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836. 城内侵入4

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「待てや、コラ。
敵兵と言えども仲間を見捨てて逃げるのは頂けねえな。
んんん、お前は確か」

「ヴェル、どうした?何か見つけた?」

誠一とヴェルを前に一人の男が急に叫び始めた。

「ぎゃあああ、アルフレート。
アルフレートが出た出た、ガアアアア」

「いやなにこれ。って、お前は、デュプレ」

叫びは更に大きくなり、悲痛になった。
聞こえる者全てにこの男がどれほどの酷い拷問を
受けたかをいやがうえにも想像させた。

「おいおい、マジかよ。戦う前からこれかよ」
ヴェルは呆れ気味であった。
どうやら鼻を垂らしながら泣き叫ぶおっさんに
憐憫の情は湧かなかったようだった。

誠一は冷たくデュプレに宣告した。
「貴様があの村で犯した罪は許せるものでない。
貴様も戦士なら覚悟を決めろ」

「ぴぎゃ。俺は死にたくない。
ひぎゃああ、何でもするから許してください」

誠一は静かにデュプレに近づいた。
近づくに連れて、ディプレの悲鳴は
高くなりその態度は哀れさを増した。
しかし、それに誠一は心を揺らされることはなかった。
不快気にディプレを見つめるだけであった。

「アル、ちょっと、待ちなさい」
キャロリーヌに声をかけられて、
誠一は足を止めて、振り向いた。

「アル、ただ罰を与えるだけじゃ、生ぬるいわよ。
この男を先頭に書庫、いや禁書庫に案内させれば
いいんじゃないのかな」

誠一もその有効性に気が付いた。
そのためにこの男を最大限に利用することにした。

「ディプレ、城の禁書庫に案内しろ。
書物の名は、ジェイロブ・ジェルミラの冒険譚外典だ」

ディプレはその場で口を半開きにて、呆けた顔をした。

「なんだよ、知っているのか?」
ヴェルがディプレの呆けた状態を不審に思ったようだった。

「ふへっ、知っているも何もあれは
読み物じゃないだろ。寝られない夜の睡眠薬のようなものだ。
読むに耐えない美辞麗句。
あんなゴミが欲しいのか。
ジェミロに頼めば、おまえらでも無料で入手できる」

誠一とヴェルは納得の表情であったが、
ただ一人、シエンナだけは不満そうであった。

「ふん、あれは冒険譚として、読めばそうでしょうけど、
文脈の端端に潜む情報を抜きだせば、
当時の色々な世情、風俗、文化、経済を
知ることができるわ。貴重な資料よ」

ディプレは鼻で笑った。そして、断言した。
「あほか。睡眠魔術への耐性でもつけたいのか。
無駄な時間だ」

いらっいらいら、そんな言葉がシエンナから
聞こえたように誠一は思った。
それは他の面々も同じだった。
何かを言い返そうとするシエンナをサリナが止めた。

「シエンナ、そのくらいにしときなよ。
さっさとこいつに案内させる方が先決でしょ」

「むっそれもそうね。ディプレ、さっさと案内しなさいよ」

ディプレは促されると、ここで殺されるより
ましと判断したのか、のろのろと城に向かって歩き始めた。
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