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653.討伐依頼3

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「うおおっドラゴン退治だ。アル、燃えるな」
誠一は依頼を受けた後、一点、非常にまずいことに気づいた。
「なあ、ヴェル。依頼を受けたけど、アミラは大丈夫なのかな」

「あっ。やべっ。そのことなんも考えてなかった。
だけど、前にグロウさんが言ってたぞ。
悪さする竜は狩ってたって」
自信なさげなヴェルに誠一は少しも不安が解消されなかった。

「あーまったく。それよりよ。
先生が事ある毎に始末しているってのに
よくもまあ、湧いて出てくるよな。
アル、気づいているだろ」

「まあそうだね」
誠一はヴェルの視線の先の何の変哲もない男を見た。

「なあ、アル。千晴様にお願いして、何とかして貰えないのか」

誠一は、千晴にお願いする振りをして、
バッシュに啓示を下すか考えた。

「まあヴェル、もう少し待って。
千晴さんは今、神々の争いで少し疲れているからさ」

その言葉を聞いた途端にヴェルの顔が青ざめた。
「すまねえ、アル。俺が浅はかだった。
この固とは千晴様に内密に頼む」

「大した事ないから気にしないで。
それより氷竜の件が落ち着いたら、
バッシュの件もきっちりとしよう。
僕もいい加減、うんざりだよ」

誠一たちは、他のメンバーと合流すると、
武具の引き取りのためにラッセルの鍛冶屋に向かった。
 変わらずのぼろ小屋から怒鳴り合う声が聞えた。
怒声に混じり、元気の良い赤子の泣き声が聞こえた。

「アル、この声は!」
シエンナの声に緊張が走った。

「アル、これって」
ヴェルの声が低くなった。

「まあそうだろうね」
誠一がため息をついた。

「アル、ラッセルさんは何かしらの借金、
それとも事件に巻き込まれている?突入するわよね」
シエンナが誠一に決断を求めた。

「アル、まさかのまさかの事態だな。
ラッセルさんの師匠が来訪しているのかよ」
ヴェルが誠一に同意を求めた。

2人の意見はどちらも正しいように誠一には感じられた。
ラッセルの師匠のヨークとの間に何かしらの諍いが生じているのだろう。

「アルフレート、ぼんやりと考え事に耽ってないで、突入するわよ」
サリナが軽い身のこなしで動き出した。

誠一たちの目に映った工房にはヨーク、
ラッセル、カーリー、そして娘のラミが大金を目の前にして
言い争いをしていた。

「お持ち帰りください。これを頂くいわれがありません」
ラッセルが金の入った袋の受け取りを拒否した。

「黙って受け取っておけばいんだ」
テーブルの上に置いた袋を再び取ろうとしないヨークだった。

「これを受け取れば、アルフレートや
マリアンヌといった冒険者に武具を
卸した鍛冶師の師匠として宣伝する気だろう。
そんなもの容易に受け取れんわ」
辛辣なこと言って、受け取りを拒否するカーリーだった。
それに続き、ラッセルが補足した。
「それに今、困窮はしていません。
十分な報酬をアルフレート様より頂戴しています」

ヨークの表情が歪んだ。
ドアの開く音に気付き、その表情のままで振り向いた。
「なんじゃ、お前らか。今、取り込み中だ。改めて来い」
しかし、ヨークの視線は剣豪とマリアンヌに
固定されたまま、動かなかった。

誠一もヨークの視線がどこに向かっているかに気づいた。
まさかマリアンヌに一目ぼれなどといったしょうもない声が
誠一の後ろから聞えて来た。

「剣ですか」
誠一が呟いた。

「ラッセル、お前はあの二人の剣を見たのか?」

「いえ、拝見していません。
おいそれと見せて頂けるような代物ではないでしょうし」

ヨークは苦虫を噛み潰したような表情になってしまった。
「おまえはそれでいいのか!
今、ここに見れるチャンスがあるというのに」
そう言いながら、ふらふらと剣に憑かれたように
引き寄せられるようにヨークは誠一たちを押しのけて、
二人に近づいた。

てい、そんな声がすると、ばしゅっと
何かが叩かれて音が派手に響いた。
「ぎゃあ。貴様、何をする」

「良く知らないむさい男がふらふらと美男美女に
近づけば、当たり前であろう」
剣豪の手刀がヨークの頭を捉えたようだった。

「ふん、まあ良い。
それよりラッセル、その金はとっておけ、いいな」

ヨークはそのまま無言でよろよろと歩いて去っていった。
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