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2章 脇役と不死の王龍
脇役と不死の王龍②
しおりを挟む【グルルルルゥーー…!】
どうして竜に気付くことが出来なかったのか不思議だった。
シオウの前に姿を現したのは、今まで会った飛竜よりも土竜よりも遥かに大きく、そして大変美しいドラゴンだった。
全長十メートルはありそうな巨体を支えるどっしりとした手足。まるで水面に揺れている湖のように艶やかな鱗、瞳は宝石のようなエメラルドグリーン。
シオウに牙を向けても暴れることはせず、『お前は一体何者だ?』。と、堂々とした威厳を持って訊ねていた。
「はじめまして、俺は左都志央です。アナタがこのお墓を守っているドラゴン、ですか…?」
『――――――』
じぃっとシオウを見つめている、強くて真っすぐな瞳。
あぁ。そうなんだ…
彼を疑う気持ちは一切ない。
そして無意識にシオウが彼に手を伸ばそうとした瞬間、チカッとはるか遠くからこちらを目掛けてくる光を見た。
「え。」
物凄いスピードだけど、何だ?
シオウが目を凝らしてよく見ようとした時には遅かった。
その物体―― 正確には人物は、ガシッとシオウの脇腹を抱えると共に勢いよく空へと舞い上がった。
「――― うぇっ! えええぇぇ~~~~!?」
見えたのは青空、いや ちょっと陽が傾きかけている空の色。
あまりにもあまりにもすぎて理解できなかった。
俺は空を飛んでいた、飛んでいるというより抱えられて地面から打ち上げられたような感覚。
そして、その俺を抱えていたのが、
「――――シオウ!なぜ、君が此処に!?」
「ぜ…、ゼアロンさん!?」
それは俺の台詞ですが!?
録音でも想像でもない。
ゼアロンさん…、ほんもののゼアロンさんだった……!
* * *
地面に降り立ったけど死の森からはまだ出られてない。
そっと地面に足をつけたのに、震える足のせいで立ち眩みしてしまう。
「わっ、」
「シオウ」
即座に支えてもらったおかげでセーフ。
相変わらずスマートな対応だ、すごいな。
「気を付けて」
「…………え、あの、すみません」
「水をどうぞ」
「ありがとうございます、助かります…」
手渡された小さな水筒。その中身は水というより知ったスポーツドリンク的な味だった。
飲み過ぎないよう気を付けて、一口…ごめんなさい。二口貰っちゃった。
「あの!ゼアロンさん」
「はい」
ゼアロンさんだ、……なのに顔は険しくってずっと飛んできた方向を睨んでいる。
あのドラゴンが討伐対象なのかと聞かなくても分かる。
「………俺がいると、邪魔ですか?」
「私の能力は無差別だ。戦闘では貴方を巻き込みかねない。……っ、イーリエは何を」
「お、怒らないで!誰も悪くなんです、悪いのは俺で」
――――――――――オオオォォォ-!!
!?
地鳴りのように響いた大きな鳴き声。
これは、さっきのドラゴンなのか!?
声になっちゃいない。枯れたような、悲しそうな叫び声で…
「あ、あの竜…、ドラゴンは?」
「不死の王龍です」
「……!」
意識を失う前に聞こえた名前だ、俺達を供物にすると。
”王”の称号を持ちながら、ドラゴン・ゾンビと恐れられ、瘴気の中を彷徨う竜。
すでに理性はなく、死の呪いを振り撒く災いの王として君臨する…。
「安心してください。シオウだけは何があっても、」
「ぜあろ、」
その時、『ママ、無事!?』と。俺のポケットの中から、他ならぬユリアの声が響いた。
「もしかして、空白の魔石から…?」
『あぁよかった!ママの声が聞こえたってことはパパも一緒に!?』
「うん、一緒にいるよ。ユリアたちは今何処に?」
彼らは西の砦だという。
マクミランの魔法使いによりほぼ全員が眠らされて、イーリエさんとオズグ、ユリアで起こして回っているのだと。
なるほど。空白の魔石は録音だけでなく通信機にもなったのか。
「凄いや!魔石って」
『フフン!それだけじゃないわ。ママの心も届けてくれてたのよ、わたしのおかげで』
「ん?」
感動してたのに真顔になる。
―――――いま、なんて???
ゼアロンさんが「ちょっとシオウ」と言ったけど待って、ダメだと魔石は渡さない。
ユリアは嬉しそうに誇らしそうに言ったけど、今のはちょっと聞き捨てならない。
「ユリアさん、俺の心とは?」
『その石だけはわたしが魔力で属性を変異させたの。そこのパパが浮気しないように』
「「………」」
『ママがパパを強く思えば思うほど、ママの声が聞こえるように、』
ユリア―――――――!!!!!!!!
そう。
返事は出来なくても、常にシオウの心の声はゼアロルドに届いていた。
『なんで戻ってこないの』
『さみしい』
『……ゼアロンさんに、会いたい』。
数々の。それだけでバラード曲ができそうなほどの、シオウの本音が。
そして真っ赤になるシオウから顔を逸らし、『今はそれどころではない』と冷静なゼアロルドも。
シオウにとっては、たいへん有難かったが……
「………ユリア、ごめん。今はその状況じゃなくて…、俺は今死の森にいるんだ」
『―――――は?』
「で、不死の王龍ってドラゴンが」
そのあとは悲惨だった。
魔石…通信石越しにわんわんと聞こえるユリア、イーリエ、オズグさんの阿鼻叫喚。
「―――いい加減に静かにしないか。王龍の縄張りだぞ」
どこまでも静かで冷静な声に
ビシッと厳しい空気が走った。
(さすが、ゼアロンさん…・…ありがとうございます)
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