって真斗様と、俺なんかが…っ!?月とスッポン、まさに天と地ほどの差があるのに、そんなこと想像するだけでも恐れ多い!
「ん?顔が赤いな、熱が上がってきたのか?」
ひぇ!? ピタッと俺の額に真斗様の手があてられた瞬間、本当に心臓が止まった気がした。
だ、だめですこれ以上は……!
「っ、ぅ~~~…!だめです…あ、あんまり俺を、甘やかさないでください…」
優しさに飢えてる俺の心が勘違いしてしまいますと、困り顔なのにきっと茹で上がってるに違いない。
じっと上目遣いで真斗様の顔を見れば、やはりやり過ぎたと思ったのでしょう、ぐっと片手で口元を覆い隠しふいっと俺から顔を背けられた。
(そうですよ。そういうのは、…もっと、大事な方に…)
俺はじゅうぶん過ぎるくらいの優しさを与えてもらった。それに昨夜、慰める為でもまだ俺を婚約者だと言ってくれたのは本当に嬉しかった…。
「っ、今日は早く帰ってくる!なにか欲しいものがあれば呼び鈴を鳴らすといい。まぁ呼ばずとも誰かが様子を見に来るとは思うがな?俺はもう行く」
「え、…はっ、はい!あの…、!」
「ん?なんだ?」
「いってらっしゃい、真斗様」
勢いよく立ち上がり早口で部屋を出て行こうとする真斗様の背を、寂しいと思いながらベッドの上から見送った。
病で臥せっていた母さんも、こんな気持ちだったのかな…
「あぁ、雪路。行ってくる」
ーーーたぶん全然 違う。
わざわざ振り返っての、
光に満ち溢れた堂々とした姿は、太陽みたいだ。
だから俺は安心して待ってられる。
翌朝、俺はベッドの上で悶絶していた。
一生の不覚だ、恥だっ!!
真斗様の前で散々泣き喚いたあげく泣き疲れて眠って、目が覚めたら借りてる部屋のベッドの上!さらに俺の情けない姿を田中さんにも見られてしまった。
「うぅ、母さん…。みんなに合わせる顔がないよ」
母さんに縋りつきたいけど、そろそろ朝食の支度をする時間だ。いつまでも部屋に篭るわけにもいかない。
――――よし!なんとしても汚名返上だ、頑張ろう!!
のろのろと起き上がり身支度が終わった後は、バチン!と自分の両頬に気合いを叩き込んだ。
なのにーーー…
俺が厨房に顔を出すなり「あらら…」なんて失笑する田中さんと、俺を怪訝そうに睨む真斗様。
咄嗟に昨夜のことを叱られるのだと思った。
「あ、あの昨日は―!」
昨日はご迷惑をおかけしました。とは言えなかった。
えっ、あ、…!?頭を下げる前に俺の体はズカズカと近寄ってきた真斗様に勢いよく担がれ、部屋へと連れ戻されてしまった。
そして今、顰めっ面の真斗様に俺は看病されている。
「ほら、雪路。口を開けろ」
「は、はい…」
躊躇いながらもおずっ…と口を開けスプーンの上に乗せられた卵粥をいただく。
ふんわりとした味は胃をほっこりと癒してくれる。そういえば昨日は夕食をほとんど食べてなかったや…。久しぶりの食事に思わず口がほころんだ。
「おいしいです」
「そうか。食べ終わったら今日は寝て休め」
「そんなっ、大丈夫です!休むほどの風邪では、」
「雪路」
――――っ。真斗様から強い口調で名前を呼ばれたのは初めてで、心臓が跳ねそうだった。
でも…嫌だ。今日は頑張ろうと決めていたんだ。こんな…ちょっとした熱や体の不調で働けないなんて…。
「元気になるまで休むだけだ、決して悪いことじゃない。それとも俺の言葉に従うのはまだ不安か?」
「…っ、…だ、だって…」
『だって?』 俺は続けて何が言いたい?
