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736.領土防衛戦5
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「恐らく容易に落とせると思うし、
住民を搾取から解放したいと私個人は思う。
けど今の私たちの戦力だと、落としたこと自体が
重荷になるんじゃないかなと思って。
あの状態だと、こちらの持ち出しで食料を分けないと、
到底、やっていけそうにないし、自衛なんて絶対に無理。
兵士も柄が悪そうなのばかりで取り逃がしたら、
野盗を増やすだけで、今、雇われのままの方が
統率を取れているから幾分マシかもしれない。
最後はアルフレート次第だけどね」
サリナは言い終えると、最後の判断を誠一に委ねた。
想像以上の住民の惨状を耳に入れてしまった誠一は、
ここで退き返す選択肢が潰えてしまったような気がした。
状況を知りながらして、戻ったという噂が広まったときのことを
考えると、今後のジェイコブ領の経略に暗い影を
落としそうであった。悪い噂ほど早く広まるのは自明の理であった。
「占領後のことは後に考えよう。
一先ず、王国の住民を圧制から解放することを優先しよう」
誠一は皆に聞える様に宣誓した。
敵兵力はおよそ60名、雇われ兵が大半を占めており、
戦況の不利で一気に崩れることは容易に想像できた。
誠一は街道沿いに軍を進めた。
流石にこちらの動きを察知できない程の
アホウではなかったようで、自領の村の前に軍を展開して、
誠一たちを待ち受けていた。
「おいおい、アル。
あの雰囲気、ジェイコブ軍の伝統を
過不足なく受け継いでいる糞集団にしか見えないな。
スケードの姿を見ただけで一目散に逃散しそうだぞ、どうする?」
ヴェルの眼はここに居る誰よりも良かった。
その眼に映る敵軍は相当質の悪いものであった。
遠目に映る敵軍はそれなりに隊列を組んでいるであったが、
見るからにガラの悪そうな兵士達であった。
略奪、暴行といったことを厭わず嬉々として
やりそうな連中のようにしか見えなかった。
強きに弱く、弱きに強い、そんなジェイコブ軍の
伝統をきっちりと踏襲している集団にしか誠一の瞳にも
映らなかった。
「ひと当てしたら、それでお終いになりそうだね」
「それよりもアル。
何か陣の真ん中にいる偉そうな爺がわめいているけど」
ヴェルに促されて、誠一もその初老の男に眼を向けた。
確かに何かを喚いているが、遠すぎて誠一たちは
何を言っているのか聞き取れなかった。
何かしらの策略の恐れもあったが、誠一は軍を前進させた。
次第に喚き続ける男の声が聞える様になってきた。
「貴様らここから去れ。
ジェイコブ様に仕えて、やっとやっと手に入れた所領だぞ。
ここは儂の王国じゃ。何人たりともここに
足を踏み入れることは許されん」
「おまえらが王国の手先だということは
既に知れ渡っているぞ。
我が臣民は誰一人として王国の元に集うことはない。
儂を駆逐したところで無駄だ」
サリナが間の抜けたような表情になっていた。
「あいつ、何ってんの?
自分が民に敬愛されているとでも思っているのかよ」
やりたい放題してきて、民に好かれていると
思い込んでいる男の喚き声に誠一たちは呆れた気分になってしまった。
住民を搾取から解放したいと私個人は思う。
けど今の私たちの戦力だと、落としたこと自体が
重荷になるんじゃないかなと思って。
あの状態だと、こちらの持ち出しで食料を分けないと、
到底、やっていけそうにないし、自衛なんて絶対に無理。
兵士も柄が悪そうなのばかりで取り逃がしたら、
野盗を増やすだけで、今、雇われのままの方が
統率を取れているから幾分マシかもしれない。
最後はアルフレート次第だけどね」
サリナは言い終えると、最後の判断を誠一に委ねた。
想像以上の住民の惨状を耳に入れてしまった誠一は、
ここで退き返す選択肢が潰えてしまったような気がした。
状況を知りながらして、戻ったという噂が広まったときのことを
考えると、今後のジェイコブ領の経略に暗い影を
落としそうであった。悪い噂ほど早く広まるのは自明の理であった。
「占領後のことは後に考えよう。
一先ず、王国の住民を圧制から解放することを優先しよう」
誠一は皆に聞える様に宣誓した。
敵兵力はおよそ60名、雇われ兵が大半を占めており、
戦況の不利で一気に崩れることは容易に想像できた。
誠一は街道沿いに軍を進めた。
流石にこちらの動きを察知できない程の
アホウではなかったようで、自領の村の前に軍を展開して、
誠一たちを待ち受けていた。
「おいおい、アル。
あの雰囲気、ジェイコブ軍の伝統を
過不足なく受け継いでいる糞集団にしか見えないな。
スケードの姿を見ただけで一目散に逃散しそうだぞ、どうする?」
ヴェルの眼はここに居る誰よりも良かった。
その眼に映る敵軍は相当質の悪いものであった。
遠目に映る敵軍はそれなりに隊列を組んでいるであったが、
見るからにガラの悪そうな兵士達であった。
略奪、暴行といったことを厭わず嬉々として
やりそうな連中のようにしか見えなかった。
強きに弱く、弱きに強い、そんなジェイコブ軍の
伝統をきっちりと踏襲している集団にしか誠一の瞳にも
映らなかった。
「ひと当てしたら、それでお終いになりそうだね」
「それよりもアル。
何か陣の真ん中にいる偉そうな爺がわめいているけど」
ヴェルに促されて、誠一もその初老の男に眼を向けた。
確かに何かを喚いているが、遠すぎて誠一たちは
何を言っているのか聞き取れなかった。
何かしらの策略の恐れもあったが、誠一は軍を前進させた。
次第に喚き続ける男の声が聞える様になってきた。
「貴様らここから去れ。
ジェイコブ様に仕えて、やっとやっと手に入れた所領だぞ。
ここは儂の王国じゃ。何人たりともここに
足を踏み入れることは許されん」
「おまえらが王国の手先だということは
既に知れ渡っているぞ。
我が臣民は誰一人として王国の元に集うことはない。
儂を駆逐したところで無駄だ」
サリナが間の抜けたような表情になっていた。
「あいつ、何ってんの?
自分が民に敬愛されているとでも思っているのかよ」
やりたい放題してきて、民に好かれていると
思い込んでいる男の喚き声に誠一たちは呆れた気分になってしまった。
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