上 下
746 / 851

736.領土防衛戦5

しおりを挟む
「恐らく容易に落とせると思うし、
住民を搾取から解放したいと私個人は思う。
けど今の私たちの戦力だと、落としたこと自体が
重荷になるんじゃないかなと思って。
あの状態だと、こちらの持ち出しで食料を分けないと、
到底、やっていけそうにないし、自衛なんて絶対に無理。
兵士も柄が悪そうなのばかりで取り逃がしたら、
野盗を増やすだけで、今、雇われのままの方が
統率を取れているから幾分マシかもしれない。
最後はアルフレート次第だけどね」
サリナは言い終えると、最後の判断を誠一に委ねた。

想像以上の住民の惨状を耳に入れてしまった誠一は、
ここで退き返す選択肢が潰えてしまったような気がした。
状況を知りながらして、戻ったという噂が広まったときのことを
考えると、今後のジェイコブ領の経略に暗い影を
落としそうであった。悪い噂ほど早く広まるのは自明の理であった。

「占領後のことは後に考えよう。
一先ず、王国の住民を圧制から解放することを優先しよう」
誠一は皆に聞える様に宣誓した。
敵兵力はおよそ60名、雇われ兵が大半を占めており、
戦況の不利で一気に崩れることは容易に想像できた。

誠一は街道沿いに軍を進めた。
流石にこちらの動きを察知できない程の
アホウではなかったようで、自領の村の前に軍を展開して、
誠一たちを待ち受けていた。

「おいおい、アル。
あの雰囲気、ジェイコブ軍の伝統を
過不足なく受け継いでいる糞集団にしか見えないな。
スケードの姿を見ただけで一目散に逃散しそうだぞ、どうする?」
ヴェルの眼はここに居る誰よりも良かった。
その眼に映る敵軍は相当質の悪いものであった。
遠目に映る敵軍はそれなりに隊列を組んでいるであったが、
見るからにガラの悪そうな兵士達であった。
略奪、暴行といったことを厭わず嬉々として
やりそうな連中のようにしか見えなかった。
強きに弱く、弱きに強い、そんなジェイコブ軍の
伝統をきっちりと踏襲している集団にしか誠一の瞳にも
映らなかった。

「ひと当てしたら、それでお終いになりそうだね」

「それよりもアル。
何か陣の真ん中にいる偉そうな爺がわめいているけど」
ヴェルに促されて、誠一もその初老の男に眼を向けた。
確かに何かを喚いているが、遠すぎて誠一たちは
何を言っているのか聞き取れなかった。
何かしらの策略の恐れもあったが、誠一は軍を前進させた。
次第に喚き続ける男の声が聞える様になってきた。

「貴様らここから去れ。
ジェイコブ様に仕えて、やっとやっと手に入れた所領だぞ。
ここは儂の王国じゃ。何人たりともここに
足を踏み入れることは許されん」

「おまえらが王国の手先だということは
既に知れ渡っているぞ。
我が臣民は誰一人として王国の元に集うことはない。
儂を駆逐したところで無駄だ」

サリナが間の抜けたような表情になっていた。
「あいつ、何ってんの?
自分が民に敬愛されているとでも思っているのかよ」

やりたい放題してきて、民に好かれていると
思い込んでいる男の喚き声に誠一たちは呆れた気分になってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

目覚めた世界は異世界化? ~目が覚めたら十年後でした~

白い彗星
ファンタジー
十年という年月が、彼の中から奪われた。 目覚めた少年、達志が目にしたのは、自分が今までに見たことのない世界。見知らぬ景色、人ならざる者……まるで、ファンタジーの中の異世界のような世界が、あった。 今流行りの『異世界召喚』!? そう予想するが、衝撃の真実が明かされる! なんと達志は十年もの間眠り続け、その間に世界は魔法ありきのファンタジー世界になっていた!? 非日常が日常となった世界で、現実を生きていくことに。 大人になった幼なじみ、新しい仲間、そして…… 十年もの時間が流れた世界で、世界に取り残された達志。しかし彼は、それでも動き出した時間を手に、己の足を進めていく。 エブリスタで投稿していたものを、中身を手直しして投稿しなおしていきます! エブリスタ、小説家になろう、ノベルピア、カクヨムでも、投稿してます!

俺と幼女とエクスカリバー

鏡紫郎
ファンタジー
憧れた世界で人をやめ、彼女と出会い、そして俺は初めてあたりまえの恋におちた。 見知らぬ少女を助け死んだ俺こと明石徹(アカシトオル)は、中二病をこじらせ意気揚々と異世界転生を果たしたものの、目覚めるとなんと一本の「剣」になっていた。 最初の持ち主に使いものにならないという理由であっさりと捨てられ、途方に暮れる俺の目の前に現れたのは……なんと幼女!? しかもこの幼女俺を復讐のために使うとか言ってるし、でもでも意思疎通ができるのは彼女だけで……一体この先どうなっちゃうの!? 剣になった少年と無口な幼女の冒険譚、ここに開幕

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

第三王子に転生したけど、その国は滅亡直後だった

秋空碧
ファンタジー
人格の九割は、脳によって形作られているという。だが、裏を返せば、残りの一割は肉体とは別に存在することになる この世界に輪廻転生があるとして、人が前世の記憶を持っていないのは――

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

筋トレ民が魔法だらけの異世界に転移した結果

kuron
ファンタジー
いつもの様にジムでトレーニングに励む主人公。 自身の記録を更新した直後に目の前が真っ白になる、そして気づいた時には異世界転移していた。 魔法の世界で魔力無しチート無し?己の身体(筋肉)を駆使して異世界を生き残れ!

処理中です...