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759. 南方戦役6

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誠一は会見の後で直ぐにクランのメンバーを招集した。
既に使者2名はニコラの元へ向かっていた。

「わはははっ!アルフレート、大根役者だな。
笑いを抑えるのに精一杯で何もアドバイスできなかった」
開口一番、マリアンヌが笑い声を上げた。

「まあ、それは否定できないが、あの殺気で笑いが吹き飛んだな」
ロジェは苦笑していた。

「あれはだって」
キャロリーヌが弁明をしようと何かを
言おうとしたが、シエンナと被ってしまった。

「あれはちょっと」
シエンナも気づいて、言葉を噤んでしまった。

「まあ、それはもういいから。
それよりヴェル、大丈夫?少し休んだ方が」
誠一が笑った。しかし、隣にいるヴェルは青ざめたままだった。
トラウマを抉られたのかと誠一は心配した。

「いやまあ、大丈夫だが、どうするんだ、アル」

「一応、ニコラが所領と人質を差し出すならば、
受け入れるのがいいのかなと思っているよ。
だけど、反抗するなら、容赦しない。
こんなどうでもいい反乱を起こした輩に与する者たち、許せないよ」

クランのメンバーの反対もなく誠一は、
ゆっくりと軍をニコラの本拠地に向けて進めた。

晴天にも恵まれて、誠一たちはのんびりと行軍を続けていた。
しかし、そののんびりした雰囲気をぶち壊すような声が
軍の先頭から聞えて来た。その声の主は心の傷から復活したヴェルであった。

「まったくヴェルの奴は騒がしいな。サリナでも戻って来たかな」
陽光を全身に浴びる様に両手を大きく広げて、誠一は欠伸した。

そこへ血相を変えたヴェルがやってきた。その後にはサリナが続いていた。
「アル、とんでもないことになっちまてるぞ」

「ニコラ・モレロンが殺されているかもしれない。
どうやら私たちに誼を通じようとしたことが
ジェミロに知られたらしい。
一族郎党らしき者たちが皆殺しにされて、
城の前で串刺しにされている」

電光石火、その言葉が相応しい程の動きであった。
思い当たる節は一つしかなかった。

「あの二人のうち、どちらかがジェミロの間諜だったか
ジェミロに内応したってことか」
誠一は臍を噛んだ。気付ける機会はいくらでもあった。
しかし、そこへ誠一は気が回らなかった。

「アル、悔しい気持ちも分かるけど、どうするの?
このまま進軍してモレロン領を落とすの?
それとも一旦、撤退する?」

敵将も敵兵数も不明。
その上、敵にはこちらの進軍ルートから兵の編成まで筒抜けであった。

不利を承知で誠一は決断した。

「進軍して、モレロン領をジェミロから解放する」

「それでこそアルだ!」
ヴェルが吠える傍らで、マリアンヌが眉を顰めて、
誠一にその意図を尋ねた。

「ジェミロの狙いは裏切り者を
容赦しないという恐怖で抑えつける事です。
それにニコラ男爵は体よく利用されたんです。
そして、ここで僕が引けば、ジェミロは、
大いに宣伝するでしょう。
アルフレート・フォン・エスターライヒに与しても
簡単に切り捨てられると」

大変良くできましたとばかりにマリアンヌが
わざとらしく拍手を誠一に送った。
「そうか世評を優先するということだな。
ここで破れようが兵士を損耗しようが、良しとする。
その認識でいいな」

誠一は鼻白んだ。面と向かって、評判のために
兵を死地へ送ることへの決断を迫られた気分であった。
誠一は何も言葉にできなかった。
何を話しても詭弁にしか受け取られないような気がした。

誠一は、ただ頷くだけだった。
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