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2章 脇役と不死の王龍
騎士としての覚悟。(ゼアロルド視線)
しおりを挟む唐揚げの妖精さん。
そう名乗る精霊は、どうしてかシオウを母と慕い、ゼアロルドを父と呼んで慕う。
しかしその驚きも最初のうちだけだ。
すぐ全員が「まぁうちのシオウ様(神子)だもんな~?」と言って笑い飛ばした。
きっと、本人も知らないうちにうっかり精霊を魅了してしまったに違いない。
それを聞いたゼアロルドも、怒ることはなく「そうかもしれない」と納得したのだった。(ただし、父と呼ばれたゼアロルドはあらぬ疑いをかけられたのだが…)
『パパ!』
『おかえりなさい』
人々に恐れ崇められるはずの上位精霊と、
将来、この国を導くかもしれないシオウ。
そんな傍から見れば息の詰まりそうな存在二人に、ゼアロルドはいつも……
「ただいま」
成り上がりの騎士には勿体ない。
身に余るほどの幸福があった。
◇ ◇ ◇
王都の街並みを一望できる夜の高台。
人気はなく頬にあたる風は穏やかで夜景は美しい。
(実に慌ただしい日だったな…)
ゼアロルドは一人で立っていた。
帰宅途中の人々に、香ばしいにおいを漂わせて呼び込む屋台と酒場。人々が過ごしている家の灯り。
当たり前の平和と、日常を見渡すことができた。
「ここにいたのか、ゼアロン」
「や、イーリエ。随分と歩けるようになったね」
「おかげさまで」
もう杖もいらなくなったよ。とイーリエはゼアロルドの隣に立ち、一緒に街を眺望する。
二人で騎士を目指して生まれ育った村を出た。はじめて王都を散策して… 二人が一番気に入った場所がここだった。
静かで、心地のいい場所だ。
「君は、シオウ様とユリアが待っているんだろ?そろそろ戻らないでいいのか?」
「イーリエ」
「いいさ。ゼアロン、君はよくやった…… 誰も文句はない」
「―――いや。まだ功績らしいものは残せてない、その言葉は耳が痛いな」
「は、功績?魔物の討伐数は誰よりも君が圧倒的だ」
「それは違う。トドメを刺すくらい誰でも出来るさ。いつも勝利に導いてくれたのは友と仲間の助けがあってこそだ」
俺は、ただ殺した。
それだけだと、ゼアロルドは感情のない言葉を放つ。
「俺の剣は、いつも血塗れだ」
「例えそうだったとしても、いい加減に君が守ったものを見ろと僕は言いたい」
「君、怒ってるのか?」
「まさか」と否定しても冷たい声だ。
それでもイーリエは分かっていた、親友の苦悩を知っていた。
瘴気に汚染されて魔物と化してしまったが、元々は肉体のある生命体だ。
危険な魔物として彼等を屠ることは理不尽に命を奪う行為で、しかし、助けてもやれないと剣を振り下ろすしかない。
―――――いつだって その覚悟が重要で、残酷で、重い。
「それを僕が、君に押し付けるなんて……だろっ」
「イーリエ?」
「もういい!―――行くな、ゼアロルド!!」
悲痛な声と、揺れる友の瞳には街の灯りがキラキラ反射する。
イーリエの、行くなと… 再び乞う声だけが、闇世に吸い込まれるように、悲しげに響く.
"討伐隊を率いて死の森にある脅威、
ドラゴンゾンビを排除しろ” ,
それがゼアロルドに下った、王命であった。
「どうして、君が犠牲になる!?」
誰も納得などしていない。
他の仲間達と上層部に猛抗議をしている最中だと、イーリエはゼアロルドに嘆願した。最悪、"君は騎士を辞めて村に戻ってくれ"とまで言いかねない勢いで。
いや、そうしてもらいたいのだと伝わってくる。
「俺は行く。行くに決まっている」
「いいから、僕たちに構うな!もう十分だ、シオウ様のおかげで助かったんだ!」
「……そうだ元気になった」
こうして友と会話もできるほどに、シオウの加護で作る回復薬の効果は絶大だった。
だからこそ、今もイーリエが眼帯や包帯をしているのが謎だった。
「イーリエ、隠さなくていい。延命に過ぎないんだろ?」
「……っ!?」
ゼアロルドはイーリエの顔を、正確には眼帯と包帯から見え隠れする黒い影を忌々しく睨む。
火傷のような爛れはとっくに引いている。
それでも彼だけでなく、見えない場所でも仲間達が包帯を巻く意味。
―――――不死の王龍の血を浴びた者は呪われ、聖水の力があっても短命になる。
イーリエだけではない。
ロインにアデル、ゴルディ……他にも。血と呼ぶには禍々しい瘴気に穢された者は多い。
もしこのまま放置すれば、呪いという名の毒が全身に周り、イーリエの命は二年もないだろう。おそらく他の仲間も数年後と経たずに……。
「奴を倒せば、その呪いは解ける。それに俺が守るのは君達の命だけじゃない」
ドラゴン・ゾンビ……、または不死の王龍と呼ばれる脅威が近いうちに近隣の街や村、王都で暴れる可能性がある。
非常に危険な状態にあると、上層部が判断したのだ。
「罠でも王龍を刺激したのは我々だ。俺は隊長として、責任を取りに行く」
「……っ、」
「心配するな。俺は、勝つ」
「あぁ、そうだろうね!君は守る対象さえいなければ、遠慮なく大技をぶっ放して好き放題やれるさ!死の森がはげ山になってもゼアロルドは死ぬ気で勝ちにいく!」
「嬉しいな、君が俺を褒めて応援してくれるなんて」
「なわけないだろう!」
イーリエが憤慨する理由。
血も瘴気も関係ない。ドラゴンゾンビを倒せば即座に死の呪いは発動し、勝者を呪い殺す。
それが"王"の称号を得た、不死の王龍を倒す者が持つ背負う宿命だ。
「君も同じだイーリエ。騎士になり剣を握った日から俺達の命は、俺達から離れた。だけど今回の任務だ、ようやく俺は全力で仲間の為に戦える。その勝利を誇れる」
剣を、守るべき者の為に
――――――約束しただろ?と。
「だったら僕も行く!友を一人寂しく死なせはしない!」
「駄目だ、君はシオウを守ってくれ」
"頼むよ。"
笑顔でポンッと強く肩を叩かれると、イーリエは嫌でも心を打ちのめされた。
討伐は王命だ、半日もしないうちに準備は整った。あとはゼアロルドが声をかけるだけで、いつでも出立できるのだと……。
「黙って行こうだなんて、残酷な男だ」
「それでもイーリエ。俺は君に託せて良かった」
「はは……、よしてほしい。君から寝取る趣味が、僕にあるとでも?」
「それでも、分かるだろ?」
――――俺の死体などない方がいい。
その理由は沢山あったが、最大の理由はやはり個人的なものだった。
シオウの心に傷を負わせるわけにはいかない。
だから、他ならぬゼアロルドの為に、うまくやって欲しいのだと身勝手な願いだ。
「………言っとくけど僕は、必ず君を迎えに行く」
「それなら別れの言葉は必要ないな。……その時は、から揚げの持参も頼んだ」
「やっぱり未練があるんじゃないか、君」
「そうだな、自分でも驚いてる」
じゃ、あとは任せた。イーリエ副隊長
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