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1章 脇役は砂糖と塩と共に
社会の窓を開けても常識は忘れるな
しおりを挟む青々とした若草だけでなく愛らしい野花も咲く草原と、遠目からでも分かる綺麗で穏やかな川。
今すぐに駆け出して、あの川に飛び込みたい。
その光景に興奮した騎士一行とシオウだが、隊長だけは誰よりも冷静だった。
即時に動ける人とそうでない人を分けて、周囲の安全確認・探索をするチームと、水質の確認・川魚を捕まえるチームを編成したのだ。
「後は………」
「あ、はいはい!俺、俺も何かしたい!出来ることはありませんか!?」
忘れられたら悲しいぞ!?って俺は必死で手を伸ばして猛アピールしたのに… 隊長さんを含む全員が「んんー」と悩ましげな表情をした。
(えぇっ、俺って役立たず!?)
言われずとも戦力外でした…とショックを受ける前に、隊長さんがそっと指さしたのはまだ動けないイーリエさんだ。
”ここに残って彼を守ってほしい”。
「了解しました!!」
護衛任務にピシッと敬礼をした。
透き通った水質に、その中を泳いでいる魚達。
良かった。此処は無事安全と判断されたようだ。簡易的な拠点を作ったあとは揃って鎧を脱ぎ捨てて、魚の確保というか… 久しぶりの川遊びにおっさん達はしゃいでいた。
むさ苦しいと思うのに、今までの状況を考えれば天国だ。
「シオウ、」
「え、行きませんよ!俺にイーリエさんを任せてくれてるんだ、俺だってやれることはやるよ」
「………」
皆だって遊んでいるように見えて魚を追い込んで捕ろうとしてるし、俺こそ浮かれてちゃダメだ。
俺に出来ることが限られた中、あぁだこうだと首を捻ってみたけど…………
(消化にいい野菜か果物が欲しいのに、んん゛~~~~分からない………)
塩と砂糖しか出せない脇役に出来ることはなかった。
そのうち水魔法をたくさん使ってくれたアデルさんとルカルさんが、交代しようと声をかけてくれた。
* * *
(~~~~っっ、ちょっと冷たいけど気持ちいい~…癒されるぅ)
鎧を脱ぎ捨てたおっさんたちが喜んで水遊びしている傍らで… のんびりだ。
ココは風呂じゃないんだけど、全裸になって体を清めたいのは日本人ならば分かるはず。
この世界にも温泉施設か健康ランドってあるんだろうか?
いいな、行ってみたいな……
「し、シオウ!?」
「ふぇ!?え、なに!?」
びくんっと、水に浸かる俺を見て過剰な反応を見せたのは俺のそばを通りがかった青年。
――――?誰だ、この格好いい人??
亜麻色の髪色に薄緑色の瞳、こんな特徴的な美丈夫なんていたっけ?
いや… 俺が知らない顔があって当然だ。俺がちょっと親しくなったところで隊長さんを含め、鎧で素顔を隠している騎士は四人いた。
おそらく彼はそのうちの誰かなのだが……、
「XXX 、!?XXX、XXXX!!」
「え、ちょ、まって!早口は無理です!」
どうしてしまったのか、美丈夫さんは片手で目を隠しながら俺を叱る。
―――あれ、うん…?………この声…??
いつも鎧のせいでくぐもった声だったからピンとこなかったけど、その瞳の色は…、
「もしかして隊長さん!?」
え!思ってたより断然若いんだが!?
「いやいや!なんで覗いた側がそんな乙女な反応するんですか、別に」
「……っ、シオウ。あれ、見て」
「?あれ、って…??」
チラッと見ると相変わらず楽しそうに水浴びしているおっさんらがいた。
そして隊長さんは指を少し下げた、うん。みんなズボンか下着は―――穿いている。
「シオウ、ダメだ」
「……ごめんなさい、嬉しかったのでつい…」
もしかしなくともパンツを穿いてないのって非常識だったらしい。
「……マナー知らずの不埒な者で、すみませんでした」
「違う…っ、XXXXX、危ない」
「はい…確かにポロリはダメだ、危ないデスヨネ…」
お互いニュアンスでの会話だけど、空気でなんとなく通じてしまうのが心苦しい。
ちゃんと心から反省したので、どうか俺を許してほしい…。
「シオウ、服は?」
「あ…、すみません、俺の服は」
「あぁ」
そっと背後を指さして隊長さんは納得した。靴を含め、汗以外の色んな汚れでドロドロになっていた衣類は全部洗って、すぐそばの枯れ木の枝に干していた。
それを、「しょうがない」と言ってくれたのかは分からないけど、隊長さんはふわっと優しい風魔法で俺の服を乾かしてくれたのだった。
「――!!隊長さんも魔法が使えたんだ!ありがとうございます!!」
「――――は!?シオウ!?」
パンツをしっかり履くと、再び水の中に入る俺。
「せっかくだもん、遊びたいし交流しないと!」
そう!せっかくなんだ、そろそろ水遊びに混ぜてもらいたい。
それに……一番体格のいいゴルディさんにお願いして俺の体を水ん中に放り投げてもらえないかな!?絶対楽しいはずだ。
(やっぱり恩は売っといてよかった…!!俺、変態にならずに済んだよ爺ちゃん!!)
日本とは違うけど、郷に入っては郷に従えだ。
いつだって常識は忘れてはいけない。
しかし、おーい!と俺が手を振りながら走っていくと全員が「キャー――!!!」と悲鳴を声を上げた。
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