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逃げたいの番外編〜
番外編 vs呼び方
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番外編 vs呼び方
「と、俊哉さん…」
はぁ~~と深く溜息をつく俺の真似をする鏡。
朝っぱらから一人、洗面台の前でなにしてんだろ俺は…
「ん~…本人の前じゃなきゃ言えるのに…」
定着した呼び方を変えるのは難しい。
だけどこないだスーパーに先生と一緒に行った時、つい「先生」と呼んでしまい隣で買い物をしていた女性に思いっきり見られてしまった。
失敗した…。確かに平日の昼間、それも私服の生徒と教師が二人で買い物してるなんて不思議な光景だったかもしれない。
俺の呼び方が原因で、番いが変な目で見られるのは嫌だ。
とくに先生は気にしてなかったけどあの、『この二人の関係はなんだろ?』って好奇な目の色が離れない。
(でも、…俺の中で先生は先生なんだ)
どうしても切り替えができない。
俺が先生と呼べば、『どうしたんだい?』ってTVを観てても本を読んでいても、作業中でも手を止めてこっちを向いてくれる。
穏やかな物腰をしていて、怖くない大人。
そばにいてくれると安心をくれる、 俺の憧れる人が新野先生だ。
でも"俊哉"さんは……
* *
「せんせい…?」
なんで朝っぱらからこんなことになったのかは分からないけど、「ちょっとジョギング行ってくる」と眠っていた先生に声をかけた瞬間、腕を引かれそのままベッドの中に引き摺り込まれてしまった。
「なぁ、さっきからくすぐったいんだけど…」
ーーーまるで犬だ。
マウントをとっているかのように番いである先生にうつ伏せに押し倒されて、急所である頸のあたりをくんくんと嗅がれていた。
…でもこれはαの生理現象だと教わっていた。
Ωがαを求めるように、αも番いであるΩの匂いに安心する。
特に先生は寝起きが悪く、夜更かしをすると本能に敏感になるみたいだ。
「んだよ、今日も寝ぼけてんの?」
じっと大人しくして先生の気が済むのを待っていた。
なのに、
「ひあ!?ちょ、…っ!」
いつも通り解放されて終わると思っていたのに、ゆっくりと服の中へ滑り込んできた大きな手に慌てた。
脇腹のあたりを撫でるように触られるとくすぐったいのに甘い愛撫を感じてゾクゾクしてしまう。
「ゃ…、あ…っ」
なんで?
いまは発情期じゃないのに、先生はそういう気分なのか?それなら、このまま身を委ねてた方がいいのか…?
「っ、せ、せんせ…?なに…?」
「………」
「ーーーー、!?や、待って!いやだってば!!」
ハァー…と頸を噛まれそうな気配にたまらず大声を上げたところで動きを止めてくれたけど、俺の動揺は消えない。
「なんで…っ、なんで怒ってんだよ…?」
気に触るようなことをしてしまったんだろうか?
無言のままの番いが怖くて悲しくて、それで涙が出そうになる自分が情けない。
「におい、ちょっと出てる」
「へ?」
「悪い子だね、俺だけの匂いを外に撒き散らそうだなんて」
「……!」
勿論そんなつもりなんてないのに番いに叱られてショックを受けてしまう。
体調だって普段とおんなじだし、俺の匂いは番い契約をした時からこの人だけのものになったから二度と他のαを誘うこともない。でも、だからといってフェロモンが漏れているのに外を出歩くなんて冗談じゃない。
「よ、抑制剤…ちゃんと飲む」
「ダメだ、外はともかくこの家で君の匂いを隠すなんて。それに君には必要ないものだろ?」
「うん…そうだけど…」
フェロモンを漏らさないよう抑え込む抑制剤には副作用が伴う。
俺はそこまで酷い副作用はなかったから服用は続けたかったけど、"一緒に暮らしてる番いがいるのに薬を頼るのか"と不満げに叱られた。
「ごめんなさい…」
「必要なものがあったら後で俺が買いに行くから、今日は家から出ないで」
「ひぁ、…っ、ぁ…わかった」
耳元で囁かれ、ちゅうと弱い頸にキスをされると望んでないのに勝手に体の奥が熱くなる。
(ずっと忙しくて仕事部屋に篭りっきりだったのに、今日はずっと俺といてくれるのか…?)
