上 下
758 / 872

748 領土防衛戦17

しおりを挟む
「アルっ、鑑定をして!」

誠一の左腕を引っ張るシエンナによって
現実に引き戻された。
シエンナの意図は理解できたが、
アレを鑑定する度胸は今のところ誠一にはなかった。
首をフルフルと横に振った。

「アル、お願い。意識が僅かでも残っていたら
早く楽にしてあげないと。
意識がないなら、早く浄化してあげないと」

いや、それってやることは同じじゃね、
鑑定必要ないけどと思ったが、シエンナの気持ちを
誠一は汲み取ることにした。

「くそったれ」
誠一は意を決して、鑑定した。

『人造ゾンビ:クラスN(ノーマル)、
腐りかけの屍体・生への妄執のみで動いている・失敗作』

「シエンナ、もう人としての意識はない」

誠一はそれだけ伝えると顔を背けた。

「ファイヤー」

青白い顔のシエンナは炎の魔術を放った。
炎は屋敷に燃え移り、その勢いを増した。
その熱気と共に腐った肉の焼ける腐臭が漂い始めた。

「二人ともぼんやりしてないで、
さっさと逃げるわよ。火に巻き込まれるでしょ!
ってかいつまでも感傷に浸ってないで走りなさい」
サリナに叱咤されて、ようやく誠一とシエンナは動き出した。

「炎が全てを浄化してくれればいいのだけど」
シエンナは燃え広がる炎を眺めながら、走った。

屋敷を出ると、そこにはヴェルとアミラ、
そして雇った傭兵たちが集結していた。

「アル、さっさとここから、撤収するぞ。
どいつもこいつも突然、目が血走って、
訳わからんことを喚き立てて、
村人共が鋤や鍬を持って、襲って来やがった。
倒す訳にもいかず、何とかここまで来た」

「さっさと判断するです。
殺気立っているですが、のろのろとした動きで
こちらに向かって来てるです。
こんな状況だからデュプレまで連れて来ることが
出来なかったです」

ヴェルとアミラが交互に状況の説明をした。
誠一としても村人たちを殺傷する気にはなれなかった。

「僕らの拠点に戻ろう。
おそらくデュプレは村人たちに魔術かクスリを施して、
実験をしていたのだと思う。その禁断症状でしょう。
ジェルミラ派の拠点を潰せたし、
当初の目的は達成できた!みんな、急ぎ準備して」

誠一たちは村人たちを十分に引き離して、一息ついた。
空は雲に覆われ、夜空を彩る星々を覆い隠していた。
誠一たちが灯す松明や魔術により生み出された光が
暗闇を明るく照らしていた。

「アル、ちょっとこの暗闇でこの光だと、
居場所を教えているみたいだけど、大丈夫か?」
ヴェルが周囲を見渡していた。

「追手が迫ってくる気配はないし、
暗闇を移動して怪我するリスクは負いたくないな」

「まあ、アルがそう言うならいいけどよ。
しかし、マジでびびったぜ。
突然、ふらついていた村人が叫び出すと、
急に襲って来やがった。
何ていうか焦点があってないし、恐ろしかったな」

「アレはもう人としての真っ当な意識はないです。
人っぽい何かです」

相変わらず合いの手でヴェルとアミラが
交互に誠一へ話した。
示し合わせた訳でもない筈だが、2人の会話を繋げると、
さっきの状況を克明にイメージできた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠された第四皇女

山田ランチ
ファンタジー
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)

いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。 --------- 掲載は不定期になります。 追記 「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。 お知らせ カクヨム様でも掲載中です。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

病弱幼女は最強少女だった

如月花恋
ファンタジー
私は結菜(ゆいな) 一応…9歳なんだけど… 身長が全く伸びないっ!! 自分より年下の子に抜かされた!! ふぇぇん 私の身長伸びてよ~

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...