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641.神の名1

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どのくらい眠ったのだろうか、
誠一は目を覚ますと身体を起こして周囲を見渡した。
既に他のメンバーは起きているようだった。
キャロリーヌだけはすやすやと寝息をたてていた。

「寒いな」

洞窟内は薄暗かった。

吐く息は白く、空気は冷たかった。

誠一はぞっとした。
一つ間違えれば、洞窟での凍死を
経験していたかもしれないと思った。

「アル、おはよう。体調はどう?」
誠一に気づいたシエンナが声をかけた。

「おはよう、シエンナ。ヴェルたちはどこに?」

「むう。ヴェルたちは洞窟の少し先の方で
スノーウルフを狩っているわ」
物凄い不満げな表情のシエンナだった。

「うーん、よろしくないな。
あまりばらばらに行動するのは
不測の事態が生じたときに困るよ」

シエンナは誠一の意見に
我が意を得たとばかりに言葉を重ねた。
「でしょう。そう思うでしょ。
でもあの馬鹿が馬鹿が。
魔石が尽きたことを盾にごり押ししたのよ」

何となくその場の状況を想像して
誠一は笑ってしまった。
ヴェルはじっとしていることに飽きたのだろう。
それで屁理屈を付けて、魔獣を狩りに行くことを
ごり押ししたに違いなかった。
アミラは多分、魔石の欠乏を大仰に語るヴェルに
疑うことなく賛成したのだろう。
サリナを同行させたことは、うーん、シエンナの最後の抵抗だな。
暴走しないようにお目付け役として同行させたのだろう。

「流石にこれは頂けないな。
シエンナに何かあったら、
大変なことになってたかもしれないし」
これは久々にお説教確定だなと誠一は心に誓った。

そんな誠一の決意など預かり知らずに
ヴェルたちが意気揚々と戻って来た。

「おう、アル!起きたか。魔石はたんまりと入手できたぜ」

「暫く魔獣は近づかないです」

「まっ哨戒ついでにしてはちょっと狩り過ぎたと思うけど、
暫くゆっくりと休息できそうね」

嬉々として語る3人に誠一は年長者として
しっかりと言わねばと、改めて決意した。
「あのなぁヴェル」

誠一の浮かない表情にヴェルは気づいた。
「おい、アル。シエンナに何を言い含められたか
知らんけど、今回は俺に正義はあるっ!」
ヴェルが断言した。

「まさかと思うが、おまえ、俺がここで
じっとしていることに飽きて狩りに出かけたとか
思ってないよな」
ヴェルに図星を突かれた上に言い寄られて、
誠一はついついヴェルの視線から逃れてしまった。
誠一の目は泳いでいた。

「流石にそれはないぜ。
いくら俺だって場所を弁えて行動するぞ。
シエンナだってそれが分かっていたから
ぶう垂れながらも納得したんだぞ」

追い込まれる誠一。
アミラとサリナは誠一が何を言うかじっと見ていた。
確かにシエンナはヴェルが暇つぶしで
狩りに出たとは言っていなかった。
シエンナの雰囲気から何となく誠一が
勝手に思い違いしただけだった。
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