目の前の番いはそんなこと言ってないのに……分かってしまう、なにより俺が一番期待している。
俺の中には、優しい言葉だけじゃどうしても足りない部分があった。
「唯」
いま、俺が求めているヒトは"先生"じゃない
番いが、ほしい……
「ここにいるから、許して、俊哉さん…っ」
end
「と、俊哉さん…」
はぁ~~と深く溜息をつく俺の真似をする鏡。
朝っぱらから一人、洗面台の前でなにしてんだろ俺は…
「ん~…本人の前じゃなきゃ言えるのに…」
定着した呼び方を変えるのは難しい。
だけどこないだスーパーに先生と一緒に行った時、つい「先生」と呼んでしまい隣で買い物をしていた女性に思いっきり見られてしまった。
失敗した…。確かに平日の昼間、それも私服の生徒と教師が二人で買い物してるなんて不思議な光景だったかもしれない。
俺の呼び方が原因で、番いが変な目で見られるのは嫌だ。
とくに先生は気にしてなかったけどあの、『この二人の関係はなんだろ?』って好奇な目の色が離れない。
(でも、…俺の中で先生は先生なんだ)
どうしても切り替えができない。
俺が先生と呼べば、『どうしたんだい?』ってTVを観てても本を読んでいても、作業中でも手を止めてこっちを向いてくれる。
穏やかな物腰をしていて、怖くない大人。
そばにいてくれると安心をくれる、 俺の憧れる人が新野先生だ。
でも"俊哉"さんは……
* *
「せんせい…?」
なんで朝っぱらからこんなことになったのかは分からないけど、「ちょっとジョギング行ってくる」と眠っていた先生に声をかけた瞬間、腕を引かれそのままベッドの中に引き摺り込まれてしまった。
「なぁ、さっきからくすぐったいんだけど…」
ーーーまるで犬だ。
マウントをとっているかのように番いである先生にうつ伏せに押し倒されて、急所である頸のあたりをくんくんと嗅がれていた。
…でもこれはαの生理現象だと教わっていた。
Ωがαを求めるように、αも番いであるΩの匂いに安心する。
特に先生は寝起きが悪く、夜更かしをすると本能に敏感になるみたいだ。
「んだよ、今日も寝ぼけてんの?」
じっと大人しくして先生の気が済むのを待っていた。
なのに、
「ひあ!?ちょ、…っ!」
いつも通り解放されて終わると思っていたのに、ゆっくりと服の中へ滑り込んできた大きな手に慌てた。
脇腹のあたりを撫でるように触られるとくすぐったいのに甘い愛撫を感じてゾクゾクしてしまう。
「ゃ…、あ…っ」
なんで?
いまは発情期じゃないのに、先生はそういう気分なのか?それなら、このまま身を委ねてた方がいいのか…?
「っ、せ、せんせ…?なに…?」
「………」
「ーーーー、!?や、待って!いやだってば!!」
ハァー…と頸を噛まれそうな気配にたまらず大声を上げたところで動きを止めてくれたけど、俺の動揺は消えない。
「なんで…っ、なんで怒ってんだよ…?」
気に触るようなことをしてしまったんだろうか?
無言のままの番いが怖くて悲しくて、それで涙が出そうになる自分が情けない。
「におい、ちょっと出てる」
「へ?」
「悪い子だね、俺だけの匂いを外に撒き散らそうだなんて」
「……!」
勿論そんなつもりなんてないのに番いに叱られてショックを受けてしまう。
体調だって普段とおんなじだし、俺の匂いは番い契約をした時からこの人だけのものになったから二度と他のαを誘うこともない。でも、だからといってフェロモンが漏れているのに外を出歩くなんて冗談じゃない。
「よ、抑制剤…ちゃんと飲む」
「ダメだ、外はともかくこの家で君の匂いを隠すなんて。それに君には必要ないものだろ?」
「うん…そうだけど…」
フェロモンを漏らさないよう抑え込む抑制剤には副作用が伴う。
俺はそこまで酷い副作用はなかったから服用は続けたかったけど、"一緒に暮らしてる番いがいるのに薬を頼るのか"と不満げに叱られた。
「ごめんなさい…」
「必要なものがあったら後で俺が買いに行くから、今日は家から出ないで」
「ひぁ、…っ、ぁ…わかった」
耳元で囁かれ、ちゅうと弱い頸にキスをされると望んでないのに勝手に体の奥が熱くなる。
(ずっと忙しくて仕事部屋に篭りっきりだったのに、今日はずっと俺といてくれるのか…?)
目の前の番いはそんなこと言ってないのに……分かってしまう、なにより俺が一番期待している。
俺の中には、優しい言葉だけじゃどうしても足りない部分があった。
「唯」
いま、俺が求めているヒトは"先生"じゃない
番いが、ほしい……
「ここにいるから、許して、俊哉さん…っ」
end
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