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【番いのαから逃げたい話】
番い解消
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ドクドクと緊張から心臓の音がうるさい。
病院の白い廊下と天井、消毒液の臭い。
シンとした待合室に活気はなく、俺を含め誰もが黙ったまま俯いている。
(まるで精神科だな…)
行ったことはないけど案外近いものかもしれない。
だって周りにいる患者達の面持ちは重く暗い。その重苦しい空気が待合室は満ち溢れていた。
(みんな俺と似た境遇なのかな…)
勝手な妄想だ。けど、そんなことを考えてしまうのは単に仲間がいると思えば楽になれる気がしたからだ…
そんなことを考えながら、じっと地面を見つめて自分の名前が呼ばれるのを待っていた。
……どうして、こんなことになってしまったんだろう。
何度も繰り返し考えてしまう。ほんの二ヶ月前に自分の起こした一度きりの過ちを。
こんな取り返しがつかないことになるなんて………
(いいや、違うだろ)
希望はないが、"救済処置"はあった。
それが今日、俺が一人で訪れた都内でも数件しかない専門の病院。
【番い解消】の処置を受けること、だ。
ひょんな事故で、ある人が俺と"番い"なんてものになってしまった。
俺はそれを清算したかった。
わずかばかりの貯金でも頭金くらいにはなって本当に良かった…。
「八木唯さん。どうぞ、こちらへ」
「……はい」
ついに俺の順番がきた。
看護師に呼ばれるまま、小さな診察室へと入った。
* * *
「…… え?」
無事検査も終わり健康状態にも問題はないと診断された。
いよいよ今後のことを含め詳しい説明されるのかと思えば、医者から言われたのは『処置は出来ません。』の言葉だ。
「なっ、なんでですか!?」
驚きと怒りの混じる大声をあげた俺に医者は『落ち着いてください』と柔らかい声で宥めようとするが、全然納得ができない!!
ここまで来て一体どうして!?と混乱するばかりだ。
「っ、必要な書類は全部出したはずです」
「確かに揃っていましたが、αの印鑑が"番い届け"の際に出されたものとは違ったようです」
「は?」
Ωが勝手なことをしないよう設けられた"番い届け"。
――――けど、そんな筈がない!
念には念をと俺は金庫にあった控えまで確認して、”あの人”の印鑑を借りたんだ。
「ま、待ってください!そもそも記入例にはαの方は認印でもいいって書いてありましたが?」
「…………」
「ッなんで、どうして今になってそんなこと言うんです!?」
処置を受ける理由だってしっかり書いた。我ながら情けない内容だけど脱字や記入漏れがないように、これでもかってくらい見返したんだ。
一刻も早くって気持ちを我慢して、あんなに時間をかけて準備をしたのに…っ!
「八木さんの事情は痛いほどわかりました。今日のところは出来ませんが、次はパートナーの方と一緒に来ていただければ、」
「――――ふざけんな!!それができないから一人で来たんだろ!?」
怒りでワナワナと身体が震える、叶うなら壁を殴りつけたかった。
苦痛と怒りに歪んだ醜い顔。それで医者が首を縦に振ることはない。
「八木さんのように…とくに若いΩには多いんですよ。いきなり自分に番いができてどう接していけば良いのか分からないんですよね?どうですか?一度カウンセリングを受けてみませんか?」
「いらない…!カウンセリングするくらいなら、ちゃんと書類を確認してくれよっ!」
メールで事前相談したときは”八木さんの力になります。”、そんな風に俺を励ますような返事を寄越しておいて…!
はぁ…と聞こえた短い溜め息は、俺のものじゃなく同情と諦めないΩを見兼ねた医者だった。
「分かりませんか?偽装された同意書では無理だと言ってるんです」
「……っ!!」
涼しげな医者の顔にぞわっと背筋が震えた。
あぁどうして……、俺はもっと最初に気付かなかった。
目の前の医者は俺に処置をするつもりなんてなかった。
情緒不安定に陥ったΩに振り回されている、番いである”α”の力になろうとしていた。
それに気づいた時には遅い。
それからは必死だった。
「もう結構です、他を当たります」
俺がいくら言っても、待ってください!!と看護師たちに引き止められてしまった。
わかっている
なぜ、コイツらがそんなに必死なのか
だけど、俺だって必死なんだ
「いやだ、やめろっ…はな、せ!!」
廊下で半狂乱で叫ぶ俺を、誰も助けてはくれない
「近づくな!」と投げれるものは必死で投げた。
あの人が、…くる、呼ばれてしまう…!
