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753.周辺地域の情勢4
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グリーンシティの主城の執務室でバリーシャは
採決すべき大量の書類を前ににんまりとしていた。
普段ならば、山積みの書類を前にげっそりとした顔つきで
嫌々と執務を執っているバリーシャであった。
満面の笑みを零すバリーシャの前で
戦況を報告する宰相はどうにも嫌な予感しかしなかった。
ここが女王の執務室でなければ、
絶世の美女であるバリーシャの笑みに
宰相は高い価値を感じていたであろう。
「そうかそうか、宰相、報告、ご苦労であった。
戦況が落ち着いている上に余剰兵力はないといったところか。
しばらくは散発的な小競り合いか睨み合いが続くという訳だな」
「その通りかと。
反乱軍は未だ兵力回復の見込みが
いまだに立っていない模様であります」
上機嫌で聞き入るバリーシャを宰相は警戒した。
こんな時はどうも碌でもないことを企んでいるに
違いないと彼の経験と本能が訴えていた。
「それは我が方も同じだろう。
兵を率いる将が不足している。だがまあ、宰相よ。
近いうちに大きな動きがある。備えておけよ」
宰相の頭に一人の青年の顔が思い浮かんだ。
アルフレート・フォン・エスターライヒ、
こいつが何かに関わると面倒事が起きるという先入観が
宰相にあった。
今は、戦略的に左程、重要でないジェルミラ領の攻略に
向かわせているはずであった。
その地域の攻略は後回しにしても良かったが、
アルフレートが希望したために勝手にやらせていた。
あの程度の兵力ではどうにもなるまいと
宰相は高を括っていた。
「そうそう丁度、良かった。
アルフレートがジェルミラ領の重要な拠点の一つである
ジェミロの居城を落としたそうだ。
それで防衛・侵攻のための兵を無心してきたんだよ。
丁度、ファブリッツィオとラムデールが空いていたから
合流させることにした」
宰相は口をあんぐりと開けて、
一瞬、アホっぽい表情をしてしまった。
初めて知る情報であった。
宰相の目へ女王にあるまじき態度で
げらげらと笑うバリーシャが映ると、直ぐに持ち直した。
「そ、それは重畳。
しかしながら、あの両名は将来、
我がヴェルトゥール王国軍の中枢を担う人材。
辺境の攻略よりも最前線で鍛えるべきかと」
「なるさ。賊将ジェイコブのジェルミラ領を中心として、
比較的落ち着いていた南方がこれから荒れるぞ」
比較的、安定しており税収の要となっている南方の動乱。
敢えて乱を好む女王に宰相は深いため息をついた。
「宰相、言いたいことは分かっているが、
いつかやらねばならぬことだ。
我らの代で終わらせて、次代に繋ぐ礎にすればいいだろう」
宰相は自分より遥かに永く生きるであろうバリーシャを見つめた。
「その結末は幽世で伺いましょう」
「そうだな。茶菓子を用意して待っていよ」
宰相は執務室を後にすると、直ぐに部下を呼び、
ジェルミラ領に関する情報を逐一報告する様に伝えた。
ヴェルトゥール王国を襲った動乱の中心は
北関から南方に移る様相となり始めていた。
採決すべき大量の書類を前ににんまりとしていた。
普段ならば、山積みの書類を前にげっそりとした顔つきで
嫌々と執務を執っているバリーシャであった。
満面の笑みを零すバリーシャの前で
戦況を報告する宰相はどうにも嫌な予感しかしなかった。
ここが女王の執務室でなければ、
絶世の美女であるバリーシャの笑みに
宰相は高い価値を感じていたであろう。
「そうかそうか、宰相、報告、ご苦労であった。
戦況が落ち着いている上に余剰兵力はないといったところか。
しばらくは散発的な小競り合いか睨み合いが続くという訳だな」
「その通りかと。
反乱軍は未だ兵力回復の見込みが
いまだに立っていない模様であります」
上機嫌で聞き入るバリーシャを宰相は警戒した。
こんな時はどうも碌でもないことを企んでいるに
違いないと彼の経験と本能が訴えていた。
「それは我が方も同じだろう。
兵を率いる将が不足している。だがまあ、宰相よ。
近いうちに大きな動きがある。備えておけよ」
宰相の頭に一人の青年の顔が思い浮かんだ。
アルフレート・フォン・エスターライヒ、
こいつが何かに関わると面倒事が起きるという先入観が
宰相にあった。
今は、戦略的に左程、重要でないジェルミラ領の攻略に
向かわせているはずであった。
その地域の攻略は後回しにしても良かったが、
アルフレートが希望したために勝手にやらせていた。
あの程度の兵力ではどうにもなるまいと
宰相は高を括っていた。
「そうそう丁度、良かった。
アルフレートがジェルミラ領の重要な拠点の一つである
ジェミロの居城を落としたそうだ。
それで防衛・侵攻のための兵を無心してきたんだよ。
丁度、ファブリッツィオとラムデールが空いていたから
合流させることにした」
宰相は口をあんぐりと開けて、
一瞬、アホっぽい表情をしてしまった。
初めて知る情報であった。
宰相の目へ女王にあるまじき態度で
げらげらと笑うバリーシャが映ると、直ぐに持ち直した。
「そ、それは重畳。
しかしながら、あの両名は将来、
我がヴェルトゥール王国軍の中枢を担う人材。
辺境の攻略よりも最前線で鍛えるべきかと」
「なるさ。賊将ジェイコブのジェルミラ領を中心として、
比較的落ち着いていた南方がこれから荒れるぞ」
比較的、安定しており税収の要となっている南方の動乱。
敢えて乱を好む女王に宰相は深いため息をついた。
「宰相、言いたいことは分かっているが、
いつかやらねばならぬことだ。
我らの代で終わらせて、次代に繋ぐ礎にすればいいだろう」
宰相は自分より遥かに永く生きるであろうバリーシャを見つめた。
「その結末は幽世で伺いましょう」
「そうだな。茶菓子を用意して待っていよ」
宰相は執務室を後にすると、直ぐに部下を呼び、
ジェルミラ領に関する情報を逐一報告する様に伝えた。
ヴェルトゥール王国を襲った動乱の中心は
北関から南方に移る様相となり始めていた。
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