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【番いのαから逃げたい話】
運命の君へ②
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唯が世間体を気にしないよう教師は辞めた。
そして一番の懸念は唯の母親であったが、それも唯を番いにした翌日にはこっそり話しをつけておいた。拍子抜けしてしまうほど新野の手土産を喜んだ唯の母親は、その後の茶番劇に付き合ってくれたほどに…。
それが済むと利害関係にある婚約者をどうするかが残されたが、元より親同士が勝手に決めたことで結婚などする気のない関係だ。
しかし簡単に解消できるような話でもない上に、新野の意図せぬところで知られる可能性もある。下手に隠すよりは… と誠実さをアピールしたつもりが、唯が激しく新野の"番い”であることを拒絶する要因になってしまった。
その辺りはおいおい話をつける必要がありそうだ。
(俺だって君を苦しめたいわけじゃないんだよ…)
新野が思っていたよりも母親に存在を否定され、長年追い込まれていた番いの心は未熟で不安定だった。
今は… ある程度のストレスは必要であっても、出来るなら自分のことを汚いだの余計な存在などと思ってもらいたくもない。
「君は誰の目を気にすることなく、堕ちておいで」
天国でも地獄でも
どんな底であっても、必ず受け止めてあげる
こうして順調な月が流れ、唯が番い解消を強行しようとした一件から半年が過ぎようとしていた。
有難いにもこのご時世、在宅ワークの求人はゴロゴロあった。
新野は仕事部屋とプライベート空間を切り離し、打ち合わせや現場に行く必要がある日以外のほとんどを唯といるマンションで過ごした。
「まだ寝ないのか?」
その声で時計を見れば深夜一時を過ぎていた。
今夜も新野の様子を見に来ては飲み物や夜食を届けてくれる健気な番いだ。
「うん、あと一時間で終わるかな」
「それで昨日も遅くまで仕事してたじゃん。ここ最近は朝も打ち合わせがあって早いし…」
「唯くん?」
「……あ、αでも、寝不足はよくないって聞いた」
珍しく拗ねたような言い方だ。
この程度もっと不規則だった教員生活に比べればなんともないのだが、体調を心配しての声を無碍にはしたくない。
なにより番いが可愛すぎた。唯は真剣に新野を心配して、一緒に寝ようと誘っているのだ。
急ぎの案件とはいえチェックは明日でも問題ないだろう…
「訂正。あと二十分で片付けるよ」
「…ん、分かった。待ってる」
唯は寝室で待つと仕事部屋を出て行った。
(相変わらず可愛い誘い方だ)
もちろん性的ではなく、……番いにそばにいてもらいたい気持ちだ。
いまの唯は、学校に通えなくなったΩに向けたオンラインの通信制高校で授業やテストをして過ごす。外出するのもドラッグストアかスーパーへの買い物、朝のランニングくらいだ。
二度と望まない、売りをしなくていい
母親からの罵倒もない。
唯を縛り付けていたストレスなどはない。
ようやく訪れた平凡で平穏な日々……
すっかり絆されていたのは自分の方だったと気付かされたのは、
近所のスーパーで唯に仕込んでいたGPSの反応が消えてからだった…
スマホの情報は削除されていた。
追跡をしようものなら北海道から沖縄、さらには海外まで信号が複数でてくる始末に気が遠くなった。
あ゛ぁ~と悔しさから出る呻き声を上げながらギシッと深く椅子に持たれる。
(やられた…)
誘拐にしては高度過ぎる手口には心当たりしかない。
今さら探しに行っても遅い。
どうせ鼻っから唯はスーパーになど行ってない。
「………唯に手を貸したのには驚いたよ。どうせハッキングしてるんだ、君は聞いてるんだろ?」
天を仰ぎ暗い声でチラッとパソコンを睨みつけた。
自分だって好きな"β"を振り回したいだけで婚約破棄を要求してこなかった性悪Ωの癖に、人の番いに手を出してくるとはいい度胸だ。
「ハッキングなんて、相変わらず君は手癖が悪いなぁ?だから相手したくないんだ」
応答がないのは無視だ。
問い詰めてたところで"私"が手を貸したという証拠を出せだの、婚約解消してやるから対価を払えと無茶な要求をしてくるはずだ。
けどもういい。唯が悲しむから未だ婚約破棄などせずに放置していただけの、とっくに潮時の関係だった。
「いいよ、唯君。たくさん社会勉強しておいで」
今の仕事は出来高性だ、それを唯が不安に思うなら仕方がない。無職の甲斐性なしだと思ったら逃げたくもなる。
シンデレラストーリーよりも彼は現実主義のようだから、ここらで自立できるアピールをしたいのかもしれない。
『準備が整うまで、この感情には蓋をしてあげる』。
そして君も思い知ったらいい
どれだけ足掻こうとも
運命からは逃げられないのだと…
・・・・・・・・・
あとがき
お付き合いありがとうございました。
以降は少し番外編を書きたいと思ってます.
ここまで読んでくださり感謝致します!
唯が世間体を気にしないよう教師は辞めた。
そして一番の懸念は唯の母親であったが、それも唯を番いにした翌日にはこっそり話しをつけておいた。拍子抜けしてしまうほど新野の手土産を喜んだ唯の母親は、その後の茶番劇に付き合ってくれたほどに…。
それが済むと利害関係にある婚約者をどうするかが残されたが、元より親同士が勝手に決めたことで結婚などする気のない関係だ。
しかし簡単に解消できるような話でもない上に、新野の意図せぬところで知られる可能性もある。下手に隠すよりは… と誠実さをアピールしたつもりが、唯が激しく新野の"番い”であることを拒絶する要因になってしまった。
その辺りはおいおい話をつける必要がありそうだ。
(俺だって君を苦しめたいわけじゃないんだよ…)
新野が思っていたよりも母親に存在を否定され、長年追い込まれていた番いの心は未熟で不安定だった。
今は… ある程度のストレスは必要であっても、出来るなら自分のことを汚いだの余計な存在などと思ってもらいたくもない。
「君は誰の目を気にすることなく、堕ちておいで」
天国でも地獄でも
どんな底であっても、必ず受け止めてあげる
こうして順調な月が流れ、唯が番い解消を強行しようとした一件から半年が過ぎようとしていた。
有難いにもこのご時世、在宅ワークの求人はゴロゴロあった。
新野は仕事部屋とプライベート空間を切り離し、打ち合わせや現場に行く必要がある日以外のほとんどを唯といるマンションで過ごした。
「まだ寝ないのか?」
その声で時計を見れば深夜一時を過ぎていた。
今夜も新野の様子を見に来ては飲み物や夜食を届けてくれる健気な番いだ。
「うん、あと一時間で終わるかな」
「それで昨日も遅くまで仕事してたじゃん。ここ最近は朝も打ち合わせがあって早いし…」
「唯くん?」
「……あ、αでも、寝不足はよくないって聞いた」
珍しく拗ねたような言い方だ。
この程度もっと不規則だった教員生活に比べればなんともないのだが、体調を心配しての声を無碍にはしたくない。
なにより番いが可愛すぎた。唯は真剣に新野を心配して、一緒に寝ようと誘っているのだ。
急ぎの案件とはいえチェックは明日でも問題ないだろう…
「訂正。あと二十分で片付けるよ」
「…ん、分かった。待ってる」
唯は寝室で待つと仕事部屋を出て行った。
(相変わらず可愛い誘い方だ)
もちろん性的ではなく、……番いにそばにいてもらいたい気持ちだ。
いまの唯は、学校に通えなくなったΩに向けたオンラインの通信制高校で授業やテストをして過ごす。外出するのもドラッグストアかスーパーへの買い物、朝のランニングくらいだ。
二度と望まない、売りをしなくていい
母親からの罵倒もない。
唯を縛り付けていたストレスなどはない。
ようやく訪れた平凡で平穏な日々……
すっかり絆されていたのは自分の方だったと気付かされたのは、
近所のスーパーで唯に仕込んでいたGPSの反応が消えてからだった…
スマホの情報は削除されていた。
追跡をしようものなら北海道から沖縄、さらには海外まで信号が複数でてくる始末に気が遠くなった。
あ゛ぁ~と悔しさから出る呻き声を上げながらギシッと深く椅子に持たれる。
(やられた…)
誘拐にしては高度過ぎる手口には心当たりしかない。
今さら探しに行っても遅い。
どうせ鼻っから唯はスーパーになど行ってない。
「………唯に手を貸したのには驚いたよ。どうせハッキングしてるんだ、君は聞いてるんだろ?」
天を仰ぎ暗い声でチラッとパソコンを睨みつけた。
自分だって好きな"β"を振り回したいだけで婚約破棄を要求してこなかった性悪Ωの癖に、人の番いに手を出してくるとはいい度胸だ。
「ハッキングなんて、相変わらず君は手癖が悪いなぁ?だから相手したくないんだ」
応答がないのは無視だ。
問い詰めてたところで"私"が手を貸したという証拠を出せだの、婚約解消してやるから対価を払えと無茶な要求をしてくるはずだ。
けどもういい。唯が悲しむから未だ婚約破棄などせずに放置していただけの、とっくに潮時の関係だった。
「いいよ、唯君。たくさん社会勉強しておいで」
今の仕事は出来高性だ、それを唯が不安に思うなら仕方がない。無職の甲斐性なしだと思ったら逃げたくもなる。
シンデレラストーリーよりも彼は現実主義のようだから、ここらで自立できるアピールをしたいのかもしれない。
『準備が整うまで、この感情には蓋をしてあげる』。
そして君も思い知ったらいい
どれだけ足掻こうとも
運命からは逃げられないのだと…
・・・・・・・・・
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お付き合いありがとうございました。
以降は少し番外編を書きたいと思ってます.
ここまで読んでくださり感謝致します!
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