昨日言われて気づいた事じゃんか、ここは榊家じゃないって。主人である真斗様が休めと命令するなら遠慮する事ない、けど…。
「本当にいいんですか?一度でも休んでしまったら、私……怠け癖がつくかもしれませんよ?」
信じてもいいのか不安だった。
元気になっても仕事を取り上げられたり食事を抜かれたりしないだろうか…無視をされたりしないだろうか…。
真斗様がそんなことをしないとか、するとか―――― 俺には分からないから、どうしても経験と教えられた事を基準に考えてしまう。
「はっ、お前が怠ける?それは是非見てみたいものだな?」
「っ、いいんですか?働かないんですよ?」
「構わん。お前は頑張りすぎだ。多少手を抜いてもらった方が、こっちが安心できる」
「そんな!こんなにもお世話になってるのに、…っ」
うまく言葉が出てこない。
それよりも働きを認められていた事にチクッとまた、目の奥が痛い…。
ああ、昨日あんなに泣いたせいで涙腺が壊れてしまったんだ…。
「これで今日お前が動き回るようなお転婆者だったら困るな。見つけ次第、鎖に繋いで俺の部屋に閉じ込めるよう田中に言っておくか」
「えっ!?」
「目を離せば倒れるまで無理をしそうだからな」
あまりの衝撃発言に俺は目を剥いた。けど真斗様は至って真面目だったらしく顔を傾けている。
「そんな…お、俺などが真斗様の部屋に入るなんて…!」
「恐れるのがそっちか。ふん、いつか寝泊まりする部屋が同じになる日が来るかもしれんのだ。この際慣れておくか?」
「へ!?」
それはつまり……、!?え、どどどどどどうしよ…!
すごく胸がドキドキするし、どんどん顔が熱くなってきた…。だって真斗様と、俺なんかが…っ!?月とスッポン、まさに天と地ほどの差があるのに、そんなこと想像するだけでも恐れ多い!
「ん?顔が赤いな、熱が上がってきたのか?」
ひぇ!? ピタッと俺の額に真斗様の手があてられた瞬間、本当に心臓が止まった気がした。
だ、だめですこれ以上は……!
「っ、ぅ~~~…!だめです…あ、あんまり俺を、甘やかさないでください…」
優しさに飢えてる俺の心が勘違いしてしまいますと、困り顔なのにきっと茹で上がってるに違いない。
じっと上目遣いで真斗様の顔を見れば、やはりやり過ぎたと思ったのでしょう、ぐっと片手で口元を覆い隠しふいっと俺から顔を背けられた。
(そうですよ。そういうのは、…もっと、大事な方に…)
俺はじゅうぶん過ぎるくらいの優しさを与えてもらった。それに昨夜、慰める為でもまだ俺を婚約者だと言ってくれたのは本当に嬉しかった…。
「っ、今日は早く帰ってくる!なにか欲しいものがあれば呼び鈴を鳴らすといい。まぁ呼ばずとも誰かが様子を見に来るとは思うがな?俺はもう行く」
「え、…はっ、はい!あの…、!」
「ん?なんだ?」
「いってらっしゃい、真斗様」
勢いよく立ち上がり早口で部屋を出て行こうとする真斗様の背を、寂しいと思いながらベッドの上から見送った。
病で臥せっていた母さんも、こんな気持ちだったのかな…
「あぁ、雪路。行ってくる」
ーーーたぶん全然 違う。
わざわざ振り返っての、
光に満ち溢れた堂々とした姿は、太陽みたいだ。
だから俺は安心して待ってられる。
54
お気に入りに追加
875
あなたにおすすめの小説
愛おしい君 溺愛のアルファたち
山吹レイ
BL
後天性オメガの瀧本倫(たきもと りん)には三人のアルファの番がいる。
普通のサラリーマンの西将之(にし まさゆき)
天才プログラマーの小玉亮(こだま りょう)
モデル兼俳優の渋川大河(しぶかわ たいが)
皆は倫を甘やかし、溺愛し、夜ごと可愛がってくれる。
そんな甘くもほろ苦い恋の話。
三人のアルファ×後天性オメガ
更新は不定期です。
更新時、誤字脱字等の加筆修正が入る場合があります。
完結しました。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
愛がなければ生きていけない
ニノ
BL
巻き込まれて異世界に召喚された僕には、この世界のどこにも居場所がなかった。
唯一手を差しのべてくれた優しい人にすら今では他に愛する人がいる。
何故、元の世界に帰るチャンスをふいにしてしまったんだろう……今ではそのことをとても後悔している。
※ムーンライトさんでも投稿しています。
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
中華マフィア若頭の寵愛が重すぎて頭を抱えています
橋本しら子
BL
あの時、あの場所に近づかなければ、変わらない日常の中にいることができたのかもしれない。居酒屋でアルバイトをしながら学費を稼ぐ苦学生の桃瀬朱兎(ももせあやと)は、バイト終わりに自宅近くの裏路地で怪我をしていた一人の男を助けた。その男こそ、朱龍会日本支部を取り仕切っている中華マフィアの若頭【鼬瓏(ゆうろん)】その人。彼に関わったことから事件に巻き込まれてしまい、気づけば闇オークションで人身売買に掛けられていた。偶然居合わせた鼬瓏に買われたことにより普通の日常から一変、非日常へ身を置くことになってしまったが……
想像していたような酷い扱いなどなく、ただ鼬瓏に甘やかされながら何時も通りの生活を送っていた。
※付きのお話は18指定になります。ご注意ください。
更新は不定期です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる