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671.氷竜16

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意識が朦朧としている氷竜にも誠一たちの
やり取りが聞えていた。
どうやら頸を刎ねるつもりだということを
氷竜は察する事ができた。
人間どもが雪を踏みつけながら、
頸回りに近づいてくる足音が聞えた。
いくつもの足音が聞こえてくる中で
一つだけ耳元に近づく足音が氷竜に聞えた。

「おい、老竜。聞こえているだろ、答えろ」

『ふん、遥かに目上の者に対する言葉遣いすら出来ぬ小僧に
応える言われはない』

「おまえ、このままじゃ死ぬぞ。
俺らのリーダーがお前の血をお望みだ」

青年の声は真に迫っていた。
人間どもが本気で殺すつもりであることは
その声から氷竜にも十分に察することができた。
遥か昔、若かりし頃の氷竜が生きることに
必死だった頃、死への感覚は鋭敏であった。
いつの頃か霊峰氷山の生態系の頂点に立つ存在になり、
長きの時が過ぎ、多くの感情、感覚が鈍くなっていった。
しかし、今の戦闘でいくつもの感覚や感情が
鮮明に浮かび蘇った。
そして、地に臥した今、死に対する恐怖も蘇っていた。
だが、その恐怖を決して氷竜は見せることはなかった。

「何か鈍いな。おまえ、マジで死ぬけど、いいのか?
まあ、それはお前が決めればいい。だが死ぬ前に教えてくれ。
この娘の竜の力を抑える方法だ、頼む」
へりくだって頭を下げる訳でもなく、
頭ごなしに強要する訳でもなく、青年は淡々と語った。
青年は、最後に軽く頭を下げた。

『くっくははははっ。所詮、人間など下賤で下衆な存在。
その姿形では愛想も尽きるというものか』

氷竜は自分の持つ人間像の通りに動く小物の願い事に満足した。

「くだらないやり取りで時間を費やすつもりはない。
知っているのか?それとも知らないのか?」

『おうおう、必死だな。貴様の命を救うために
身を挺して救った娘であってもそのなりでは、
交尾もままならないのだろう』
氷竜は死の間際にも関わらず最後に小物を煽り、
懊悩する姿を楽しもうとした。

「知らないなら別にいいわ。
エドワード陛下の騎乗する金色の竜に尋ねるだけだし。
動けない竜を狩るのは気が引けるが、用も済んだことだし、
そろそろ頸を飛ばすぞ。待たせて悪かったな、兄貴」
ヴェルはロジェに聞える様に大声を出した。
金色の竜という言葉を聞くと氷竜はじろりとヴェルを睨みつけた。

「そうか話は済んだか。ならば解体を始めるか」
ロジェはツヴァイヘンダーを何度も振り上げては
竜の頸に振り下ろした。
ツヴァイヘンダーが竜鱗を削る時、形状しがたい音が周囲に響いた。
「固いが何とかなりそうだな」

嫌な音は氷竜の耳元にも届いていた。
他人事のようにその金属を削る様な不快な音に氷竜は眉を顰めた。
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