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837. 城内侵入5

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城内は誠一が思っていたほど
殺伐とした雰囲気ではなかった。
先の誠一とヴェルのこけおどしの技による混乱が
生じているだけであった。

誠一たちの驚きと戸惑いをディプレは
感じたようであった。
「ここはおめでたい連中の集まりだ。
誰も本気で落城するなんぞ思ってない。
ジェミロ坊ちゃまの策とダンブル皇帝の力とやらを
妄信している連中の集まりだ」
ディプレはつまらなそうにブツブツと
何かを続けて呟いていた。
どうやら自分の献策を袖にされたことを
恨んでいるであった。
聞こえてくるディプレの策は実行されていれば、
王国軍もかなりの損耗を強いられたと誠一は感じた。
それは効果覿面であるが、地味であった。
ジェミロの策は派手で見栄えが良かった。
派手好きな貴族や諸将は地味な作業を厭い、
派手に勝つことを望んだ。
戦の最中であり、どちらの選択が正しかったかは
いまだ証明されていなかった。

「おい、そろそろ城の正門につくぞ。戻るなら、今だが」
落ち着きを取り戻したディプレは誠一を
極力視界にいれないように話した。
声が聞えるだけでも身体中に緊張が走り、
視界に映れば、発作が起きる恐れがあった。

誠一に代わり、シエンナが答えた。
「さっさと案内しないさいよ。
どうせここに集まった貴族どもは書物に
一片の興味もないでしょ」

「んんん、じゃあ何で書庫なんか作ってんだ」
ヴェルの最もな疑問にシエンナが吐き捨てる様に答えた。
「くだらない貴族のステータスのためよ。
せめて閲覧を望む人に公開でもすればいいけど、
手垢で価値が下がるとか言って死蔵させている訳。
ほんとにくだらない」

このままこの話題を続ければ、
どのようなとばっちりを受けるか恐ろしくなったヴェルは、
話を切り上げようと誠一に振った。
「そうだな。それは良くないよな。
それよりアル。急がないと不味いだろ」

誠一もヴェルの意図を汲んで、話題を逸らした。
「そうだね、さっさと用件を済ませよう」

どうも釈然としないシエンナだったが、
流石に優先順位を違えることはなかった。
誠一たちに促されたディプレは、城内に進んだ。

城内は戦中と思えない程、だらけていた。
誰も負けることなど露ほどにも思っていない様であった。

「ほんとうに戦をしてるのか」
周囲を警戒することが馬鹿らしくなったのか、
ヴェルが呆れた表情で城内を見回した。

悪趣味な鎧に身を包んだ男が
女を連れてディプレに近づいてきた。
「おおっこれはディプレ殿。
既に戦功を挙げて引き上げてきましたか」

「いえ、ジェミロ様にご紹介したい者を連れてきました」
ディプレは慇懃な態度で応じた。
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