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1章 脇役は砂糖と塩と共に

脇役にだって悩みも人権もある!!

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真里亜は聖女として聖教会に。俺は城(というよりボロ小屋)に預けられてしばらく経つけど、やっぱり住めば都だと思った。


調理においての焼く、炒める、煮込む過程は地球と同じだし、魔石を使うファンタジーな台所も毎日使って慣れれば感動も薄れるものだ。
ただ、衣をつけて揚げるというのは斬新だったらしい。とくに唐揚げと余った生地で作ってみたドーナツは妖精さんだけじゃなく、お城の使用人さん達にも人気のおやつになっていた。

「シオウ、ドーナツある!?」
「うん!おやつにしよっか!」

期待の眼差しで台所を覗き込んできたのは使用人の青年だ。俺は頃合いだろうと用意してあるドーナツを振る舞った。



俺がなにより安心したのは、俺を嫌う人ばかりじゃなかったこと。
自然と厨房に顔を出すようになった彼や他の使用人さん達は、唐揚げとドーナツのお礼にと俺の住む小屋の掃除だけでなく、雨漏りなどしないように色々修繕してくれた。
完全なビフォーアフター!あんなにおんぼろだった小屋が今じゃ見違えるほど綺麗になったんだ。
おかげで俺は毎晩ベッドの上ですやすや眠れるようになっていた。

(このまま厨房見習いでいいから、正式に雇ってくれないかな~)


が、まぁ……問題なんて、慣れてきた頃に起きるものだ。







「…………んん゛ーーー……」

困った、困ったぞ。
いま俺の前に現れて膝を折っているのは、教会からの使いだった。


一昨日、真里亜は聖女様として国民達の前でデビューを果たした。(俺は目立たないよう影からこっそり見守っていた)。
すっごい豪華なパレードだった。人々の盛大な歓声と拍手、音楽隊による生演奏に歌姫の歌。
国全体が心から待ち焦がれていた真里亜、聖女様を喝采で迎えたのだ。

『綺麗…………』

あんなに嫌いだと嘆いていた妹が、はじめて異国の法服に身を包んで、この国のことを素直に褒めた。
興奮とキラキラと輝く瞳の色をみて、俺はちょっと涙が出そうになったよ。


―――と、ここまではいい。

いよいよ本格的に始まる聖女としての活動の前に"食事の問題"が立ち塞がった。お茶会に晩餐会、聖女様を歓迎するパーティなのに、妹は出された食事には一切手をつけない。
飲むのは水、食べるのは持参した弁当のみのスタンスを崩さないらしい。


「んー…まぁ印象は良くないよなぁ。会食は必須だろうし、食物アレルギーもない健康優良児なのに」

妹は本当に兄想いなだけだ。その優しさがイメージダウンになるのは避けたいし、真里亜だって本当は食べるのが大好きで夜食も食べたい育ち盛りなのだ。


(けど、まいったな…………)


問題はもう一つ。
それは俺が妹とは違い、最初っからこの世界の人間が言ってる言葉が分かっていないこと。そして、彼らも俺の言葉(日本語)を理解できてないことだ。

こうして教会側が困ってると伝えてきた方法も絵だ。しっかも絵心がなさ過ぎて、ようやく俺に伝わるレベルの…

(まぁ俺はイレギュラーなんだもんなぁ)

こんなことを考えるのはキツいけど、言葉が分からない・言った内容が伝わらない原因も、魔法が一切使えないのも加護がヘンなのも、―――きっと俺が選ばれた人間じゃないせいだ。
だから、俺は腫れ物みたいに扱われている。真里亜の食事の件で、どうにか役割がある程度の価値しかない……。


「……まぁでも、どうにかしなきゃだよな」

この事を知られちゃ真里亜は黙っていない。
人攫いにあんだけ激怒してたんだ間違いなく今まで以上に心配して、最悪聖女活動そっちのけで俺を優先してくるだろう。
だから言葉の件は内緒にしていたし、彼らも察していたからこそ妹には俺の事情を伝えなかったんだ。

だけど、いつまでもそのままには… できない。



「オッケー、分かった。真里亜は俺が説得するよ」









そして後日。俺は三日ぶりに妹と会えた。

俺は脇役だ、いつまでも一緒にはいてやれない。とは言えないので、「せっかくの異世界だ。街で料理の勉強をしようと思う」と大胆な噓を吐いた。
当然真里亜は狼狽えた。だけどちゃんと次の台詞も用意してある。

「真里亜は近々遠征の予定があるんだろ?付き添いたいけど、俺みたいな一般人には危険すぎて無理なんだって…」

だって俺の加護は塩と砂糖だぞ??と力無く笑う、心から。
どう考えても魔物討伐だの瘴気云々には使えないどころか、足手纏いになる。

「その間に修行してくるよ。あと、ついでに異世界観光的な?俺そうゆうのまだしてないしさ」

俺は俺で異世界を堪能してくるよ。
前向きな笑顔を見せれば、妹はまだ渋った表情を浮かべても頷いてくれた。


「うん、わかった。でも帰ったらお兄ちゃんの特製唐揚げ食べたい、山盛り」
「あぁ、前に言った台所の妖精さんを紹介するよ。みんなで美味しい唐揚げの食べ比べパーティしような」


"絶対だよ??約束だよ??"

 
 笑顔を見せられると心が痛い。




こうして妹は無事に、この国の料理に手をつけるようになった。

俺もアイツが健康ならいいか… と思っていたのに、




「ーーまぁ、邪魔者を消す頃合いだよなぁ」


やっぱりというか、お約束だ。
一人でお城の廊下を歩いてた所を誘拐され、気絶させられ、


  目が覚めると俺は、薄暗い森の中に置き去りにされていた。




「モブ捨て山…………?」



悲しさと怒りを殺しての発言だったのに、誰の反応も得られなかった。

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