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2章 脇役と不死の王龍
最終話
しおりを挟む朝起きたら、謎の卵が現れた。
それと同時に……ユリアが姿を消した。
(んー…これが妖精の成長期、なのかな?)
じぃ~~と部屋の中で一番日当たりのいい窓際。そこに置かれた、ふっかふかのクッションに乗った卵を観察する。
『ユリア!?なぁユリアはどこに行っちゃったんだ!?』
身に覚えのない卵より、突如いなくなったユリアだ。あの子が朝起きていなかったことなんてなかった。
心配した俺は相当取り乱して、ゼアロンさんをとても困らせてしまった。
「ここにいるんだな…不思議だけど」
産んだ覚えはないけど卵の中にはユリアがいる。そっと謎の卵を撫でると「大丈夫」って元気な声が聞こえる… そんな気がした。
どこにいるのか教えてもらえれば、そこまで不安にはならなかった。
「大丈夫。ユリアも、一緒だ」
「はい!ユリア、頑張れ」
返事はないけど俺は、ずっと待ってる。
会えないのは寂しいけど……… 寂しくはない。いるのは分かってるから。
◇ ◇ ◇
本当はまだまだ忙しいはずでも、俺にとってはいつもの穏やかな日常に戻りつつあった。
裏じゃ他の皆んなが報告書や始末書の数々に追われて、さらに飛竜のレンタル代は第二騎士の経費からは出さないとアルタイルさんから叱られてるゼアロンさんの事は知らない。
(よし、今日もいい天気だ!)
今朝も厨房で下拵えして、次は洗濯と掃除が待っている。バタバタとベッドシーツを運んでいる最中、廊下で声をかけられた。
「シオウ」
「はい、ゼアロンさん!」
「………」
「…………?」
なんでだろ。最近になって会話に妙な間が生まれてしまうのは……?
(やっぱり告白がまずかった?)
俺はなんでもないように振る舞ってるけど、ゼアロンさんは違う…よね。当たり前だ。
そんな時はいつもユリアが通訳をしてくれてたけど、いまは不在なんだ。ちゃんとした理由も聞けない。
「その、…だ、シオウは」
「はい!」
「………シオウは、そろそろXxx?」
「ん???」
困ったと首を傾げてしまう俺。
するとゼアロンさんが何枚かの、写真と呼んでも差し支えない紙を差し出してきた。
「え!すごい、豪邸じゃないですか!こっちが内装?部屋何個あるの!?」
広い庭付きの、二階建て。日当たりも良さそうだ。
あぁ、なるほど!王龍を討伐した報酬で家を買ったって事ですね!!
地図の見方は分かんないけど場所はお城の近くっぽい。そうだよね、まさに一等地にありそうだもんねぇ。
(すごいなぁ……!なんだかセレブって感じがするよ!)
「めっちゃ盛大なパーティができそう!あ、俺この世界にきてから誕生日を迎えたんです、一度でいいのでお祝いしてくれますか?」
「ん??」
「もちろん、ユリアが起きてからで。あ、騎士のみんなも呼ぼう!」
一度やってみたかったんだよ、みんなで集まるパーティって!
もちろんメインはゼアロンさんの新築祝いで!
盛大で賑やかにしたいなぁ。
俺とユリアでケーキ作りと飾り付けを頑張って、
「ゼアロンさんは甘いの好きだよな?」
「シオウ」
「え、やっぱダメ?」
「君は本当に……、はは」
????
……ゼアロンさんの反応は、読み取るのが難しかった。
やっぱり新築祝いは新築祝いでしたいよなぁ、高い買い物だもん。
それに庶民の俺よ、まずこの家に見合う礼服がない事に気づいた。
(やっぱり礼服って高い!?テーブルマナーも必須!?)
今更あわあわと悩む俺の目の前に、ゼアロンさんがそっと左手を差し出してきた。
そこにはキラッと光る、指輪だ。
「シオウ。これを君に」
「俺に…?指輪を、くれるってこと…?」
「あぁ。君に渡したい」
シルバーリングの中央に輝くのは小さな黒曜石だった。
今までも十分すぎるものを貰ったのに、こうした形の残る贈り物ははじめてだった。
「あ、ありがとうございます」
緊張しつつ受け取り、そっと自分の指に通して太陽にかざしてみれば、それはキラキラと夜空に光る星みたいだった。
「!ありがとうございます、ゼアロンさん!綺麗です!」
「あぁ、とても綺麗だ。シオウ」
…………?なんで俺の顔を見て言うの?あ、よく似合うって事?
へへへへ、うれしいなぁ。貴方に褒められるのは照れ臭いけど。
「大切にします」
騎士として、何度も俺に誓ってくれた貴方だ。
だから、俺も喜んで誓う。
まぁ毎回のことながら、結果オーライに繋がった。
その中で学んだ数々の教訓や、たくさんの出会いがあった。
それと……まだまだ残された問題も。
(それでも俺は諦めないで頑張るよ。だから真里亜も……もうちょっと待っててくれ)
必ず会いに行くと目標がある限り、俺は前を向くんだ。
それに、俺の異世界生活は当面続くんだ。
くるっと振り返り、元気にゼアロルドに告げる。
「ゼアロンさん!俺は別に、諦めた気持ちとかはないので!」
「ん?」
「これからも宜しくお願いします!」
「あぁ、私もだ。宜しくお願いするよ、シオウ」
通じてなくたって無問題!
凡人から魅力的な男になってみせると、宣戦布告だ。
俺は塩と砂糖と共に、
もう少しこの世界を堪能する気でいた。
end…?
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