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766.南方戦役13

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「さて因縁のありそうな後方の野盗の類もだが、
我々はジェルミラ派に上手く嵌められたようだ。
さて、どうしたものかな。前門の虎後門の狼というやつだな」
柔らかい物言いだったが、マリアンヌの目は
笑っていなかった。

「それは違うぞ、マリ!前門の亀、後門の羊だ。
何を恐れる必要がある!
アルの指示通りに動けば、勝利は我らの手中にありだ!」

ヴェルが勢いよく叫んだ。
有難いことではあったが、誠一にはこの状況を
打破するような策は全く思い浮かばなかった。
ヴェルの勢いに乗せられた兵士たちが
期待を込めた目で誠一を見つめていた。

誠一は皆の視線を一身に浴びた。
そして、ヴェルの叫びを反芻した。

「王国が保護すべき民を守れ!
野盗どもを一兵たりとも逃すな。
城に籠るモレロン軍は、所詮、亀。
城門を開けて撃って出てくることはない。
後方の野盗を殲滅する。マリ、キャロ、
弓を得物にする兵と護衛で城兵を牽制して。
他は羊を狩る!」

 誠一は、野盗の群れに向かって動き出した。

「アル、ガイダロフは俺の獲物だぞ!
手を出すなよ。アミラ、お前もだからな」
先頭を走るヴェルが叫び、ハルバートをぶん回した。
ヴェルは直ぐにガイダロフと対峙した。

「あの時の仲間はどうした?
加勢させるなら、構わないぜ」
熱く叫ぶヴェルとは対照的に
冷たく低い声を響かせるガイダロフだった。
「大して成長もしていないガキが良く吠えるわ。
奴らは俺様の成長の糧になって散ったわ」
 
「本当にジェルミラ派ってのは、
胸糞悪い連中の集まりだな。
同族殺しでの経験値稼ぎかよ。
容赦せずに潰すぞ。
全てを焼切れ、ファイアスライサー」

流石に闇雲に突撃するような愚の骨頂を
起こさなかったヴェルの行動を見て、誠一はホッとした。
それも束の間、クラン『戦神に集いし英雄』の
メンバーと思わしき男が誠一の前に立ちはだかった。
明らかに他の野盗と動きが違っていた。

「クラン『戦神に集いし英雄』は
ダンブルに全面的に与することにしたんですね。
ふぅぅ、これで色々と考えず容赦なく倒せます」
旗幟が鮮明になった以上、王国に敵対するクランとして、
討伐の対象になるに違いないと誠一は判断した。

「ガイダロフの言う通りだな。
少しちやほやされて勘違いしてやがる。
串刺しにしてやるよ。3段突き」
柄に所狭しと書き込まれた魔術刻印が
輝きを増した長槍から寸分違わずに3度、
同じ軌跡を描いた突きが繰り出された。

誠一はその3度の突きを3度とも
7面メイスで叩き弾いた。

長槍を扱う男は何ら語らず話さずに誠一に向かって
突きを繰り出した。誠一は少し拍子抜けしてしまった。
今までなら敵がここで饒舌に語るはずであったが、
称号や技に頼らずに愚直に長槍の特徴を生かして
愚直に攻撃を繰り出してきた。
練度は到底、比較にならないが剣豪のように
修練を重ねた者にしか生み出せない技のキレを
誠一は感じていた。
それに対して誠一は片腕で7面メイスを
力任せに振り回すだけであった。
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