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【番いのαから逃げた話】

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【Ωなんて他人ヒトの家庭を食い尽くす害虫よ】.


母さんの言葉の意味を、物心ついた時には理解できるくらいΩ(俺)は世間から疎まれる存在なのだと思っていた。

なのに 現実は違っていた。



「唯くん」

目が覚めると先生(番)はいつも隣にいてくれる。
おはようの挨拶から、やさしく触れるだけのキス。とくにセックスした翌朝は、朝が苦手な先生が毎回のように朝食を用意してくれて、その一日は仕事も外出をせずに俺のそばにいてくれた。
甘くて、優しい…
事故でもこの人が俺の番なんて… 信じられない。

そして今日は休日だった。

「今日は何がしたい?たまには外でデートしようか?」
「外出はいい。それに今日は…」
「もちろん忘れてないよ。ただ、いつも家の中がデート場所なんて君が退屈じゃないか心配で…」
「いいよ。俺が外出したくないって言ったんだ」

たっぷり寝て、のんびりサブスク動画配信ってので一緒に映画を見るって約束なのだ。
ソファーに座って好きな飲み物とお菓子。先生に強請った宅配ピザで豪勢する。なにより隣には、

「ん?どうしたんだい?」
「なんでもない」

ほんのり赤い耳がばれないように俯く。
アンタの綺麗な顔立ちに見惚れてたなんて言えるもんか。先生は嬉々としてリモコンを操作する。

「さぁて、なにがいいかなぁ」

明るい声で自然と俺の隣に座ってくれる。この気持ちをなんて呼ぶんだろう


(だけど――――)




【唯。お前も一緒よ、だってΩなんだもの】


いつまでも心地いい時間に浸ることは許されない。
母さんの言葉を忘れられない、ずっとそばにある。

俺は―――――… と、泥のような濁りだけが、心に溜まっていく。
言葉にしてしまう、言わなきゃいい羅列を。

「……を、…」
「ん?なんだい?」
「なんで俺なんかを、番いだって認めたんだ?」

生活費、学費だけじゃなく退屈しないようにと与えてくれたゲーム機にスマホ。いま俺が着ている部屋着もブランドもので、ネットで調べて腰を抜かすかと思った。
不安なのは金銭的価値観の違いだけじゃない。
あの母さんが改心することなんて絶対ない。いくら縁を切ったところで、金に困れば平気で先生を頼ってくるに決まってる… それを想像しただけで鳥肌が立つ。

ドラマのように甘い展開なんて、俺の物語にはない。

「先生は……なんで婚約者と結婚しないんだ?もしかして俺が可哀想で捨てられない?俺は、事故でできた番いなんだから気にしなくたっていいのに」

なのにどうして?
と、何度も疑問を投げかける前に ――――衝撃で頭の中が吹っ飛んだ。


「唯」


なにも殴られたとか暴力を振るわれたわけじゃない

有無を言わさせない圧力の前に、視界は暗転した。




 * * *







「唯、唯くん……」

あたたかい手と、どくどくと血の巡る音に心臓の音。
ベッドのシーツはぐしゃぐしゃで汗まみれ、体の奥はジンジンと甘く痺れる快楽を拾っている。

(先生、ごめんなさい………)

わざと優しい先生を怒らせて、抱いてもらうことで自分の価値を”愛されているΩ”だと認識しようとしている。

だけど幸せだ、とても――――満たされる。



「あ、っ…、…いや、だ…、まだ抜かないでっ」
「けど」
「へいき、きもちいい… もっとシて…っ、ぬかないで…」

俊哉さんを感じてたい
奥で脈打っているモノを抜かれると切なくて寂しくなってしまう。

「こうしてるの好き?」
「うん…、すき、大好き……」

こうしてる時だけは、いつも残るのは純粋な本能だけだ。
難しいことは何も考えなくていい。

「とし、やさん…、もっと、気持ちいいの・…ほしい…、さびしい………」

両手を広げてしがみつく。
番いは俺のことを、一番大事な宝物のように扱ってくれる。
怒らせたのは俺、そして一番に俊哉さんを求めているのも…。

「痛くしていいから…、」
「ごめん、ちょっと怖がらせ過ぎたね」

怒ってないよと撫でられるのも気持ちいい。

「怒らせて、ごめんなさい………」
「あぁっ、クソッ。日本にも、”番”をずっと巣に閉じ込めていい法律があればいいのに…っ」

海外の極一部では認められている。
Ωを外部の情報からシャットアウトした状態でαが用意した巣に囲う。それも鎖に繋いでだ。
まるでペットみたいな扱いでも、それがΩにとって一番幸福な生活と考えられているやり方で、他にも治安の悪い国では希少なΩが盗まれたりしないように防犯的な意味もあるらしい。


「君の同意なしにはやらないけど、しばらく外出は禁止だ。いい?」
「…うん」

いいよ、と何度も頷く。
たったそれくらいで許してもらえるんなら喜んでそうする。


「いい子だ。じゃあ続きをしようか」


「愛しているよ、唯」


”俺も。”
と返したいのに、俺は好きしか言えない。



俊哉さんの番いであることに幸福を感じていたいのに…



"俺は、 汚れている".
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