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(一章)小ネタ

小ネタ10

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小ネタ10
『神子様が、城内を逃げ回ってます』。


シオウは勉強熱心な子だ。もっと言葉を勉強しようと提案したアルタイルの言葉にも喜んで何度も頷いていた。

今日は授業の初日。
護衛のための親衛隊であっても、"神子様を独占してはならない"という決まりの下、シオウはアルタイルとロイン、ルカルに連れられて城に行ったはずだった。


「隊長。神子様が、城内を逃げ回ってます」。


――― ゼアロルドに緊急の連絡が入った




「シオウ!」

シオウ本人すら理解していない。完全なるパニック状態だった。
暴れて暴れて、シオウは城を逃げ回った。

「!やだって、俺…………、あの部屋は嫌だ!みんなといたいだけなのにっ」

いやだいやだいやだ!!!
またあの狭苦しい部屋に連れ戻されるんだ、勉強だって聞いてたのに!!!
部屋の隅っこ。追い詰められた野良猫のようにシャーシャーするシオウに誰もが困り果てていた。

(あの部屋だけは嫌だ、嫌だ!!また閉じ込められるくらいなら…っ!)

豪華で生活の全てが揃った部屋でも、孤独には絶えられない。それならまだ皆んなと酷な旅をしてた方がいい!

三人の騎士を疑う気はないがトラウマだ。
もっと言葉が分かるようになってたなら違ったかもしれない。


「シオウ、おいで」
「ルカルさん…、いやだ。そっちはいやだ」

動画でよく観ていた。お利口なペットが大好きな散歩と思っていたら実は動物病院に向かっていると知ってしまい、げんなりしたのと似ている。
けれどシオウはペットではない。覚えたての拙い言葉であっても明確に"嫌だ"と意思表示をする。

そしていつもと違うシオウの行動と反応に騎士達もどうすれば…と悩んでいた。


「すまない、遅くなった」
「―――――!ゼアロルド隊長」
「!!」

凛とした声。
誰もが待ち侘びていた人物の登場だった。


「ゼアロン」
「……何故、シオウがこれほどまでに怯えている?」

ピリッとした怒りの空気。
間違いなく、シオウではなく周りの人間に怒っていた。

(…!)

シオウはゼアロルドが怒る時を知っていた。
魔物と対峙した時に恐れた仲間が陣形を乱した時の𠮟咤、それと仲間が傷つけられそうになった時だ。

いまのゼアロルドは―――この状況に憤慨していた。


「申し訳ございません…」
「いい。迅速な連絡だった」

「シオウ、嫌だったのか?」
「……………勉強も、城も嫌じゃないけど怖い。この先は嫌だ」

指を刺して嫌だと繰り返す。
言葉はたくさん、…ほどでもないにしろ色々と覚えたのに。まだまだ組み合わせが分からない。

「シオウ、XXX」

ゼアロンさんは床に絵をかいてくれた。俺と城、騎士舎をなぞった。
"帰ろうか?"と言ってくれた。


「俺の勉強目的ってのは、噓じゃない…のか、?」
「シオウ」
「もし、違うんなら頑張りたい…………、もっと話したい。話せるようになりたい」

忙しいはずの、ゼアロンさんが来てくれて流石に落ち着いた。
騒ぎにしたんなら申し訳ないが、やっぱり言葉は大事だと思う。
俺だって心配や迷惑をかけるのは嫌だ。
もうこんな騒動を起こさない為にも…


「もう、大丈夫です」


とても落ち着いていた。
なにより、隊長―――ゼアロンさんが”大丈夫”だと証明してくれた。




この後、シオウの勉強するための教室がテラスへと変更されたし、時々授業にくるゼアロルド。



(無自覚な信頼)
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