あの人に見つかれば、全てが水の泡だ。
警備員に取り押さえられて医者から鎮静剤を打たれるまで床や壁、手当たり次第のものを引っ掻いて殴った
「安心してください。みんな、八木さんの味方です」
「いや、…、いや、だ…、」
いや、いやだ…、たすけて…
ぐにゃぐにゃ歪む視界に、必死で助けを求めた
「すぐパートナーが迎えに来てくれますよ」
最後に聞こえた絶望の台詞
遠い、誰かの声を聞きながら意識は闇に落ちた…
病院の白い廊下と天井、消毒液の臭い。
シンとした待合室に活気はなく、俺を含め誰もが黙ったまま俯いている。
(まるで精神科だな…)
行ったことはないけど案外近いものかもしれない。
だって周りにいる患者達の面持ちは重く暗い。その重苦しい空気が待合室は満ち溢れていた。
(みんな俺と似た境遇なのかな…)
勝手な妄想だ。けど、そんなことを考えてしまうのは単に仲間がいると思えば楽になれる気がしたからだ…
そんなことを考えながら、じっと地面を見つめて自分の名前が呼ばれるのを待っていた。
……どうして、こんなことになってしまったんだろう。
何度も繰り返し考えてしまう。ほんの二ヶ月前に自分の起こした一度きりの過ちを。
こんな取り返しがつかないことになるなんて………
(いいや、違うだろ)
希望はないが、"救済処置"はあった。
それが今日、俺が一人で訪れた都内でも数件しかない専門の病院。
【番い解消】の処置を受けること、だ。
ひょんな事故で、ある人が俺と"番い"なんてものになってしまった。
俺はそれを清算したかった。
わずかばかりの貯金でも頭金くらいにはなって本当に良かった…。
「八木唯さん。どうぞ、こちらへ」
「……はい」
ついに俺の順番がきた。
看護師に呼ばれるまま、小さな診察室へと入った。
* * *
「…… え?」
無事検査も終わり健康状態にも問題はないと診断された。
いよいよ今後のことを含め詳しい説明されるのかと思えば、医者から言われたのは『処置は出来ません。』の言葉だ。
「なっ、なんでですか!?」
驚きと怒りの混じる大声をあげた俺に医者は『落ち着いてください』と柔らかい声で宥めようとするが、全然納得ができない!!
ここまで来て一体どうして!?と混乱するばかりだ。
「っ、必要な書類は全部出したはずです」
「確かに揃っていましたが、αの印鑑が"番い届け"の際に出されたものとは違ったようです」
「は?」
Ωが勝手なことをしないよう設けられた"番い届け"。
――――けど、そんな筈がない!
念には念をと俺は金庫にあった控えまで確認して、”あの人”の印鑑を借りたんだ。
「ま、待ってください!そもそも記入例にはαの方は認印でもいいって書いてありましたが?」
「…………」
「ッなんで、どうして今になってそんなこと言うんです!?」
処置を受ける理由だってしっかり書いた。我ながら情けない内容だけど脱字や記入漏れがないように、これでもかってくらい見返したんだ。
一刻も早くって気持ちを我慢して、あんなに時間をかけて準備をしたのに…っ!
「八木さんの事情は痛いほどわかりました。今日のところは出来ませんが、次はパートナーの方と一緒に来ていただければ、」
「――――ふざけんな!!それができないから一人で来たんだろ!?」
怒りでワナワナと身体が震える、叶うなら壁を殴りつけたかった。
苦痛と怒りに歪んだ醜い顔。それで医者が首を縦に振ることはない。
「八木さんのように…とくに若いΩには多いんですよ。いきなり自分に番いができてどう接していけば良いのか分からないんですよね?どうですか?一度カウンセリングを受けてみませんか?」
「いらない…!カウンセリングするくらいなら、ちゃんと書類を確認してくれよっ!」
メールで事前相談したときは”八木さんの力になります。”、そんな風に俺を励ますような返事を寄越しておいて…!
はぁ…と聞こえた短い溜め息は、俺のものじゃなく同情と諦めないΩを見兼ねた医者だった。
「分かりませんか?偽装された同意書では無理だと言ってるんです」
「……っ!!」
涼しげな医者の顔にぞわっと背筋が震えた。
あぁどうして……、俺はもっと最初に気付かなかった。
目の前の医者は俺に処置をするつもりなんてなかった。
情緒不安定に陥ったΩに振り回されている、番いである”α”の力になろうとしていた。
それに気づいた時には遅い。
それからは必死だった。
「もう結構です、他を当たります」
俺がいくら言っても、待ってください!!と看護師たちに引き止められてしまった。
わかっている
なぜ、コイツらがそんなに必死なのか
だけど、俺だって必死なんだ
「いやだ、やめろっ…はな、せ!!」
廊下で半狂乱で叫ぶ俺を、誰も助けてはくれない
「近づくな!」と投げれるものは必死で投げた。
あの人が、…くる、呼ばれてしまう…!
あの人に見つかれば、全てが水の泡だ。
警備員に取り押さえられて医者から鎮静剤を打たれるまで床や壁、手当たり次第のものを引っ掻いて殴った
「安心してください。みんな、八木さんの味方です」
「いや、…、いや、だ…、」
いや、いやだ…、たすけて…
ぐにゃぐにゃ歪む視界に、必死で助けを求めた
「すぐパートナーが迎えに来てくれますよ」
最後に聞こえた絶望の台詞
遠い、誰かの声を聞きながら意識は闇に落ちた…
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