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804.不快2

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『ふん、安請け合いして後悔しないでね。
まあ、軟派なあなたなら、そう言うと思ったわ』

千晴の声や表情など誠一には分かるはずがなかったが、
何故か心に浮かび上がる千晴の言葉には
嫌味と皮肉がふんだんに含まれている様に感じられた。

真摯な表情は上手く保たれていたが、
ついつい誠一は千晴へ言ってしまった。

『千晴さん、今日はどうしたんですか?
何かあったなら、お話を聞きますよ』

『ふーん、そうやって上手く女の懐に潜り込む訳ね。
あんたに話しても文字通り話すだけ。
何の解決にもならないでしょう。
そもそもあんた、言っていることが本当なら
捻くれた虚栄心の強いボンボン学生でしょ。
社会人の大変さなんて分からないでしょうね。
温いバイトで小遣い稼いで適当に学生生活を過ごして、
最後に就職は親の世話になるって感じかな。
そっちの世界じゃ、女抱き放題みたいだけど、
こっちの世界じゃ、あんた童貞だったでしょ。
それどころか彼女の一人でもいたことあるの』

図星を突かれた誠一は何も言い返せなかった。
それだけでなく、不用意に反論しようものなら、
千晴がどのような行動を起こすか分からずに
誠一は不安だった。

『何とか言いなさいよ。このヘタレ。
プレーヤーの下す啓示の罰があんたに
通用しないことは分かってるわよ。
だけどねぇ、プレーヤーが『神々への反逆者」の称号を
得たキャラクターを従わせる方法は幾らでもネットで
検索すれば、出てくるもんなのよ』
誠一は背中に悪寒が走っていた。
千晴が本気なことは何故だが伝わって来た。

『そうねぇ、私が間断なく四六時中、
あんたの心に啓示ってやつを書き込んでたら、どうなる?
利口な誠一さんなら、分かるわよね」

何故か千晴が舌なめずりしながら、
顔を歪ませているように誠一には思えた。
そして、千晴の言わんとすることが理解できた。

啓示に抗う事による苦痛はないが、
常に心に啓示が湧いてくる。気の休む間がなかった。
それこそ、音声入力モードにされて、
適当な番組や映画の音声や雑踏の音を取り込まれれば、
誠一は自分の心が参ってしまいそうで恐ろしかった。

千晴にはそこまでの知恵が回っていない様なのが、
唯一の救いであった。

『千晴さん、そんなことをしていたら、
指が腱鞘炎になってしまいます』

『むっなによう。そんなの関係ないでしょ。
今は仕事も有休でお休み中だから、
常に書き込んでやるわよ』

なるほど恐らく千晴はあの件で今、会社を休んでいる訳か。
誠一は少し千晴の置かれた状況を理解した。

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